
日銀は9月18日に利上げを決定し、政策金利は31年ぶりの水準に達した。
預金や住宅ローンなどに影響する利上げだが、日銀が利上げを加速させる背景と私たちの暮らしへの影響を取材した。
18日、政策金利を1.0%から1.25%に引き上げた日銀。この決定内容が公開された直後、都内の証券会社では債券ディーラーからこんな声が聞かれた。
――債券市場としてはどういう反応?
債券ディーラー
「ちょっとがっかりというか、もう少しタカ派的なスタンス。例えば(利上げの幅が)0.5を1人提案しているとか、そういうことを期待はしていた」
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さらに市場が注目したのは、決定が全員一致にならなかったこと。
参加した9人のうち、2人(浅田統一郎審議委員、佐藤綾野審議委員)が利上げに反対したのだ。この2人は高市政権のもとで初めて任命された審議委員だ。
「今後、利上げが進みにくくなるのでは」という見方が広がった。円売りも進み、円相場は、一時約2週間ぶりの水準となる1ドル=157円台をつけた。
その後行われた日銀・植田総裁の会見。債券ストラテジストの長谷川直也さんが特に注目したのは、この発言だ。
日本銀行 植田和男総裁
「現在、基調的な物価上昇率が2%に接近しつつあるので、2%程度の水準で安定させていくという観点が重要。“政策の局面が変化した”と考えている」
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岡三証券チーフ債券ストラテジスト 長谷川直也さん
「『局面が変化した』。これは公表文にも書いていない内容。会見でメッセージを出したかったということだと思う」
12月までの“さらなる利上げ”や、2027年夏ごろまでに“政策金利が2%”になる可能性も出てきたと長谷川さんは見ているが。
――金利が高い、生活の中でも感じ始めている方がいると思うが?
岡三証券チーフ債券ストラテジスト 長谷川直也さん
「現役世代だと、住宅ローン債務を抱えていたりする。特に変動金利型で借りている人は、政策金利が上がることに連動する仕組みになっているので、利払いが増える」
暮らしの中で、日銀の利上げを実感することになりそうなのが住宅ローンだ。
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政策金利に連動する変動金利が上昇。毎月の返済額が増えるため、家計を圧迫する懸念がある。
家の購入で「変動金利」を選択したという夫婦は…
――どれぐらいの予算?
20代男性
「いま、6000(万円)ぐらい、トータルで」
――住宅ローンは何年?
「(変動金利で)40年で組んだ。社会人になりたてのころは(金利は)そんなになかったが、10年経って高くなった感じはする」
国民生活にも大きな影響を与える「利上げ」。その要因となっているのが物価高だ。
消費者物価はコロナ禍では前年比でマイナス圏だった。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻などを機に物価は急上昇した。
こうした中、日銀は2024年、マイナス金利政策を解除。
それからは半年に1回ほど利上げを行ってきたが、今回はわずか3か月で利上げに踏み切ったのだ。
“利上げ”の影響は一次産業にも… コメ農家には農薬・肥料の高騰が追い打ちに日銀の利上げは、食卓を支える一次産業にも影響を与える。
茨城県稲敷市で9代続く米農家を営む山口貴広さん。
父親の代では12ヘクタールだった作付面積を県のコメ農家を育成する事業を追い風に、10倍の127ヘクタールにまで拡大させた。さらに…
YAMAGUCHIfarm 山口貴広社長
「数字の目標では200ヘクタールという目標を立てて、現在進めている」
YAMAGUCHIfarm 山口貴広社長
「収穫したコメを乾燥させるところです」
――この機械、かなりの金額がしそうですね?
