AIで月「400時間」「紙6000枚」削っても「そんな数字どうでもいい」 町工場が1億円規模のシステム内製で得たもの

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2026年09月10日 07:10  ITmedia ビジネスオンライン

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岡田研磨 専務取締役 岡田雄太氏(提供:岡田研磨)

 AIの進化は、製造業をはじめとする現場の業務オペレーションにも影響を及ぼしている。しかし、世の中に溢れるAI導入事例の多くは「○時間の業務削減」といった業務効率化の成果を示すものにとどまりがちだ。


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 こうしたAI活用の在り方に異論を唱えるのが、金沢市で建設機械部品などの精密加工を担う岡田研磨の専務取締役、岡田雄太氏だ。


 大手ITベンダーの富士通で営業職を経験し、2020年に同社へ入社した岡田氏は、自らAIとの対話を1500時間以上重ね、プログラミングの知識がほぼない状態から、社内システムをフルスクラッチで次々と内製してきた。今やそのシステム群は、同等のものを外部ベンダーに開発・運用を委託した場合、1億円規模の費用がかかるほどになっているという。


 月400〜500時間程度の作業時間を削減し、クライアントへの価格改定資料の作成時間を90%短縮。さらにペーパーレス化によって月間約6000枚の紙の使用量を削減した――AIで多くの定量的な成果を生み出しながらも、岡田氏はこう話す。


 「紙を何枚減らしたとか、作業時間を何時間削ったとか、このような数字は正直どうでもいいんです。それらはAIを使えば当たり前にできることで、目的ではありません」


 労働人口が減少する製造業において、岡田氏はどのような未来を見据えているのか。AI活用の戦略を聞いた。


●月「400時間」「紙6000枚」を削減 石川県の「町工場」は何をした?


 岡田氏が入社した2020年当時の岡田研磨は、紙の図面や検査記録で溢れていた。書類や図面を探すために現場の社員が動き回り、1〜2時間を費やすことも珍しくなかったという。


 岡田氏はまず、タブレットの導入やSlackの活用から着手した。事務所からの連絡を内線電話からチャットに変えたことで、現場の社員が機械を止めて電話口に走る必要がなくなった。紙の資料を探し回る必要もなくなった。現場の社員に「自分たちにとってメリットがある」と実感してもらうことが、テクノロジー活用を進める上での第一歩だったという。


 また、当初はノーコードツールを使って現場向けのアプリを開発していたが、その後、ChatGPTをはじめとする生成AIサービスが登場。岡田氏は多くの時間を費やしてAIを使ったコーディングを学び、現在ではClaude Codeを使って一からフルスクラッチで数々のアプリを生み出している。


 開発したアプリの一つが、現場での作業手順書(マニュアル)を作成するアプリ「ナレッジボード」だ。


 創業50年の歴史がありながら、同社には50件程度の手順書しか存在せず、その他の多くは、ベテラン社員の頭の中にしかない暗黙知だった。そこで、岡田氏は現場の社員がタブレットから簡単に手順書を作成できるアプリを開発した。さらに、作成した手順書をAIが自動で採点し、改善を提案する機能を組み込んだ。


 「手順書を作成すると、AIが『写真を増やしましょう』『重要ポイントの視認性を上げましょう』といった改善提案と100点満点で点数を出します。1点につき25円の報奨金を支給するインセンティブ設計にしました」


 100点満点なら2500円の報奨金となる。この仕組みを導入すると、1年足らずで290件もの手順書が現場主導で集まった。熟練工の頭の中にあったノウハウが会社の資産へと姿を変えた。デジタル化により自らの知見を可視化し、組織全体に循環させられるか。現場リーダーに求められる資質も変わりつつあるのだ。


●「最新AIを入れれば勝てる」は幻想? 自社でシステムを内製するワケ


 AIを活用して多くの成果を上げながらも、岡田氏は次のように強調する。


 「時間の削減やペーパーレス化は、AIを使えば当たり前にできることです。もちろん、生産性の向上や業務効率化は非常に大切ですし、意味のあることです。それを否定するつもりは全くありません。しかし、それらはAI活用の目的ではなく、私たちが最終的に目指すゴールではありません」


 岡田氏がAIを駆使して自作アプリの開発に取り組む最大の目的は「データの蓄積」だ。


 「今の時代、AIのモデル自体は、お金を払えばどの企業でも同じ性能のものが使えます。では、何で差別化されるのか。それは『AIにどれだけ自社の情報を渡せるか』です。渡す情報やデータの量と質によって、AIが発揮する力は大きく異なります。私はこの情報・データを『コンテキスト』(会社の記憶)と呼んでいます」


