東横インのトイレが少し大きくなった たった数センチ、実は大仕事だった

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2026年09月12日 06:21  ITmedia ビジネスオンライン

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東横インが少しずつトイレを新しくしている

 ビジネスホテル大手・東横インの決算が“まずまず”である。2026年3月期の単独決算を見ると、税引き利益は前期比45%増の232億円に。宿泊客が増えたこともあって、稼働率は7年ぶりに8割を超えたのだ。


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 では、今期はどうか。2027年3月期の売上高は前期比2%増の1653億円を見込む一方、税引き利益は同34%減の153億円を予想している。利益が減少する理由として、さまざまな要因を挙げているが、個人的に気になっているのはトイレの交換費用である。


 「はあ、トイレだと? 『万博効果の反動』ではなく、トイレの交換費用ってどういうこと?」などと思われたかもしれないが、東横インでは約8万室(海外店舗を含む)のトイレを取り替えるために、30億円ほど使うというのだ。


 実は、東横インには長年の課題がある。それは“トイレが小さすぎる”問題だ。ネット上にも「女性専用? 便器が小さすぎるでしょ」「大柄な人には不向き! すぐに取り替えて」といったコメントが少なくない。


 ビジネスホテルのトイレは、一般的なサイズに比べて、ややコンパクトなモノが多い。客室のスペースは限られているので、ユニットバスもコンパクトになりやすい。となると、トイレもどうしても小さくなってしまうわけだが、同社はこの問題にメスを入れるというのだ。


 従来型のサイズは、46.6(幅)× 14.5(高さ)×49.0(奥行き)センチメートル。サイズを大きくすると、座り心地はどう変わるのか。トイレを替えてみて、どんなことが分かってきたのか。


 プロジェクトを担当している松岡好美(執行役・施設企画部長)さんに話を聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンライン編集部の土肥義則。


●トイレを入れ替える事情


土肥: 東横インでは、トイレを少しずつ入れ替えていますよね。客室は8万室ほどありますが、そのうち6637室(9月11日時点)に、新しいトイレを導入したそうで。このプロジェクトは2023年4月からスタートしていますが、そもそも、なぜトイレを入れ替えることにしたのでしょうか?


松岡: 以前から、お客さまより「トイレが狭くて使いづらい」といった声が寄せられていました。特に「便器が小さい」という意見が多くて、なんとかしなければいけないと考えていました。「じゃあ、大きいサイズにすれば?」と思われたかもしれませんが、話はそれほど簡単なものではありませんでした。


 便座を大きくするためには、便器も大きくしなければいけません。座り心地をよくするために便器を大きくしたいのですが、ユニットバスのサイズは決まっていますよね。便座を大きくすれば、フタも大きくなる。すると、フタを開けたときに洗面台に当たってしまい、最後まで開かないことがありました。


 じゃあ、どうしたのか。便器を少し斜めに設置することにしました。そうすると、角が丸いタイプの洗面台には問題なく設置できたのですが、四角いタイプの洗面台では、便器の角が当たってしまい、うまく設置できなかったんですよね。


 また、ユニットバスによっては、座った人の足がトイレットペーパーホルダーに当たってしまったり、空間が窮屈に感じられたり、清掃がしにくかったりすることが分かってきました。


土肥: で、どうしたのでしょうか?


松岡: 試作品を何度もつくって、ホテルのスタッフやお客さまに使ってもらって、感想を聞きました。実際に泊まってもらい、どこに不便を感じるのか。どうすればもっと使いやすくなるのか。便器から立ち上がったときに、どんな違和感があるのか。


 もちろん、男性と女性に使ってもらいました。また、背が高い人はどのように感じるのか、背が低い人は不便を感じないのか。6種類以上のトイレを試して、「これであれば、いけるのでは!」と判断して、全室での導入を決めました。


●新型トイレに座ってみた


土肥: 資料を見ると、旧型のサイズは46.6(幅)× 14.5(高さ)×49.0(奥行き)センチメートルで、新型は45.6(幅)×15.0(高さ)×53.0(奥行き)センチメートル。幅は少し小さくなりましたが、高さと奥行きは大きくなりました。