「300万円ぐらい。これがないと仕事はできないので。スピードを求めてやっていくとなると、良いもの、新しいものという風になっていくので、毎年更新も必要ですし」
また、自動操縦の田植え機を2台。さらに無人運転するロボットトラクターも2台購入した。
YAMAGUCHIfarm 山口貴広社長
「ロボット機能付きだと1300万円〜1500万円ぐらい。面積拡大とスマート技術っていうのは、セットになってくるような感じがしますね」
山口さんは規模拡大に伴い、1億円を超える融資を受けたという。
このうち、地方銀行からの借入分は変動金利のため、経営計画への影響を危惧している。
YAMAGUCHIfarm 山口貴広社長
「今後の計画を立ててるんですけども、金利も含めてお金がかかることが増えてくると、その進め方だったりペース感は変わってくるのかもしれない」
追い打ちをかけるのが農薬や肥料などの高騰だ。
YAMAGUCHIfarm 山口貴広社長
「資材費の一覧になるんですけど、5年、10年で見ると1.5倍から、物によっては2倍ぐらいになってるものもある」
さらに乱高下するコメの価格。コメ農家は、いま難しい舵取りを迫られている。
YAMAGUCHIfarm 山口貴広社長
「お米の値段が上がってくれれば何の問題もないが、下がり傾向だと大変な時期が続くのかなと」
再び訪れた“金利のある世界”。熱を帯び始めたのは、金融機関による預金獲得競争だ。
マイナス金利時代は、銀行の収益を圧迫する“お荷物”とさえいわれた預金。しかし、“金利のある世界”では、融資を通じて利益を得るための貴重な原資となる。
政策金利の引き上げを受け18日、メガバンク3行は普通預金の金利を0.4%から0.5%に引き上げると発表した。
さらに、みずほ銀行が17年ぶりのリニューアルを発表した「貯蓄預金」。
預金残高に応じて段階的に金利が上乗せされ、さらに、通常は半年ごとに支払われる利息が、毎月入金されることが売りだ。
発表会から約1週間で通常の8倍の口座開設の申し込みがあったという。
みずほ銀行 リテール・デジタル業務部 谷塚康幸さん
「金利が立ってきたこの局面においては、他行含めて非常に預金の獲得競争が激しい中なので、貯蓄預金の再立ち上げを通じて預金の獲得に繋げていきたい」
メガバンクが預金獲得に動く中、地域密着で中小企業の資金繰りを支えてきた城南信用金庫。
18日、融資担当の齋藤さんが向かったのは、都内で3店舗を展開する飲食店だ。
社長が見せてくれたのは別の金融機関の融資明細。
3年前0.19%だった金利はその後段階的に引き上げられ、いまでは3.20%になっている。
飲食店 社長
「1%、2%と言っても具体的に数字を見ると、何百円から何千円になり、利息だけで何万円という違いが出てくる。これが5年、10年だとすごく金額が変わってくると思うと正直心配」
融資担当 齋藤清志郎さん
「コロナの頃だとゼロゼロ融資などがあって、あの期間が長かった。金利のある時代になったので、もう一度借入面を根本から見直しさせていただいて」
食材やワインの仕入れ値も急騰した一方、価格転嫁しきれていないのが悩みの種だ。さらにテナント料など、値上がりはあらゆるモノに及んでいる。
飲食店 社長
「地代の上昇はものすごい勢い。3年後、5年後の来たる時に向けてすごく心配なところがある」
融資担当 齋藤清志郎さん
「我々営業店の担当者だけでなく、本部の専門の部署も一緒にテナント探しのお手伝いなどもさせていただく」
別の融資担当・中本さんが訪ねたのは、食品や機械部品などの配送を担う運送会社だ。燃料高や賃上げに対応するため、苦渋の思いで値上げした。その矢先の急速な利上げに…
運送会社 社長
「(金利の)今のペースの上がり方には、どこも中小企業はついていけないと思う。これを乗り越えた企業はもうどこに行っても成り立つ。ただ、何割が生き残れるかどうか」
融資担当 中本美夢さん
「金利の上昇がかなり激しいので、前回トラックをご購入いただいた時より、この冬にご案内できる制度がだいぶ変わってきそうになるので、そのあたりも一緒に期間や金額を検討して組むような形になるかと」
