
「DX推進」という言葉が叫ばれるようになって久しい。多くの業界でさまざまなDXが進められているが、中でも難しいといわれるのが「小さなサービス業」だ。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「DX動向2026」によれば、2025年度のDXへの取り組み状況では、従業員100人以下の企業では、49.3%が「取り組んでいない」、9.0%が「分からない」と回答。業種別に見ても、「取り組んでいない」と答えた割合は、製造業が19.5%、流通・小売業が22.5%であるのに対し、サービス業は28.5%と高い。
そんな中でもDX推進が特に難しいといわれているのが、葬儀・斎場・埋葬・供養などを扱う、いわゆる「終活産業」だ。
例えば、経済産業省の「令和3年経済センサスー活動調査」によれば、葬儀業者は従業員4人以下の「小さな葬儀屋」が大半を占めている。加えて、葬儀業は、大切な人を失った人々の悲しみに寄り添う「感情労働」でもある。だからこそ、デジタル化や業務効率化はそぐわない、むしろ「そんなことをしてはいけない」という声も、業界関係者の一部からは聞かれる。
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しかし、そんな終活産業にも近年、デジタル化の波が押し寄せている。対面でのコミュニケーションが基本で、今も電話やFAXが主要な連絡手段として使われているこの業界で、DXに取り組む事業者が徐々に増えている。
それがよく分かるのが、2026年9月10〜11日に東京・有明で開催された「エンディング産業展2026」(主催・東京博善)だ。
これは新しい時代の終活産業を創出するためのビジネスマッチングや情報交換などを行う場だが、2026年は例年以上に「デジタル」「DX」を前面に打ち出す事業者が目立った。その一つが、冠婚葬祭業界に特化したシステム開発やDX支援などを行うabs社(さいたま市)だ。
●アバターで愛犬や愛猫の墓参りも
例えば、筆者が実際に利用して驚いたのが「風の霊」という、スマホやPCからいつでもアクセスできるメタバース上の霊園だ。今回のデモで紹介されていたのはペットの霊園で、アバターを操作して、愛犬や愛猫の墓参りができるほか、ありし日の写真や動画などを見られる「マイルーム」も用意されている。
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また、故人の思いを映像にする追悼ムービー「キオクノート」というサービスもある。法要やお盆などで、故人に対して言えなかった思いをつづった手紙をもとに、古いモノクロ写真をカラー化したり、アニメーション技術を応用したりして映像にする。法要やお盆など、故人をしのぶ場で使われているという。
ちなみに、2024年12月に提供を開始して以来、注目を集めているアルファクラブ武蔵野(さいたま市)のバーチャルAI故人サービス「Revibot(レビボ)」も、abs社が開発したものだ。
これは写真やホームビデオ、音声データなどを基にして、AIを使って故人を動画で再現するサービス。初期費用は9万9800円。最短3日で、1分半程度の動画を制作できる。亡くなった人が自分の葬儀で参列者に語りかけるという、SF映画のワンシーンのような演出も可能だ。
ちなみに、こちらが話しかけると、言葉を返す「対話型」のAI故人も、技術的には実現可能だが、アルファクラブ武蔵野では、あえてそうしたサービスを提供していない。「忘れる」ことも重要なプロセスであり、悲しみのあまりAI故人に「依存」してしまう恐れもあるためだという。
・故人を生成AIで再現、葬式であいさつ・対話型サービス…依存や死者の尊厳傷つけるリスクも(読売新聞オンライン 2025年8月21日)
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さて、このような話を聞くと、中には「なんとなく不気味」「日本の伝統的な葬送文化が壊されていくようだ」と抵抗を感じる人もいるかもしれない。
ただ、個人的には「大切な人を悼む」価値観や文化も、時代や技術革新によって変わっていくものだと思っている。
●位牌や仏壇も時代によって変化している
エンディング産業展で、国立歴史民俗博物館研究部民俗研究系・教授の山田慎也氏と、ものつくり大学教養教育センター・教授の土居浩氏による「伝統的供養への途:近現代における位牌・仏壇の成功史と失敗史」というセミナーを拝聴した。両氏によれば、われわれが「伝統」だと思っている位牌や仏壇も、時代とともに変化してきたという。
中でも興味深かったのが「金写真焼付位牌」の話だ。明治になって写真という新しい技術が普及すると、従来の位牌に遺影を焼き付ける、新しいスタイルが生まれた。その後、異業種から参入したスタートアップ企業によって、遺影を金板に転写する「金写真焼付位牌」が生み出され、新聞広告などを通じて販売されていたという。
われわれは伝統的な世界というのは、時代や新技術の影響をあまり受けず昔ながらのスタイルを守り続けていくものだと考えがちだが、実は、それは「思い込み」にすぎない。
実際、遺体を荼毘(だび)に付す火葬場や、遺骨を納める霊園など、伝統的な世界も、デジタル化によって少しずつ変わり始めている。
例えば近年、問題になっている「火葬待ち」。背景には各斎場の火葬能力に加え、実は「アナログな予約受付」も関係している。
