
法務省とネットフリックスの恋愛リアリティ番組『ラヴ上等シーズン2』のタイアップポスター。出演者のビジュアルを根拠に更生を疑う声もあった
今年8月から配信の大人気恋愛リアリティショー『ラヴ上等シーズン2』は、ある出演者の「人に火をつけた」発言をきっかけとして、法務省との「更生保護」タイアップも巻き込んで大炎上。批判が広がってしまったのはなぜか? 罪を犯した人々が「更生する」とはどういうことか? 犯罪と更生の論点について、犯罪学の専門家・丸山泰弘教授に聞く!
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【表舞台に立つ犯罪の加害者】
この夏、ある恋愛リアリティーショーが燃えた。
昨年12月に配信されたシーズン1に続き、今年8月に公開された『ラヴ上等シーズン2』(ネットフリックス)だ。この番組は、元暴走族や少年院経験者などのいわゆる「元ヤン」の男女が共同生活を送りながら恋する様子を描き、今までにない恋愛リアリティーショーとして国内外で大ヒットした。
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しかし、シーズン2のエピソード5が公開されるやいなや、SNSではさまざまな批判が飛び交うこととなった。ある出演者の「人に火をつけたことがある」という発言がSNSで拡散された結果、番組自体が炎上してしまったのである。
しかも、問題はその発言だけではなかった。『ラヴ上等2』は法務省保護局とタイアップしており、更生保護の広報として出演者の写真をあしらったポスターを作成、掲出していたのである。
このことによって、今回の炎上は制作側のネットフリックス、出演者、法務省をも巻き込み、大規模かつさまざまな論点を含む炎上になったのである。
多く見られた批判のひとつは、恋愛リアリティーショーというエンタメ作品において、過去に違法行為を行なってしまった人物を取り上げるべきではない、あるいは少なくともその違法行為を武勇伝のように描くべきではないというものだった。
では、こうした作品において、犯罪や更生はどのように扱われるべきなのだろうか。刑事政策や犯罪学に詳しい立正大学の丸山泰弘教授はこう語る。
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「恋愛リアリティーショーなどで過去に犯罪歴のある人物を登場させること自体は、基本的には問題ないんじゃないでしょうか。そういった番組で過去の犯罪の話をしてはいけないという考え自体、マジョリティが『更生はこうあるべきだ』ということを押し付けているともいえます。
また、もちろん憤る被害者の感情を大事にするのは当たり前ですが、他人が『被害者はこう思うはずだ』というレッテルを貼って、声が大きい人が炎上させているという側面があるように思います。」
一方で、犯罪を行なってしまった過去がある人物を起用することと、作品の中でそういった人物をどう描くかは別の問題だという。
「そういった人物をイケてる感じで見せるというのは注意が必要です。被害者の視点を軽視しているとか、犯罪をした人をかっこよく描くことをよく思わない人もいるでしょう。さらに、話題性のための当事者の搾取であるという批判もあると思います。
それを踏まえたうえで、エンタメ作品で犯罪や更生を扱うことでこれらの問題を考えるきっかけにもなります。というのも、今回の『ラヴ上等2』で描かれているような、非行のある子たちが虐待経験など厳しい生い立ちがあるという現実を伝えることは非常に大切だからです。
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犯罪学の観点からいうと、少年院にいる子どもたちは幼少期に虐待など過酷な経験をしてきたケースが一般の子どもたちに比べて非常に多い。だからこそ、番組で描かれていることはすごくリアルなんです」
出演者たちの過酷な生い立ちを見せることで伝わるリアルさがあり、そんな現実を伝えることにも意義がある一方で、そこから抜け落ちるまた別の現実もあるのだと丸山教授は指摘する。
「実際に少年院や刑務所にいる人たちがみんな出演者のような人たちかというと、そうではない。むしろもっと多くが、そのやんちゃな人たちに搾取されてきた人たちか、やんちゃをする機会もない人たちです。だから、そういう意味ではあの番組は犯罪や非行問題のリアルではないともいえるんです。
つまり、当然ではありますが、犯罪や更生についての様々な側面のうち、この番組で取り上げられているのは一側面にすぎないということです」
【法務省とのタイアップ、取り下げは正しかった?】
また、今回の炎上では、『ラヴ上等2』が法務省保護局とのタイアップを行なっていることに対して、法務省側に対する批判も相次いだ。
