
日清食品は2026年7月、冷水を注いで作る「冷しカップヌードル」を発売した。ブランド史上初めて「熱湯禁止」を大きく掲げた商品とあって、発売直後からSNSを中心に大きな話題を呼んだ。当初は1〜2カ月程度の在庫を想定していたが、約1週間でメーカー出荷分がほぼ完売している。
ブランド誕生から55年目のタイミングで、同社はなぜ冷水専用の商品を開発したのか。日清食品でカップヌードルのブランドマネジャーを務める土岡洋平氏に、開発の背景や発売後の反応を聞いた。
●冷水を注ぎ5分、本当に麺は戻るのか?
冷しカップヌードルは「鶏塩レモン」と「ピリ辛キムチ」の2種類の味を展開している。通常のカップヌードルなら「熱湯を注いで3分」が定番だが、冷しカップヌードルは5〜10度の冷水を注ぎ、5分待つ必要がある。これは冷蔵庫で冷やした水とほぼ同じ温度だ。常温の水でも調理できるものの、「冷たく爽快なおいしさ」を楽しむために冷水で作ることを勧めているという。
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鶏塩レモン味は鶏、カツオ、煮干しのうまみをベースにレモンの爽やかな香りを効かせたすっきりとした味わいが特徴だ。また、ピリ辛キムチ味は、鶏のうまみをベースにキムチの酸味と辛味を効かせている。
実際に筆者も鶏塩レモン味を食べてみたが、まず驚いたのは麺の状態だった。冷水で戻したからといって、硬い芯が残っている感覚はない。麺全体がしっかり冷えていながらも柔らかくなりすぎず、歯切れやコシも感じられた。スープと一緒に麺を食べても、「水で戻した即席麺」という違和感のある食感ではなかった。
パッケージには「熱湯禁止」と大きく書かれている。そもそも熱湯を前提としてきた即席麺を、どのようにして冷水だけで食べられるようにしたのか。
●最大の壁は「水の温度の低さ」
日清食品では以前から、水で麺を戻すための研究を続けていた。過去には少なめの熱湯で麺を戻した後に氷を加え、冷やして食べる「ICEカップヌードル」も提案している。ただ、当時は冷水だけでおいしく食べられる麺を実現するには至らなかった。
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転機となったのは、冷水で麺を戻す新製法「コールドリハイド製法」の確立だ。同社はこの技術で特許を取得している。開発期間は約5年。実現が見えてきたところで、ブランド55周年に向けて開発、生産、資材などの各チームが連携し、商品化を進めた。
開発で最大の壁となったのが麺だ。土岡氏は「冷水では当然温度が低くなります。水でも麺が均一に戻り、おいしく食べられる状態にすることが、開発時の最大のハードルでした」と話す。
この課題を克服するため、麺の原材料の配合や構造を、通常のカップヌードルとは異なるものにした。詳細は非公表だが、具材についても、冷水で戻した際においしく食べられるものを選んでいる。
試作も通常の商品より多かった。開発チームでは数十回にわたって試作し、マーケティングチームも10回程度確認を重ねた。
また、生産設備や資材調達にも新たな対応が必要だったという。
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「既存のカップヌードル製造工場で製造していますが、新仕様の商品に対応するため、設備をアップデートする必要がありました。通常の商品とは異なる資材も使用しており、必要な量をサプライヤーから確保し、工場へ安定供給する体制づくりも新たな課題となりました」と土岡氏は話す。
インスタントラーメン市場は冬場の季節指数が高く、暑い時期には冷たいものを求めるニーズが高まる。近年は「災害級」とも言われる酷暑が続いており、「カップヌードルの新たな価値を提供できないか」という考えが商品化を後押しした。
とはいえ、「カップヌードルは熱湯で作る」という印象が強い。社内での反発の声などはなかったのだろうか。
土岡氏は、「お湯を使うこと自体がブランドの軸ではありません」と話す。食を通じて、おいしさに加え、楽しさや新しい体験も提供したい。その延長線上に冷水で食べるカップヌードルもあるという考えだ。
●「熱湯禁止」を広告に
商品の特徴は販促にも生かされた。「熱湯禁止」という大きな表記には、冷水専用の商品であることを伝え、誤って熱湯を注ぐことを防ぐ目的がある。一方で「カップヌードルなのに熱湯禁止」という意外性そのものも、商品の特徴を伝えるフックとなっている。
「カップヌードルは熱湯で作る」という認識が定着しているからこそ、「禁止」の2文字が目を引く。商品の制約が、そのまま強い広告メッセージになった形だ。
ただ、今回はテレビCMを制作せず、インフルエンサーや一般消費者による情報発信を主軸にした。これまでになかった新製法で、しかも熱湯を使わないとなれば、実際に作ってみたくなる。商品のユニークさや新しさを生かし、試した人の驚きが広がる形を狙ったのである。「暑い時期に冷たく爽快なものを食べたい」というニーズに性別や世代による大きな違いはないと考え、ターゲットもあえて絞らなかったという。
発売後の反応は当初の想定を上回った。7月20日に発売し、8〜9月頃までは在庫が持つと想定していたが、想定以上の引き合いがあり、約1週間でメーカー出荷分がほぼ完売した。
土岡氏は発売後の反応について、「『冷水で作れるのがすごい』『どういう仕組みなのか』『また食べたい』といった声が寄せられていて、素直にうれしいです」と話した。
●夏の新たな食へ
冷しカップヌードルは熱湯が必要ないため、非常食としても注目された。
災害時には、冷水をすぐに用意できるとは限らない一方、現場でお湯を沸かすための熱源を確保できない場合もある。
日清食品は、非常食を主目的として開発した商品ではないものの、常温の水でも調理できるため、「水だけで食べられる」という特徴が、もしものときにも役立つ可能性があると考えている。
同社は、この冷水で食べるカップヌードルを一時的な企画商品で終わらせるのではなく、「新たなカテゴリーとして定着させたい」としている。
土岡氏は「私も夏には冷たいそうめんやそば、うどんなどが大好きでよく食べます。冷しカップヌードルは冷蔵庫から水を注いで待つだけで食べられるので、夏の新たな食の選択肢になればうれしいです」と話す。
同社はこれまでにも、お湯を注ぐだけで食べられる「カレーメシ」や、チキンラーメンをそのままかじる用に開発した「0秒チキンラーメン」など、従来とは異なる食べ方を市場に提案してきた。
今回の冷しカップヌードルもこれまでにない仕様だが、その商品開発に共通点はあるのだろうか。
「日清食品は世界初のインスタントラーメン『チキンラーメン』から始まり、その後、世界初のカップ麺『カップヌードル』を生み出しました。新しい食を世の中に提供していく姿勢は、ずっと受け継がれていると思います」と土岡氏は話す。
冷水だけで食べられるカップヌードルも、同社が重ねてきた「新しい食」の提案の延長線上にあるといえそうだ。
(田窪綾)
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