
森士(元浦和学院野球部監督)×二宮裕次(漫画家)〜UNREAL TALK‼︎(前編)
野球漫画「BUNGO−ブンゴ−」で、中学球界の逸材たちの成長を描いてきた漫画家・二宮裕次氏と、浦和学院を率いて2013年春のセンバツを制した森士氏。数多くの野球現場を取材して作品に落とし込んできた漫画家と、長年にわたって高校生を育ててきた名将が、「選手の育成」をテーマに語り合った。高校によって異なるチームづくり、「勝てる投手」と「夢のある投手」の見極め方、成長途上の1年生をどう起用するのか。そして、中学最後の大会から高校入学までに生まれる"空白の7カ月"をどう過ごすべきなのか──。漫画で描く側と現場で育てる側、それぞれの視点から高校野球の育成を掘り下げる。
【学校によって育成の仕方は異なる】
二宮 昨年の春、浦和学院さんに取材させていただいたんです。今の桜花高校のグラウンドや監督室は浦学さん、そのまんまです。
森 そこは気づかなかったなぁ。
二宮 学校の入り口のモデルは國學院久我山さんで、室内練習場は東海大相模さんです。グラウンドが狭い久我山さんは工夫した練習をしているのが印象的で、相模さんはウエイトトレーニングでのパワーに圧倒されました。浦学さんは身体の大きい選手たちが最新の練習をしていて、これは無敵だと思いましたが、それでも大会で負けることがあるんですから、高校野球って本当に厳しいですね。
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森 監督を退いてからはほかの高校の練習を見る機会も増えました。いろいろと気づかされることもあって、あらためて勉強になりますよ。学校によって育成の仕方は間違いなく異なるんです。戦い方や選手の果たす役割、チームづくりの特徴はそれぞれありますから、チームをつくるための各校なりのマネジメント力ってあると思いました。
二宮 静央シニアの石浜文吾と野田幸雄が選んだ桜花は西東京ですが、鮎川瑛太は神奈川の翔西大翔西へ進学しました。この高校に行ったからこういう選手に育ったのかという、その高校ならではの特色はこの先、出てくるのかもしれません。
森 浦和学院のチームづくりはピッチャーを育てるところに特色があると思っています。私もピッチャー出身ですし、教え子たちもそれなりの成果をあげてくれました。だから素材的に上のレベルを目指すピッチャーがたくさん来てくれたんじゃないかと思いますね。
二宮 中学時代、どういうピッチャーに着眼するんですか。
森 私は"勝てるピッチャー"と"夢があるピッチャー"の両面を見ます。両方とも兼ね備えているピッチャーもいるんですよ。
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【中学での実績は伸びしろを奪うリスクがある】
二宮 勝てるというのは甲子園へ行けるピッチャー、夢があるというのはプロを含めた将来性のあるピッチャーということですね。
森 中学での実績は、むしろ伸びしろを奪うリスクもあります。精神的に「オレはすごい」という満足感を親子で持ってしまって、高校で伸び悩む子は少なくありません。中学では未完成でも、3年間で成長できるバランスのよさを感じさせる子には魅力を感じました。
二宮 石浜と野田は1年夏から5季連続での甲子園出場を目標に掲げていますが、春よりも夏に体調を合わせたいと考えているようです。石浜は無茶をすれば壊れるかもしれないというリスクと戦っているわけですが、それでも頑張らなきゃいけない時もある。その無理をさせる、させないの境目について、監督としてどうお考えでしたか。
森 そこは二者択一の簡単な話ではないんですが、なんだかんだいっても1年生は1年生なんです。早熟型の1年生が150キロを投げられたとしても、身体は耐えられるとは限りません。高いポテンシャルにフィジカルが追いついていかない可能性は大いにある。3年生に求める運動量は1年生には求められませんから、致命的なケガを負いかねません。
二宮 150キロが出れば監督としては投げさせたくなりますか?
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森 いくら150キロを投げられても、試合で使うべきではないと僕は思っています。ただ、これまでは指導者の経験に基づく勘のようなもので判断するしかなかったんですが、成長度合いに個人差はあるはずで、これからはその測定が医学的に可能な時代が来るんじゃないかという期待はしています。
二宮 指導者の感性がエビデンスによって裏づけられるのは心強いですね。最近は高校野球にもアナリストがいてデータと感性をどう両立させるかという問題もありますが、そこはどうお考えですか。
森 それも永遠のテーマで、ピッチャーに「まだ行けるか」と聞くと「行けます」という子と「無理です」という子がいます。指導者としての経験と勘から「行ける」と判断しても「痛い」と言われたら無理はさせられません。ただ高校生って、3年の夏まで2年4カ月しかないんです。そのなかで壊さずに成果をあげるには、無理せずに無理させなきゃいけない......。
二宮 指導者のジレンマですね。石浜は無理して投げたがるタイプなので、痛いとは言わないかな。
森 その痛みも、医学的に壊れてしまう痛みなのか、成長を伴う筋肉の張りによるものなのか。投げたがる子は指導者が止めなきゃいけないし、球数制限や連投禁止の野球に慣れている子は「投げられない」とすぐに言ってくる。だからと言って休んでいたら、高校野球は終わってしまいます。これからはエビデンスを示せるドクターやトレーナーの存在もチームには欠かせなくなると思います。
【中学と高校の間にある空白の7カ月】
二宮 高校で野球を続ける1年生が最初にぶつかる壁は何ですか。
森 中学3年生の中には最後の大会が6月で終わってしまう子もいます。勝ち進めば夏までやれるんですが、それでも8月まで。そこは硬式も軟式も同じです。
二宮 そうなると、4月の高校入学までに7カ月もありますね。
森 試合にも出ない、チームとしての目標もない7カ月というのは伸び盛りの子には長すぎます。試合勘は衰えるし、身体も鈍ってしまう......そんな状態で高校へ入ればいきなり周りのレベルが高いなかでのヨーイドンになりますから、ケガのリスクも高くなります。だから中学から高校への移行期間にどんな準備をするのかが大切です。
二宮 森さんが今、NPOのスポーツクラブで取り組んでいるのはそういうところなんですね。
森 成長のために必要なのは3カ月とも言われています。7カ月ということはそのチャンスが2度あるわけで、そこで休むか準備をするかは大きな違いがあります。私は監督を退いて4年になりますが、7カ月、しっかり準備をした中学生が高校に入ってから明らかに違うことを今、実感しています。
つづく>>
森士(もり・おさむ)/1964年6月23日生まれ。埼玉県浦和市出身。高校時代、県立上尾高校では一度もベンチ入り叶わずも、名将・野本監督に見出され指導者の道へ進む。恩師亡きあと、浦和学院で指導者に。1991年から監督に就任、2021年夏に退任。甲子園には春夏通算22度出場、通算28勝21敗(2013年春優勝)。現在はNPO法人ファイヤーレッズメディカルスポーツクラブ理事長。
二宮裕次(にのみや・ゆうじ)/1981年10月26日生まれ。愛知県東浦町出身。2013年、週刊少年マガジンにて「LAST MAN」で連載デビュー。「BUNGO−ブンゴ−」は週刊ヤングジャンプにて2015年3号から2025年4&5合併号まで連載され、現在の高校生編となる「BUNGO−unreal−」を2025年45号から大好評連載中。待望のコミックス3巻は9月17日発売!
石田雄太●文 text by Yuta Ishida