
新リース会計基準への対応に、多くの企業が頭を悩ませている。中でも、多店舗を運営するなど、多くの不動産を賃借している企業では、これまでオフバランス処理されていたオペレーティング・リースなども原則としてオンバランスする。個々の契約がリースに該当するかを確認する必要があり、業務への影響も大きい。
「スポーツデポ」「ゴルフ5」などのスポーツ用品店を全国で400店舗以上展開するアルペンも、その一社だ。
同社が保管する契約書は1万件超。そのうち、新基準の対象かどうかを判定する必要があった契約書は約5000件に上り、これらの判定を財務部の3人で担うことになった。1件当たりの判定には約40分かかり、単純計算で合計約3300時間かかることになる――3人で対応するには膨大な作業量だ。
そこで、同社は一次判定を任せるためにAIの活用を開始。1件当たり約40分かかっていた時間を、約1分に短縮した。膨大な判定作業を効率化した同社は、AIをどのように業務に組み込んだのか。
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●アルペンを悩ませた、約5000件の「リース判定」 3人でどう対応する?
新リース会計基準は、2027年4月1日以後に開始する事業年度から適用され、アルペンでは同年7月からの適用を予定している。
新基準では、これまでオフバランス処理されてきたオペレーティング・リースなども含め、短期・少額などの例外を除き、原則としてリースを「使用権資産」と「リース負債」として貸借対照表に計上する。これに伴い、まず契約ごとに、その契約が新基準のリースに該当するかを確認する工程が発生する。
アルペンで新基準への対応を担うのは、財務部の決算グループ2人と、契約書の管理を担う法務・株式グループの1人の計3人。決算グループマネジャーの市川将之氏もメンバーの1人だ。
保管する契約書1万件超のうち、判定対象となる契約書は過去分を含め約5000件に上った。判定に当たっては、契約の対象となる資産が特定されているか、その資産の使用によって生じる経済的利益を享受する権利があるかを読み解く必要がある。さらに、その資産をどのように、何のために使うかを決める権利があるかも確認する。
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「当初は人の手で判定する想定でした。ただ、基準を詳しく調べるにつれ、全ての契約を手作業で確認するのは難しいと考えるようになりました」と市川氏は振り返る。
そこで、作業を効率化するシステムの導入を検討し始めた。
●「3300→80時間」に AIによる「一次判定」の成果
アルペンが導入を決めたのは、経理AIエージェントを提供するTOKIUM(東京都中央区)の「TOKIUM AI新リース判定」だ。契約書をアップロードすると、AIが新基準上のリースに該当するかを判定する。
サービス選定の判断材料になったのは、自社の契約書を使って試せるデモだった。市川氏は導入前に操作し、処理の速さや使い勝手を確かめた。
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「試してみると、私たちが想定していなかった判定結果もありました。自社の契約書でどのような結果が出るのかを確かめられたことで、導入後の業務を具体的にイメージできました」
導入したのは2026年5月。AIに一次判定を任せ、担当者が結果を確認する流れにした。AIが示した契約書の該当箇所を人が確認し、判定結果を判断する。担当者が契約書を最初から読み、必要な記述を探す手間を抑えられるのだ。貸借対照表に計上する金額は、監査法人との確認も含めて最終的には人が決める。AIが会計処理そのものを決める仕組みではないこともあり、社内ではAIの利用に対する大きな抵抗はなかったという。
同社の試算では、約5000件を人の手で判定すると1件につき少なくとも40分、合計で約3300時間かかる。一方、AIによる一次判定は1件約1分、合計約80時間。一次判定だけで約3200時間の差が生じる計算だ。
「今回の効果は、従来の業務時間を減らしたのではなく、新基準への対応で加わる作業を抑えられたことだと捉えています」
9月の取材時点で、過去分の契約書のアップロードとAIによる判定は終えているという。
●AI導入だけではない アルペンが進めたシステム刷新
