
F1第14戦スペインGPレビュー(後編)
◆レビュー前編>>
第14戦スペインGPの舞台「マドリンク」の観戦スタンドが深緑色に染まっていたのを見て、アストンマーティン・ホンダのフェルナンド・アロンソは驚いた。
「正直に言って、観客席がアストンマーティンのファンで埋め尽くされているのを見て驚いたよ。スタンド全体が緑色で、スペイン国旗や(アロンソの故郷)アストゥリアス州旗が掲げられていた。
僕らに競争力がないことを知っていても、彼らはエネルギーに満ちていて、このレースを楽しみにやって来てくれた。これは本当にすばらしいサプライズだ。彼らに感謝したいよ」
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オランダGPで今季2回目の入賞を果たしたとはいえ、アストンマーティン・ホンダとアロンソは低迷を続けている。
それでも、マドリンクに詰めかけた地元スペインの観衆がアロンソに期待していたのは、超高速のモンツァ(イタリアGP)よりも競争力を発揮し、あわよくば中団の上位で入賞を狙えたザントフォールト(オランダGP)のような戦いだったはずだ。
しかし、チームは慎重だった。
予選でQ3進出が狙えるかと聞かれたチーフトラックサイドオフィサー(CTO)のマイク・クラックは、浮き足立つ地元スペインのメディアを落ち着かせるように語った。
「地に足をつけていく必要がある。新しいサーキットだから、まずは走ってみて自分たちの状況を確認する必要がある。
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それに今シーズン、我々がQ1を突破したのはまだ1回しかない、ということも忘れてはならない。現時点でQ3進出を語るのは、いささか傲慢すぎるだろう。通常の予選では、そういうことになる。ライバルたちも強力だから、大きなサプライズを期待してはいない」
マドリンクは、モンツァほど極端なストレートの長さと全開率ではないものの、モナコのような低速サーキットでもない。
後半戦にスペック2エンジンを投入し、想定どおりの進歩を果たしたとはいえ、ホンダもまだライバルたちに追いついたわけではない。
車体も、大きく改善したとはいっても、まだ中団トップの速さはない。
つまり、理論的に考えてQ3──すなわち中団グループのトップを争うことなど、期待しようがないのだ。
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【僕らにとって今季最高の予選】
しかし、マドリンクはアストンマーティン・ホンダにとって、予想以上に厳しい週末となった。
初日の金曜は、アロンソがクラッチトラブルに見舞われて、FP2で貴重な20分を失った。テストプログラムに遅れが生じただけでなく、他車と走行タイミングがずれたことで、ソフトタイヤでのアタックも完遂できなかった。
土曜の予選では、アロンソの腕をもってしても18位。ランス・ストロールは水圧低下、つまり冷却水漏れで走行を取りやめざるを得なかった。
「トリッキーな週末だね。でも、FP1から予選までマシンを改善することができたと思うし、今のマシンのポテンシャルは最大限に引き出すことができたと思う。ウイリアムズから0.1秒差だし、今回はおそらく僕らにとって今季最高の予選だろう」(アロンソ)
バックストレートの最高速は、ライバルたちと同等の325km/hまで伸ばした。しかし、マドリンクはメインストレートとバックストレートだけではなく、セクター2やセクター3の高速コーナーが連続するセクションにも全開区間が潜んでいる。
こういった区間の加減速とディプロイメントにこそ、パワーユニットの差が出てしまった。
路面のグリップレベルが想定以上に高くなり、スロットル全開時間が長くなったことも、アストンマーティンとホンダにとっては不利な方向に働いてしまった。
「意外とグリップが高くて(アクセルを)踏んでいけたので、走り出しはシミュレーションで持ってきたエネルギーマネジメントをいろいろ調整しなければいけないという状況でした。セッション中に調整していく量は、想定していたよりも多かったですね。
