
折りたためるディスプレイが試作品として登場したのはずいぶん昔のことだが、現在その用途はほぼスマートフォンである。折りたたみの方向としては、横折りと縦折りがあるが、横折りは展開すると大画面になるという方向性、縦折りは折りたたむと通常のスマホの半分の大きさになる方向性で製品化されている。
世間の注目はやはり大画面化できる横折りタイプで、現在日本で発売されているものに限れば、Samsung、Google、Motorola、ZTE、OPPOといったメーカーが製品を揃えている。すべてAndroidだ。そこにAppleがiPhoneで横折りモデルを発売したら、一気にブレイクするのではないかといわれてきた。
現地時間の9月9日、Appleはスペシャルイベントを開催し、同社初の折りたたみスマートフォン「iPhone Duo」を含む新製品を発表した。�埓泙蠏燭任△襦2診�も待たれていた待望の製品ではあるが、今回の製品発表では、日本のネット上で落胆する声も大きい。
理由はいうまでもなく、価格設定だ。最安の256GBモデルでも36万4800円、2TBの最高モデルでは57万4800円という価格設定は、「MacBook Pro」の現行モデルと大差ない。ネットでは「中古車が買える値段」とも揶揄されている。
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まあ車とスマホでは用途も欲しがるユーザー層も全く異なるところだが、言わんとしていることはわからないでもない。買える、買えないの話ではなく、「スマホの値段じゃねえだろ」というわけだ。
●価格の妥当性はあるか
通常Appleの新製品発表後は大抵お祭り騒ぎになるものだが、実は今回と似たような、市場の「シュンとした反応」を受け取ったことが過去にもある。2021年のiPad Pro発売の時だ。
ミニLEDを搭載した12.9インチモデルで、最大ストレージ、かつセルラーモデルを選択すると27万9800円にもなるということで、高パフォーマンスを叩き出した当時のM1搭載MacBookシリーズの価格を超えた。
この時は、スペック等を考えると価格設定はまあそうなりますよね的なところではあった。ただ、タブレットという製品の用途を考えると、Macより高い価格なりの価値があるのか、という点が疑問視されたわけである。
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しかし今回はスマートフォンだ。用途はタブレットに比べればかなり広く開拓されており、カメラとしてはもちろん、決済やセキュリティ認証などでも使用されている。SNSやプライベートなコミュニケーションの中心でもあり、テザリングで通信の中枢となったりもする。音楽再生や動画サービスのコンテンツ端末としても広く普及しており、コンテンツ制作側はもはやスマホを中心に据えるべく、コンテンツの作り方も変え始めている。
これまでは、高くても利便性が上がれば……ということで、フォルダブル型スマートフォンは多少高くても買う人はいる、という状況であった。現在日本で販売されている横折りスマホの中心価格は、30万円までは超えない程度の、20万円後半である。
日本ではおそらくこのあたりに、スマートフォンというデバイスに対する価値観の上限があったのだろう。しかしAppleはそうした肌感覚を楽々超えてきた。この価格設定に、新CEOジョン・ターナス氏への批判も起こり始めている。
米ドルでの価格を見ると、256GBモデルで1999ドル、2TBモデルで3199ドルということで、かつて円が強かった時代に思いを馳せれば、25万円から37万円ぐらいの範囲で収まったのではないだろうか。直近のレート、1ドル154円台で計算すれば、256GBモデルは約31万円程度となる。もう少し頑張って最低容量で30万円を切れば、風当たりもまた違っていただろう。
今回発表されたiPhoneシリーズの価格は、1ドル166円程度で換算されている。直近で最も円安だったのは、7月23日の1ドル163.99円で、それ以降為替市場は全体的に円高へ振れ始めている。Macの公式価格は今年発表のモデルでも1ドル156円程度で換算されており、現状の154円と比較しても妥当なレートだ。
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円高傾向が今後も続くかはまだ予想できないが、このまま一定期間円高の状態が続けば、今回のiPhoneの価格設定はどうなんだ、という批判は起きるだろう。
●「まだ買いどきではない」という可能性
9月8日に日本経済新聞が報じたところによれば、iPhone Duoは極めて厳格な品質管理基準が原因で、現時点で1日あたり数百台程度の生産量にとどまっているという。日本発売が同時発表のiPhone 18 Proより約1カ月遅い10月23日に設定されているのも、数が揃わないからという理由と合致する。製造を難しくしているのは、ディスプレイの折り目に関わるヒンジの設計だとされている。
実際にiPhone Duoが発表される前には、新しいiPhoneの折りたたみスマホは「折り目が全くない」など、過剰に誇張した噂が出回った。中には巧妙なフェイク動画も登場した。
