返礼品がないなら作ればいい 泉佐野市が「65億円」を集めてヤッホーブルーイングを呼び込めた理由

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2026年09月30日 08:21  ITmedia ビジネスオンライン

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泉佐野市にヤッホーブルーイングの醸造所がオープン

 関西国際空港と大阪府泉佐野市をつなぐ空港連絡橋。そのすぐ近くに広がる「りんくうタウン」が今、大きく変わろうとしている。


泉佐野市の千代松大耕市長(筆者撮影)


 泉佐野市、泉南市、田尻町の2市1町にまたがるこのエリアは地域振興の目的で開発され、9月に30周年を迎えた。


 その2カ月前の7月23日、クラフトビールメーカーのヤッホーブルーイング(長野県軽井沢町)が「ヤッホーブルーイング大阪醸造所 よなよなビアライズ」を開業。醸造所にビアバーなどを併設した施設で、りんくうタウン駅から徒歩4分ほどの場所にある。現在の営業は金、土、日曜のみで、入場には事前予約が必要だ。予約は数カ月先まで埋まり、醸造所の見学ツアーは売り出すたびに即完売する人気ぶりとなっている。同社にとって、自社で運営する集客型施設はこれが初めてとなる。


 ヤッホーブルーイングは長野県に本社と醸造所を構える企業だが、今回なぜ大阪に拠点を構えたのか。その背景にあるのが「ふるさと納税」だ。よなよなビアライズの総工費は30億円以上。その建設を後押ししたのが、ふるさと納税による寄付である。


 この仕組みを“発明”したのが泉佐野市だ。名付けて「#ふるさと納税3.0」。企業や個人事業主と自治体が共同でプロジェクトを立ち上げ、ふるさと納税の寄付者からの支援によって新しい地場産品を生み出す仕組みである。


 流れはこうだ。資金を調達したい事業者は、募集要項に沿って市に事業を提案する。市の審査で採択されると、ふるさと納税型のクラウドファンディング(CF)で寄付を募ることができる。寄付額が目標に届けば、事業者は市内で事業を始め、市から補助金を受け取る。寄付者にはその返礼品が届く仕組みだ。


 この仕組みを活用した事業者は、市内外を合わせて60社に上り、同様の取り組みは他の自治体にも広がりつつある。ふるさと納税3.0はどのように作られ、利用されているのか。その現状を追った。


●ないなら、作ろう


 泉佐野市がふるさと納税3.0を考案したのは2020年10月だ。そこには「日本一奪還」という目標があった。


 泉佐野市は2019年6月、返礼品を巡る総務省との対立の末、ふるさと納税制度から除外された。最高裁で逆転勝訴し、2020年7月に制度に復帰したものの、その間に地場産品規制は厳しくなっていた。


 千代松大耕市長はふるさと納税3.0が生まれた背景をこう振り返る。


 「泉佐野市にも泉州タオルなど豊富な地場産品があります。ただ、全国的に見て人気のある返礼品が多いかというと、そうではありませんでした。ないなら作ろうと考えてスタートしたのがふるさと納税3.0です」


 同市担当者によれば、制度復帰直後のふるさと納税の受け入れ額はピーク時の70分の1ほどだった。何もしなければ年間7億円程度となる見込みだったが、ふるさと納税3.0の仕組みを導入した結果、2020年度は約22億5000万円で着地した。以来、食品や家電などの工場が新設され、全国の人気返礼品と競えるラインアップが少しずつそろっていった。また、元々あった地場産品への引き合いも強まり、2025年度の受け入れ額は約230億円と、6年ぶりに全国トップへと返り咲いたのである。


●「よなよなエール」の人気がつないだ縁


 ふるさと納税3.0の寄付は、工場や加工場といったハードへの投資が中心だ。市外から事業者を呼び込むため、企業誘致とも言える。その代表例がヤッホーブルーイングだった。