同社が新基準への対応を進められているのは、AI新リース判定を導入したことだけが理由ではない。それ以前から進めていた取り組みも大きく影響している。
新基準への対応を始める前から、同社では電子契約システムの導入を進めていた。紙で保管していた約1万件の契約書を約9カ月かけてPDF化し、システムに取り込んでいた。
「電子化は大変な作業でしたが、電子契約システムに契約書を集約していたおかげで、AI新リース判定へのデータのアップロードには時間をかけずに済みました」
また、新基準への対応では使用権資産などの計上額を計算し、その後の減価償却なども処理する必要がある。
新基準では、使用権資産やリース負債を計上するため、財務諸表の見え方も変わる。市川氏は、新基準の適用によって会社の損益計算書(PL)や貸借対照表(BS)がどう変わるのか、注意が必要な点とともに資料にまとめ、社内向けに説明した。
さらに、AI新リース判定の導入を検討する前に、資産の取得額や減価償却を管理する固定資産管理システムも刷新した。従来のシステムでは、新基準に対応できないのではないかという懸念があったためだ。検討から社内承認を経て更新が完了するまで、約1年4カ月かかった。
新基準の適用開始までに会計処理の体制を整えるには、こうしたシステム刷新にかかる期間も見込む必要がある。市川氏も、既存システムが新基準に対応できるかを早めに確認すべきだと話す。
●月150〜160件の新規契約 「判定漏れ」を防ぐ仕組みとは
単にAIを導入するだけでは、新基準への対応は完結しない。過去の契約を判定した後も、新規契約や賃料改定などを財務部が把握し続ける必要があるからだ。そこでアルペンは、日々の契約情報を財務部に集める仕組みも整えてきた。
新基準への対応では、過去分の判定を終えても、月150〜160件ほど発生する新規契約の判定は続く。既存の契約でも賃料などが変われば会計処理に反映する必要があるため、財務部はその情報も把握しなければならない。
契約は各部署で結ばれる。例えば、店舗の新規契約や賃料の改定は、店舗開発部が中心となって進める。財務部はこうした情報を把握し、判定や会計処理につなげる必要があるのだ。
従来、同社では各部署が契約書を作成し、社内のワークフローシステムで押印を申請していた。新基準への対応に当たり、当初はワークフローシステムを通じて、新規契約や賃料改定の情報を財務部に通知する方法を検討したという。ただ、市川氏は連絡の抜け漏れや、情報が財務部に届くまでのタイムラグを懸念した。
そこで、締結後の契約書を保存している電子契約システムから、判定に必要なデータを取り込むことにした。PC上の定型操作を自動化するRPAを使い、各部署が契約書を保存すると、AI新リース判定システムへデータが自動で送られるようにしたのだ。
財務部が契約書を手動でアップロードする手間を省くとともに、判定対象からの漏れを防ぐ狙いだ。各部署が契約書を保存するだけで、そのデータが財務部の判定作業につながる仕組みを整えた。
同社の試算では、毎月の新規契約を1件40分の手作業で判定すると、月100時間強を要する。しかし、AIによる一次判定なら約3時間で済み、年間では約1200時間の削減を見込んでいる。今後も財務部の3人を中心に、新基準への対応を進める予定だ。
●「AIに任せる」と「人が判断する」 財務部で広がるAI活用
財務部では現在、AIによる業務改善をテーマに掲げ、新リース会計基準への対応以外の業務にもAIの活用を広げている。
市川氏は、取引内容を会計帳簿に記録する「仕訳」のチェックにもAIを使い始めた。これまで承認前に自分で確認していた仕訳の内容をAIにも確認させ、最終的な承認は人が担う。新基準への対応と同様、確認作業と最終的な判断を分けている。
さらに、取引の詳細を記録する「補助簿」への記帳にもAIを使えないかなど検討を進めている。
「新リース対応でのAI活用は、財務部の業務改善の一例と捉えています。作業時間を抑えられる分、ほかにもAIに任せられる仕事がないか、検討する時間に充てていければと思います」
AIに任せる作業を選び、必要な情報が集まる流れを整え、最後は人が判断する。アルペンの取り組みは、AIを単体で導入するだけでなく、契約情報の集め方やシステム、人とAIの役割分担まで含めて業務を見直す重要性を示している。
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