 良質な情報をAIに渡して的確な経営判断や改善施策を行う――そのためには、自社のデータを可能な限り自社でコントロールできる状態にしておくことが理想だ。


 世の中には勤怠管理システム、生産スケジューラー、品質管理システムなど、使い勝手のよいSaaSツールが無数に存在する。しかし、それぞれ異なる外部サービスを連携設計なしに導入すると、データが各システムに分散し、横断で活用しにくくなる。分断されたデータは、AIが横断的に分析しようとする際の障害となる。


 岡田研磨では、生産実績や設備の稼働状況、不良情報、勤怠管理などに関するアプリを内製し、データを同一のデータベース上でひも付けて管理している。


 「労務も製造も品質も、全てのコンテキストが同じ場所に集まっている状態こそが重要です。1年後、2年後に本気でAIを使おうとなったとき、自社にコンテキストがたまっている会社と、データが分断されていたり何もたまっていなかったりする会社とでは、決定的な差がつきます。データがない会社が最新のAIモデルを使っても、その真価を発揮できません」


●「どんぶり勘定」から脱却 蓄積データをAIで横断分析すると何が見えるのか


 土台となる情報の蓄積が進んだ岡田研磨は今、次なるフェーズへと足を踏み入れている。集まった膨大なデータをAIに分析させ、データ間の相関関係を探り、仮説を立てるクロス分析の運用だ。


 「例えば『この設備で不良が増えている場合、誰が作業していて、天候はどうだったか』といった異種のデータをAIに横断分析させ、課題の仮説を立てさせます。その仮説を基に経営陣は価格交渉や撤退、現場改善といった意思決定に集中できるようになります」


 中小製造業では、製品ごとの正確な原価や粗利を追えず「どんぶり勘定」に陥るケースもある。同社も例外ではなかったが、自社アプリで実績データを蓄積したことで、製品の品番ごとの粗利が可視化されつつある。


 「やればやるほど赤字になる製品が可視化されれば、値上げ交渉をするか撤退するかという経営判断を下せます。粗利率が何%改善したなどを語れるようになって初めて、AI導入の成果を数字で語る意義があると思います」


●AIを使い倒すべきは誰か 「現場」と「経営」の役割分担


 製造業のDX推進やAI活用と聞くと「現場の社員にもプログラミングや生成AIを学んでもらい、ボトムアップでアプリを開発すべきだ」という考え方もある。


 しかし、岡田氏の考えは逆だ。


 「持論にはなりますが、社内の誰もがアプリを作り始めると、データベースが分断され、かつてExcelの“野良マクロ”が大量発生したのと同じ混乱に陥ります。そのため、当社では社内でアプリを作れる人間は私と、ゼネラルマネジャーの2人だけで十分だと考えています」


 現場の社員がAIを使う場合、自分の目の前の業務を効率化する「部分最適」に陥りやすい。事業全体のデータ構造を俯瞰(ふかん)し、経営に必要な情報を蓄積するシステムを構築するために、経営層こそがAIを使い倒すべきだ。これが岡田氏の考えだ。


 岡田氏自身、プログラミング経験はなかったが、AIとの対話でスキルを学んだ。富士通では、インフラからセキュリティ、端末まで幅広く扱う営業を経験している。「総合的に会社にとって何が必要かを判断する知見は、富士通の営業職時代に培いました」と岡田氏は振り返る。ホワイトカラー職時代に養った視点が、現場のシステム設計に生きている。


 「経営に資するシステムを作るには、会社の構造全体を理解している経営層自らがAIを本気で学び、使いこなすしか道はありません。現場の社員は、私たちが作ったアプリを現場で使っているうちに『気付いたら無意識にAIを使っていた』という環境を作るのが理想で、経営側の役割だと思っています」


 AIを使わない企業は、単に現状維持にとどまっているのではなく、日々猛スピードで後退している――岡田氏は強い危機感を口にする。


 「中小企業にとって、今はものすごく大きなチャンスです。経営層の中に一人でもAIを本気で使いこなし、会社のコンテキストをためられる人がいれば、ものすごいスピードで成長できる時代なのですから」


 作業時間の削減という短期的な視点での成果で満足するのか。それとも「会社の記憶」を蓄積し、経営の変革を果たすのか。岡田研磨の挑戦は、AI時代における「現場」と「経営」の新たな関係を示している。



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