火葬場の予約というのは基本的に葬儀会社が行うものだが、地方自治体が運営する斎場の多くでは、いまだに電話やFAXによる受付が残っている。そのため、ヒューマンエラーも発生しやすい。
斎場担当者と葬儀業者が電話で「○時からなら空いている」などと調整し、その結果を伝えられた喪主が「○時は都合が悪いので、翌日はどうか聞いてもらえますか」と葬儀業者に伝える、といった伝言ゲームのようなやりとりが必要だった。効率が悪いし、スケジュールの見落としも生じる。
そこで、都内で6つの斎場を運営する東京博善(東京都港区)では、Web予約システムを導入。IDとパスワードを持つ葬儀業者は、オンライン上で火葬炉の空き状況を確認できるので、喪主との打ち合わせの場で一緒に空き状況を確認し、予約できる。
他業界からすれば、かなり地味な話かもしれないが、電話やFAXがいまだ主力ツールというこの世界では、こうしたDXは業務効率化につながる。
●「前方後円墳」を再現したお墓が人気
霊園業界でもDXが進んでいる。お墓を買うときは一般的に、電話やメールで問い合わせをして、現地を見学。その後に墓石業者とも同じようなやりとりを経て、どのようなお墓にするのか打ち合わせをして注文する。ある意味で、家を買うときと同じくらいの手間がかかる。
それをDXによって、劇的に変えたのが、明治天皇の玄孫(やしゃご)として知られる、前方後円墳(東京都港区)の代表取締役を務める竹田恒泰氏である。本連載で2025年に取り上げたが、竹田氏は現在、「前方後円墳」を再現したお墓を手掛けている。これまでに千葉県、香川県、大阪府、宮城県で4基の古墳墓が完成・販売されており、いずれも人気を集めている。
詳細については以下の記事を読んでいただきたいが、今回のエンディング産業展で注目されたのが、竹田氏が「DXによって霊園ビジネスの従来のあり方を変えた」ということだ。
・竹田恒泰さんの「古墳のお墓」なぜ人気? 「墓じまい」が増える中、280区画が即完売(ITmedia ビジネスオンライン 2025年9月17日)
というのも、実は竹田氏が売る前方後円墳のお墓は「Web経由」でしか購入できない。
もちろん、現地で実際に前方後円墳型のお墓を見学することはできる。竹田氏自身による説明会は満員になることが多いという。しかし、そこで「買いたいので契約したい」と伝えても、担当者は「では、ご自身のスマホかPCでお願いします」と案内する。対面で契約書を交わすことはないのだ。
●「テスラ方式」でお墓を販売
「それでは高齢者には不親切ではないか」と感じる人もいるかもしれない。だが、エンディング産業展で登壇した竹田氏によると、そうした人のためにサポートデスクを設置している。スタッフが丁寧に説明することで、高齢者でも契約できているという。
もともとシステム開発の会社を経営していた竹田氏は、霊園業界に参入した際、電話やFAXが中心というアナログな業務環境に驚くとともに、逆に「ここでDXを推進すれば、大きな成果につながるのではないか」と感じたという。そして、お墓を「テスラ方式」で販売することを思いついた。
米国のEVメーカー・テスラはショールームを展開しているが、実際にEVがほしいとなってもそこで契約はできない。購入希望者はWeb上で注文する。このテスラ方式を霊園業界に持ち込むことで、竹田氏は現地販売員、営業担当者、電話受付を置かずに、「発売からわずか5時間で180区画完売」など、古墳ビジネスを急速に拡大している。
ちなみに、竹田氏は霊園の顧客から契約、区画情報などを一元管理するシステム「REIEN CLOUD(レイエンクラウド)」も提供しているほか、2026年9月には「樹木葬の窓口」という新サービスもローンチした。
これは全国の管理が行き届いた「樹木葬霊園」を厳選して紹介するセレクトショップのようなコンセプトで、プロカメラマンが撮影した質の高い写真をふんだんに使っている。竹田氏によれば「中古車販売サイトの写真の多さ」から着想を得たという。
竹田氏は「前方後円墳」や「古墳」などについても、多くの商標登録を取得。知名度とDXを強みに、全国で100基の古墳墓の開発を目指している。霊園業界に参入してわずか2年あまりだが、エンディング産業展での講演も、霊園業界の関係者が多く訪れ、盛況だった。今後、霊園業界でさらに存在感を高めていく可能性がある。
葬儀・斎場・埋葬・供養は、亡くなった人を悼む厳粛な場であることから、どうしても「伝統」や「古いしきたり」を守る必要がある。
一方で、「変わらない」ことを重視する文化は、既得権益を温存し、さまざまな部分でブラックボックス化が進むという問題も生じる。その一例が、近年問題になっている「葬儀費用トラブル」だ。
●日本の葬送文化はどう変わるか
しかし、先述したように、この世界も時代の変化や新技術を取り込みながら形を変えてきた歴史がある。
エンディング産業展に参加した企業を見ても、そうした傾向がうかがえる。伝統や古いしきたりを尊重しつつ、「新しい葬送文化」をつくろうとする動きが見られた。
また、異業種からの新規参入の動きも見られる。例えば、パーティークラッカーで国内シェア90%を占めるカネコ(愛知県)もブースを出していた。明治17年創業の老舗企業も新たな事業に乗り出すなど、終活産業への異業種からの関心の高さがうかがえた。
人口減少が進む一方、多死社会を迎えていることから、終活産業の需要はますます高まっていく。DXも推進されつつある中で、日本の葬送文化が今後どのように変化していくのか注目したい。
(窪田順生)
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