
西武栗山巧外野手(42)が30日に現役最後の打席に立った。感動のフィナーレを目撃した人々が、余韻とともに電車に揺られた。西武鉄道の池袋駅では、泊まり勤務の荒井郁男助役(57)が人の波を見送る。
「栗山選手が好きな職員、けっこういます。野球への真摯(しんし)な態度、早く球場に来てその姿を若手に見せたり。私も好きです」
栗山は引退を前に、こう口にした。
「ライオンズのファンって西武沿線の方が多いですよね。毎朝6時台から通勤電車で都心方面に向かうんですよね。息抜きができへんような方々が、ほんの時間ができた時に球場に来て、あいつ好きやなって選手を追いかける。僕らは息抜きの対象です。だから、他の人にできへんような考え方とか、生活の仕方をしていかなくちゃ」
西武鉄道では毎朝、7時半から8時半に池袋駅に到着する電車が一番混む。同社によるとラッシュの平均混雑率は133%。その混雑ぶりを、池袋駅営業係の鷲尾莉沙さん(24)は「皆さん、降りた時も殺気立ってるというか…。あの電車に乗ってきたらそうなるなって」とおもんぱかる。10両編成に約3000人が乗っている通勤電車も。池袋は世界3位の乗降客数がいるターミナル駅。池袋から各地へ乗り換えていく。
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西武鉄道ではここ数年、各駅が1選手ずつ「推し獅子」を決めている。池袋駅は栗山だ。引退が決まり、鷲尾さんを中心に企画を立案、実行してきた。乗客から栗山へのメッセージは300通を超えた。ファンが高揚感とともに引退試合へ迎えるよう、駅業務の傍らで心血を注いできた。
野球もチーム、鉄道もチーム。同社の木村有加広報部長(42)は、戦後初の女性運転士だ。「駅の到着時に極力揺れないように。お客さまのヒールのカツカツ音が鳴ってしまうと急ブレーキの負荷がかかっているような状況だって指導員からよく言われて」。慎重に慎重を期して満員電車を動かす。数千の命を預かる責任の重さに、最初は手が震える。運転席から卒業する日は誰だって泣く。
栗山の意識にずっとあった「満員電車で都心に向かう人」にも、鉄道側にも、いろいろなドラマがある。25年、西武の歴史が1つの節目を迎えたといえる。ユニホームを脱ぐ栗山は「僕、18歳で上京してから通勤電車って乗ったことないんですよ」と言う。
そこで普段、満員電車の現場に直面し、引退試合もスタンドで見届けた鷲尾さんに、栗山が今後満員電車に乗った時のためのアドバイスを、お節介ながら尋ねた。
「流れに身を任せる。自己主張しない。人の型にはまる。空気を確保する」
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鷲尾さん、迷いなく4つ挙げた。荒井助役も添える。
「周りを気にしない。自分の世界は少しはあっていいと思いますね」
9月、栗山巧の2学期の始まりだ。【金子真仁】
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