FP1では『ストレートスピードがない』と言われ、そこに対するディプロイメント量が足りなくなっていたので、予選に向けて調整していきました。想定していたよりも大きな作業になりました」(ホンダ・折原伸太郎トラックサイド・ゼネラルマネジャー兼チーフエンジニア)
【実力不足を認めるホンダ折原GM】
決勝はウイリアムズのカルロス・サインツに抑え込まれる展開となり、12周目のターン5でアロンソと接触。マシンにダメージを負ったアロンソはリタイアすべきかチームと相談するほど、マシンの挙動に違和感を訴えていた。だが、脚回りの信頼性に問題がないことを確認すると、最後までマシンを走らせ続けることを決めた(トップから2周遅れの17位で完走)。
「マシンにダメージを負って大きく後れを取ってしまったが、地元のファンの人たちのために、アロンソはレースを最後まで走りきることを決意したんだ。そのことは讃えたいし、感謝の気持ちを伝えたい」(クラックCTO)
予選ではウイリアムズ勢とほぼ同等のペースだったが、決勝ではそれを上回るペースがあった。マシンにダメージがなければ、もう少し違ったレースができた可能性もあったはずだ。
目に見える結果には表れなかったものの、実質的な競争力としては、荒れた展開のなかで予選18位から9位入賞を果たしたオランダGPとほぼ同じだったとチームは言う。チーム分析では、予選で8〜10番目、決勝のレースペースで6〜8番目。それが一般的なサーキットにおける「アストンマーティン・ホンダの実力」だ。
「基本的には我々のパワーユニットは、ほかのパワーユニットサプライヤーに負けています。モンツァではその差が目立ちましたが、ここは目立ちづらいです。だけど、最下位であることに変わりはありませんし、こういうサーキットに来たから順列が変わるというわけでもありません。現状としては、このくらいの位置にならざるを得ないというところです」
ホンダの折原GMも、自分たちの実力不足を認める。
スペック2投入当初に苦戦したドライバビリティに関しては、過去2戦の経験をもとにさらに改良を進めたことで、スペック1と同等かそれ以上のレベルまで改善できたという。ドライバーたちもドライバビリティに関しては、もう不満を訴えていない。
パワーに関しても、今シーズンは時間的にも予算的にもこれ以上の大きなアップデートは投入できない。そんななかでも、可能なかぎり性能を引き上げていくため、努力を続けている。
【今後はQ3や入賞もさらに難しく......】
折原GMは続いて語る。
「今年はもう大きなアップデートはありませんが、キャリブレーション(最適化)の変更でパフォーマンスを向上させる余地はまだあると思っています。今週末もストレート車速を上げるための対策を投入して、非常に小さなゲインではありますが、まだ上げていけると思いますし、エネルギーマネジメントも最適化していけばもっと速くなる余地があります。
現状の我々の競争力では、こういうサーキットでもこういう位置に来てしまいます。それに対してできることをやって、もう少し上のポジションにいけるようにしていかなければならない。大きなゲインを期待することはできませんが、レースごとにパフォーマンス向上の努力は続けていくつもりです」
車体側も、今後は大きなアップデートの予定はなく、小さな改良と重量削減のみを進めていく。ハードウェアの変更ができないだけに、今シーズンはまだ長く苦しい戦いが続く。ストレート主体のサーキットでは下位に低迷するだろうし、そうではないサーキットでもQ3や入賞を狙うのは難しいかもしれない。
ただそれは、彼らがあきらめているというわけではない。自分たちが手にしているマシンパッケージの現状を受け止め、できるのは最大限に努力を重ねることだけだ。目先の結果よりも来年型マシンとパワーユニットでの飛躍を期すからこそ、茨(いばら)の道を選ぶ。
アロンソが地元の声援に応えるためにスペインGPを最後まで走りきったように、来季の躍進に寄せるファンの期待に応えるために、彼らは今シーズンを戦い続けていく。
米家峰起●取材・文 text by Mineoki Yoneya