約50の会社を担当している中本さんはこう話す。
融資担当 中本美夢さん
「この金利上昇局面での借入れについて、借りるべきなのか、借りない方が良いか悩まれる会社が増えている」
城南信用金庫のトップ・林稔理事長。
金利の復活は、金融機関の「正常化」を意味する一方で、中小企業にとっては、複数の困難が「合わさる」状況になっているという。
城南信用金庫 林稔 理事長
「人手不足、物価高、原材料高、色んなものが合わさって、そこに金利高も来ている。お客さんのところに行って、何に困っていてどういう変化に対応しきれていないかを確認し、一緒に相談しながらやっていかないといけない。逆に言うと、信用金庫の時代が来たのかなとも感じる」
日本の企業の99%を占める中小企業。
東京商工リサーチは、仮に金利が1ポイント上昇すると、現在27.7%の赤字企業の割合が、31%にまで悪化すると試算している。
城南信用金庫では、事業者向けにセミナーを開催するなど、中小企業の支援にますます力を入れている。
城南信用金庫 林稔 理事長
「あまりにも金利のない時代が長かった。起きている変化を受け入れられるような、モチベーションにしていかなきゃいけない」
今後も金利の上昇は続くのか。18日、日銀の植田総裁は…
日本銀行 植田和男 総裁
「経済物価金融情勢に応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている」
段階的に利上げをしていく姿勢を示した。
日銀が利上げを加速させる背景にあるのが、高市政権が強く打ち出すこの政策だ。
高市総理
「成長なくして財政の持続可能性は維持できません。稼がなければ、全世代型社会保障の実現のための財源は生まれません。今こそ、責任ある積極財政の実行を急がなければなりません」
17日に行われた内閣改造では、片山財務大臣をはじめ、経済政策を担う閣僚が相次いで留任。積極財政路線を続けることが明確になった。
高市政権では2027年度の概算要求が、過去最大となる143兆円を超えた。
さらに、食料品の消費税を1%に引き下げることを盛り込んだ、税制改正大綱を閣議決定した。
会見に臨んだ片山大臣は…
片山さつき 財務大臣
「財源確保の具体像につきましても、今後の予算編成プロセスで確実にお示しをしてまいりたい」
だが、財源が示されないまま決まったことについて、党内からも異論が聞かれた。
自民党 閣僚経験者
「財源のことはきちんとしないといけない。支出だけを決めて財源の後回しは一番よくない」
自民党 別の閣僚経験者
「結局困るのは一般国民なんだよ」
積極財政による日本の財政悪化への懸念が金利上昇を招き、世界にも波及すると危機感を覚えたのがアメリカだ。
積極財政の“副作用”に懸念 アメリカが異例の注文「もう時代が違う」ベッセント財務長官は8月、日銀・植田総裁、片山財務大臣と会談。
ベッセント財務長官(1日)
「タカイチノミクスの時代だ。ストップ・ザ・リフレーション」
高市政権が掲げる「責任ある積極財政」に異例の注文をつけた。
安倍政権で日銀の審議委員を務めていた木内登英氏。
高市政権は“アベノミクス”の積極財政と同じ路線を歩んでいるが、いま行うことの副作用を危惧する。
――アベノミクスを続けてきたことの評価をどう考えている?
野村総研 エグゼクティブ・エコノミスト 木内登英氏
「アベノミクスが導入されたときには非常にインフレ率が低い、デフレの時期。ただ今はもう時代が違って、物価がこれだけ上がっているときに、財政の悪化、積極財政自体もインフレ率を加速させてしまう面がある。それに対してベッセント財務長官は『もう時代が違うんじゃないか』と」
――その時の副作用を今経験しているとも言える?
「副作用は相当長い時間をかけて出てくると思う。起点には、財政の悪化懸念があると思う。一種の警鐘、市場の警鐘だと思う。財政の警鐘を受け入れないと、非常に悪い形に向かってしまうリスクがあると思う」
