
帝国データバンクが全国1289社を対象に実施したアンケートで、「自社の従業員に何歳ごろまで活躍してほしいか」を質問したところ、平均は67.9歳、中央値は70歳という結果となった。企業に義務づけられている65歳までの雇用確保措置を、3歳ほど上回る結果だ。
規模別にみると、小規模企業が68.3歳、中小企業が68.1歳、大企業が66.8歳。規模が小さいほど、期待する年齢は高い。業界別では農・林・水産が70.1歳で最も高く、運輸・倉庫が68.6歳、サービスが68.5歳と続いた。最も低かったのは身体的負荷が大きい建設の67.4歳。それでも、65歳を上回る年齢だ。
社内における最高齢の従業員の年齢は、平均で68.3歳。最高齢では91歳の従業員が働いているというから驚きだ。
分布をみると65〜69歳が26.0%で最も多く、70〜74歳が24.9%と続く。既に7割近い企業で、65歳を超える従業員が現役で働いているということになる。数字だけを見れば、企業はベテラン従業員が長く活躍してくれることを強く望んでいるように映る。
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●経営者が、本当は口に出せないこと
しかし筆者は、この数字に若干の違和感を覚える。経営者はベテラン社員全員に残ってもらいたいと考えているだろうか。
例えば、健康で現場に立てる職人はどうか。長年の経験で、機械の音だけで異常に気づく。若手が何日も悩む不具合を、数分で原因まで特定するような人だ。私の知人には、「本当にこの企業を買収してもいいのかどうか」を嗅覚で見極める、64歳の敏腕なM&Aアドバイザーがいるが、この方もその一人だろう。企業はこうした人材には、体調が許す限り残ってほしいはずだ。
では、現場にほとんど足を運ばず、会議と調整ばかりしている中間管理職はどうか。デジタルツールもAIも苦手で、若手に頼りきりのベテランはどうだろう。ここで言葉に詰まる経営者は、決して少なくないはずだ。
つまり「70歳まで働いてほしい」という回答の裏には、はっきりとした線引きがある。その線引きをあいまいにしたまま人事制度だけ変えても、残ってほしい人が報われず、そうでない人だけが残ってしまう可能性がある。これでは意味がないのだ。
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●アメリカで起きている「ブルーカラー回帰」
この線引きを考えるうえで、参考になる動きが海外にある。アメリカで起きているブルーカラー職種への注目だ。
デジタル技術やAIの進化によって、ホワイトカラーの一部で「人余り」が起きている。打撃を受けているのは、マーケティング、法務、会計、人事、ITといった分野だ。一方で、需要が高まっているのが技能職である。
象徴的なのが、海外のメディアで報じられた通信大手AT&Tの動きだ。5年間で約380億ドル(約6兆円)を投じ、主に熟練技術者の採用と訓練を進める。
AIに置換されにくい技能職では、熟練者の引退が進み、後継者が育っていないところも多いと考えられる。
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●日本でも始まっている賃金の逆転
同じ潮流は、日本でも確実に起きている。
リクルートワークス研究所が2月に発表した労働市場分析によれば、人手不足が著しい一部のブルーカラー職種では、過去5年間で賃金が大きく伸びている。2024年には自動車整備・修理従事者の平均年収が約480万円(2020年は約407万円)となり、総合事務員の約468万円(同約436万円)を上回っている。
全てではないが、人手不足が深刻な一部のブルーカラー職種では、ホワイトカラーの収入を上回るケースが出ている。帝国データバンクの調査で活躍期待年齢が高かったのが、農・林・水産、運輸・倉庫、サービスといった現場系の業界だったことも偶然ではないだろう。
●代えがきかないのは、現場に立てるベテランだ
ここまで見てくると「67.9歳」という数字の意味がわかるはずだ。
ホワイトカラーの仕事が減少していく時代に、本当に代えがきかないのは誰か。長年の経験を体で覚え、現場に立ち続けられるベテラン人材である。しかも、健康であることが大前提だ。
一方で、現場から離れた事務・調整中心のベテランに対しては、AIやデジタルツールの活用を前提としたリスキリングを求めるか、役割の再定義をはっきり提示することも求められてくる。
若手が入ってこないし、中途採用も難しい。だからこそ企業はベテランに頼らざるを得ない。しかし「仕方なく残ってもらう」のと「ぜひ残ってほしい」とでは、本人の意欲がまるで違う。
企業がやるべきは、残ってほしい人材を明確にし、その人たちが働き続けたくなる環境を本気でつくることだ。
●会社がやるべき3つのこと
では、具体的に何をすればいいのか。現場で働くベテランに長く活躍してもらうために、企業が取り組むべきことは、以下の3つだと筆者は考える。
1. 技能に見合った好待遇にする
2. 健康管理に本気で投資する
3. 働き方に配慮する
一つ一つ見ていこう。
技能に見合った好待遇にする
日本では長らく、定年後の再雇用で賃金が大幅に下がることが当然とされてきた。同じ仕事をしているのに、給与だけが20%も30%も落ちる。これでは、意欲が続くはずがない。
年齢ではなく、技能で処遇を決める。指導的な役割を担うなら、その分を手当として支給すればいい。基準は年齢でも社歴でもない。市場価値である。それを正しく評価できないと、優秀なベテランほど外に出ていってしまうだろう。
健康管理に本気で投資する
現場で活躍できるかどうかは、健康状態に大きく左右される。帝国データバンクの調査で建設業の期待年齢が最も低かった理由は、猛暑下の作業といった身体的負荷も関係しているだろう。
従って健康診断を実施するだけでは足りない。作業環境の改善、休憩の取り方、体力に合わせた作業配分まで踏み込んでみてはどうか。健康管理への投資は、福利厚生ではない。技能という資産を守るための、事業投資と捉えるべきだ。
働き方に配慮する
ブルーカラーの現場は、ホワイトカラーのように場所や時間を柔軟にできない。テレワークや時間給といった制度は、使いづらいだろう。しかし、工夫の余地はある。
例えば、製造現場で勤務を4時間単位のチーム制にし、作業負担を軽減した企業がある。体力や生活事情に応じて複数の勤務形態から選べるようにし、70歳雇用を実現した企業もある。親の介護や配偶者の通院など、家族の事情を抱えるベテランも多い。その事情を前提に制度を設計し直すのだ。
冒頭の経営者の問いに戻ろう。
問われているのは「何歳まで働いてほしいか」ではない。「誰に残ってほしいのか」、そして「そのために何を企業として用意するのか」である。数字だけを掲げても、優秀な人は残らないのだ。
著者プロフィール・横山信弘(よこやまのぶひろ)
企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成バイブル』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。
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