 ちょっと、旧型と新型を比べて、座ってみますね。(実際に座って)うーん、確かにちょっと狭いかな。ゆったり座れる感じではないですね。どうしても自宅や公衆トイレのサイズと比べてしまいますが、「狭くて狭くて、我慢できない」というほどではないかなと。


 次に、新型のトイレに座ってみますね。……あっ、これは違う! 座ったときの圧迫感がなく、ゆったりしている。一度、新しいモノに座ると、もう古いタイプのモノには座りたくない、と思っちゃいますね。え〜と、今回の取材は、実証実験を行っている「東横インの〇〇」に来ていますが、予約するときには、新型トイレがある〇〇号室に泊まりたいですね(笑)。


 ところで、どのトイレにするかを決める際に、最も苦労したのはどんな点だったのでしょうか?


松岡: ユニットバスという限られた空間の中で、お客さまがストレスなく利用できる空間を、どうつくっていけばいいのか。便器だけを大きくすると、洗面台や浴槽にも影響が出てくるんですよね。


 先ほど便器のフタを大きくすれば、洗面台に当たって……といった話をしましたが、トイレを大きくすると、今度は洗面台を使うときの立ち位置に影響が出て、かえって使いにくくなってしまう。「じゃあ、トイレを大きくして、洗面台を小さくすればいいのでは?」といった意見もありましたが、それで本当に使いやすくなるのか。


 また、浴槽に入ったとき、トイレが大きくなっても違和感がないのか。自由に動けるスペースが狭くなったら、使い勝手が悪くなるのではないか。そうなってはいけないので、全体のバランスをとることに最も苦労しました。


 こうした試行錯誤の結果、実証実験の店舗では、常連のお客さまから「以前よりトイレが使いやすくなった」「圧迫感がなく、広く感じる」といった声が聞かれるようになりました。


●サイホン式を導入


土肥: ふむふむ。快適性の向上につながっている、といったデータが出ているわけですね。ということは、トイレを替えるプロジェクトは「これにておしまい!」ということでしょうか?


松岡: いえいえ、まだまだやるべきことがたくさんありまして。当社には8万室ほどの客室があるので、部屋によって微妙にサイズが異なるんですよね。トイレのサイズが少し違うだけでも、さまざまなところに影響が出てくるかもしれません。


 排水に問題は起きないのか、取り付けに不具合はないのか。いろいろな問題が想定されるので、トイレをどうすべきかといった課題は、まだまだ残っているんですよね。


土肥: 新しいトイレのサイズが決まったので、臭いものにはフタをしたい……といった気分かもしれませんが、そういうわけにはいかないんですね。


松岡: 今回、変えたのはトイレのサイズだけではありません。水の流れにも工夫を加え、便器の中の水を「吸い込む力」で強く排水するサイホン式を採用しました。従来は水の力で押し流す方式でしたが、なぜサイホン式にしたのか。


 「せっかくトイレを替えるのであれば、環境に優しいモノにしたい」と考えました。東横インには約8万室あり、トイレも約8万台ある。1台当たりの節水量はわずかでも、8万台すべてで考えれば、大きな節水につながる。 そこで、サイホン式を導入しました。


●もう水に流したい


土肥: 今回、松岡さんはトイレを替えるプロジェクトに携わりましたが、担当する前と後で、トイレに対する考え方は変わりましたか?


松岡: 以前、私は支配人を務めていまして。そのころ、お客さまに「便器が小さいよね」とよく言われていました。そうした声を聞くたびに「大きくなればいいのになあ」「早く替えてくれないかなあ」と思っていました。


 実際に自分が携わってみると、「こんなに大変なことだったとは……」と驚きました。ここまで大変だとは、まったく想像していませんでした。


 この話を聞いたときは、「簡単に交換できるでしょ。入れ替えればいいだけなんだから」と思っていました。ところが、実際に担当してみると、トイレだけを見ていてはダメだと分かりました。数センチサイズを変えるだけでも、周囲に影響が出てくる。交換作業は、思っていたほど単純ではなかったんですよね。


土肥: なるほど。「トイレを替える」という仕事は、思っていた以上に奥が深いですね。今日のお話を聞いて、「替えるだけでしょ。簡単にできるでしょ」という考えは、もう水に流したいと思います(笑)。本日はありがとうございました。


(おわり)


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