確かに現状の折りたたみディスプレイには、まっすぐに伸ばした時にも折りたたみ部分に若干のたるみがある。真正面から見れば大きな歪みなどもなく、実用上は問題ないが、少し横から見れば映像に若干の歪みが生じる。そこを問題視する消費者も少なくない。
なのでAppleならきっとその問題を解決してくれる、という妙な期待感が出てきたのだろう。だがAppleは自社で製品パーツを製造しているわけではなく、世の中に存在しないパーツがAppleにはある、ということにはならない。Appleの強みは専用ハードウェアと専用OSの組み合わせによるシナジーと、現実的な落としどころという着地のうまさであり、ハードウェアの先進性で売る会社ではない。
ただ、折り目を目立たなくするために、難易度の高いヒンジ設計を行っているのは事実であり、この生産が軌道に乗るまでは時間がかかるだろう。その歩留まりの悪さが価格を押し上げたと考えるのには、無理なところはない。
ただ同時発表のiPhone 18 ProまでDUOと同水準のレートであるという点においては、納得いかないところである。6.3インチのiPhone 18 Proは、最安の256GBモデルで21万9800円、最高の2TBモデルで42万9800円。6.9インチモデルの18 Pro Maxは、最安の256GBモデルで23万9800円、最高の2TBモデルで44万9800円。メモリー危機の影響で価格が上がるのは仕方がないとしても、なぜ日本円のレート設定がここまで市場水準と離れているのか。
搭載カメラなどの機能を絞ることで価格を下げた無印のiPhone 18や、廉価モデルという位置づけの「e」モデルは、今秋の投入は見送られた。廉価モデルの「e」は、同じ番号でも大抵翌年の春前に投入されることが多い。よって同時に発表されなかったのは妥当である。またminiやPlusなど、同時発表でも発売だけ遅れた例はある。
だが番号のみのベースモデルが同時に発表されなかった例は、過去なかったように思う。両モデルの魅力は値ごろ感であるが、ターゲットプライスとしては、iPhone 18であれば16〜18万円前後、iPhone 18eが出るとすれば、12〜15万円前後が妥当なところだと予想する。現状のメモリー危機の中では、こうした現実的な価格で製品化することが難しかったのだろう。
もしかしたら来春に、iPhone 18の投入を計画しているのかもしれない。さすがに数字のみモデルは出ない……とは考えにくい。またeシリーズはメモリー危機を脱したタイミングになるのではないか。そう考えると、18eは見送られる可能性が高い。
●買い控え・シェアを落とす可能性
iPhone Duoは、本体の仕上げの良さやOS・アプリの挙動など、総合的に考えれば既存製品よりも高い水準にあるのは事実だ。本当に欲しい人であれば、為替レートを睨みながら、並行輸入で購入するという方法を検討するだろう。あるいは高値で下取りに出せるモデルを所有している人も、実質的な負担が減れば検討するかもしれない。
ただ利便性や生産性が上がったとしても、30数万円から50数万円のスマートフォンを電車内や飲み会の席でホイホイ取り出して使うかは、躊躇するところだ。落として破損する可能性や、盗難や強盗などの犯罪に巻き込まれる可能性を考えると、これまでのiPhoneとはちょっと違った慎重さが生まれるのではないだろうか。
もちろん知識のある人なら、アクティベーションロック等の方法により、盗難品が簡単に再利用できるわけではないと知っている。だがそんな知識もなく、単に欲しい、高く売れるだろうと思った輩に襲われて怪我をする可能性も否定できない。
総合的に見れば、iPhone Duoの販売数が折りたたみスマホ市場を牽引することにはならないと思われる。逆にiPhoneの線はもうないとして、これまで購入を躊躇していたAndroidの折りたたみスマホへユーザーが流れる可能性はある。「折りたたみスマホは高級品」というイメージが定着するだろう。
これで起こると考えられるのは2つ。今後Android勢は、折りたたみスマホは「貴族のスマホ」であり、歩留まりが悪くても高値を付ければリスクは解消できると考え、機能も価格も異次元化していくという方向性。
もう1つは、何らかの機能を落としてでも折りたたみスマホを低価格で提供すればメリットがあるとして、低水準化していくという方向性。
現在のメモリー危機が解消するのは、早くても27年後半だといわれている。ユーザーは、あと1年半ぐらいなんとか現状で耐え忍んで、メモリー危機を脱したタイミングでどんな機種が出るか見極めるという選択肢がある。これはスマホに限らず、PCでも同じだ。
現在スマホもPCも、AI機能をウリに商売したいと考えている。だがコンシューマー機器の価格を押し上げているのは、AI市場の旺盛なメモリー需要のせいだ。売りたい機能と、実際に売るものの間で、逆ザヤ状態が広がっている。
消費者は今、かつてないほど賢い選択が迫られている。
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