そこで、なぜタイアップに至ったのかを明らかにするために、法務省とネットフリックスの双方に取材を行なった。
法務省からは「タイアップを決定するに当たり、作品の内容等を事前に確認しています」としたうえで、「更生保護を知らない若年層の方々にも、その存在や取組を広く知っていただく機会になるものと考えて」行なったものだったと回答があった。
ネットフリックスからも同様に、問題のタイアップは「更生保護の意義や役割をより多くの方に知っていただくことを目的として」行なったものだとしつつ、「犯罪や非行を肯定、美化、あるいは軽視することなく伝え」ることもまた目的であったと説明があった。
両者の思惑とは裏腹に、当該のシーンは非行の美化だと捉えられて非難が集中し、法務省は最終的にタイアップの中止を発表することとなった。
だが、『ラヴ上等2』と法務省のタイアップは、批判を受けて取り下げる以外の選択肢があったのではないかと丸山教授は言う。
「私は、法務省があのタイアップを取り消す前に検討できることがあったのではないかと思います。なぜかというと、法務省は被害者に対する支援もかなり長い間取り組んできているからです。
今回のタイアップを行なったのは保護局、つまり少年の保護処分や出所した後の社会復帰を支える局なんですが、ここでは同時に被害者の支援も20年ほど行なってきているんです。
つまり、タイアップで全面に押し出された『加害者側の更生』はあくまでひとつの側面にすぎず、批判があった『被害者問題』に対しても『被害者支援をやっています』ということを合わせてアピールすることもできたのではないでしょうか」
そして、今回のタイアップは、保護局の本来の意図でもあった若年層への普及という点では評価できるものだったという。
「保護局には更生保護のマスコットキャラクターとして『ホゴちゃん』というかわいいペンギンがいるのですが、正直、届いて欲しい層に関心をもってもらえるかと言えば難しいかもしれません。
ですが、今回のような番組とのタイアップであれば、自分も何らかの被害を受けている、ネグレクトを受けている、家庭環境が過酷だというような子たちにもどこかで引っかかり、保護局の活動を知るきっかけになってくれるかもしれません。
もちろん今回のような批判がくることはわかりますが、そこまで計算したうえでリスクを負ってタイアップを行ない、『被害者支援も徹底しています』、『刑事司法に関わった人も一緒に生きていく社会を形成していきましょう』というメッセージを伝えればよかったんじゃないかと思います」
【聖人君子になるべきなのか?】
『ラヴ上等2』をめぐる炎上においては、「出演者の姿が更生しているものだとは思えない」という意見も見られた。
では、そもそも、人はいつ「更生した」ことになるのだろうか。取っ組み合いの喧嘩をするシーンや彼らの風貌から『ラヴ上等2』の出演者は「更生していない」と言われても仕方ないのか。丸山教授は更生の定義について次のように語る。
「更生とは何かという問いにはいろいろなパターンの答えがあると思います。専門家の間でも意見は分かれますが、要はどこに更生の基準を置くかなんです。
少年院や刑務所に行って神父や牧師のような聖人君子のような人になってくるのが更生なのか、たまに少し悪いこともしてしまうけど一般人のように普通に生きているのが更生なのか、法律違反はしないけどギリギリのグレーなところで生きているのが更生なのか。
私は多少困った人でも普通の一般人になっていれば、更生だと思っています。聖人君子のような人になるのが更生だとすれば、多くの人が該当しないということになるかもしれません。過去に罪を犯した出演者にはケンカっ早い人もいるかもしれませんが、再犯などをしていないなら、それはそれで立派な更生と言えるのではないでしょうか」
そうであれば、過去の非行を認めて現在は反省している出演者たちに対して、容姿や言動を根拠に「更生していない」と批判することはお門違いなのだろうか。
「一般の人たちが『更生ってこういうものだ』というのを押し付けているんです。『こういう見た目の人、こういう言動をする人は更生していない』とマジョリティがレッテルを貼っている。
おそらく、今の日本のマジョリティは、加害者が聖人君子のような人になって、息を潜めて罪と向き合って生きていくみたいなことを「更生」だと思っているのかもしれません。たしかにそれも更生のひとつの捉え方かもしれないですが、そこまで求めることは現実的には難しいですし、それではあまりに息苦しすぎるように思います」
非行に走った過去のある人々を社会に繋げる更生保護。『ラヴ上等2』の炎上はわれわれが更生にいったい何を求めているかを映し出しているのかもしれない。
写真/時事通信社