 同社と泉佐野市の縁は2017年ごろにさかのぼる。その頃、泉佐野市は大手メーカーの複数のビールを返礼品にしており、その中にヤッホーブルーイングの主力商品である「よなよなエール」も含まれていた。大阪醸造所のユニットディレクターで、当時ふるさと納税関連の窓口担当だった谷篤実氏は言う。


 「当社からお願いしたわけではなく、たまたま返礼品の一つとして入っていました。他社のビールと比べてとにかく人気だったそうです。インターネットでお酒を買うことに抵抗ない方に選ばれていたので、その点がふるさと納税ともマッチしたのだと思います」


 ところが、2019年以降、返礼品は地場産品であることが条件になり、泉佐野市はよなよなエールを扱えなくなった。そこで市が持ちかけたのが、ふるさと納税3.0を活用したビール醸造所の建設だった。


 「大手ビールメーカーが泉佐野市にこの規模の工場を作るのは難しいと思いますが、当社には可能性があると、泉佐野市の担当者が感じてくれたのだと思います」(谷氏)


 2021年9月には、企業誘致と地域活性化に関する基本合意書を締結。それに合わせてスタートしたCFの目標額は10億円。ふるさと納税3.0として過去最大規模のプロジェクトだった。期限は2022年3月末で、10億円に達すれば同社が構想を具体化するという条件付きだった。結果、段階的に多額の寄付金を集め、2025年度までに累計65億円となった。


 同社にとっても、関西エリアの開拓は大きな目標だった。谷氏は次のように述べる。


 「『返礼品を作るためのビール工場』のようにも見えてしまいますが、私たちはここを工場とは思っていません。関西でクラフトビールをもっと広めていくためのマーケティング拠点だと考えています。泉佐野市もりんくうタウン開発の起爆剤を探しており、その狙いと私たちのビール文化作りの文脈とが合わさったのです。その思いに対し、多くの方々の共感を得られたことが寄付につながったと感じています」


●世界情勢に振り回された5年間


 とはいえ、計画は難航した。基本合意の時点では、2023年秋以降の開業を目指していたが、起工式が行われたのは2025年1月で、その場で施設の正式名称も発表された。結局、合意から開業までは約5年を要している。


 「コロナ禍などを経て、世界は大きく変わってしまいました。そうした状況でも、私たちがやりたいことを実現しなければならない。本当に大変でしたし、建設会社や寄付者、行政の方など、たくさんの人に支えていただきました」と谷氏は振り返る。


 特に影響が大きかったのは、ロシアのウクライナ侵攻だという。ドイツやイタリアから船で輸送する醸造設備は、戦争の影響で輸送費や保険料などが高騰し、船の手配もままならなかった。


 一方で、けがの功名もあった。開業に向けて採用したスタッフがなかなか大阪に赴任できなかった分、トレーニングに長い時間を割くことができたのである。「チームで働くこと、スキルを身に付けることについては非常にポジティブに働き、結果的に施設の立ち上げは非常にスムーズでした」と谷氏は力を込める。


●誰よりもルールに詳しい市の職員


 気になるのは、いかにして65億円という巨額の寄付を集めたかだ。ふるさと納税3.0の仕組みを使えば、どの事業者でも寄付を集められるわけではない。泉佐野市の担当者も「うまくいかないプロジェクトもある」と話す。


 谷氏は「泉佐野市の協力が大きかった」と振り返る。


 「本来は資本を投下して広告を出稿するのが王道です。しかし、ふるさと納税は総務省によって細かく規制されていて、基本的にはそのようなPRができません。返礼品を提供する事業者がPRする前例もほとんどなく、地道にやるしかなかったのです」


 そんな中、頼りになったのが泉佐野市の職員だった。


 「泉佐野市の方々は、ふるさと納税のルールにとにかく詳しいんです。そんな職員の皆さんと一緒に、適法かつ適切で、効果があるアピール方法を考えていきました」


 例えば、テレビ番組の自治体PRコーナーに市と一緒に出演する、イベントで市のブースに並んで立つなど、地道に露出を積み重ねたのである。


 もう一つ、谷氏がポイントに挙げるのが、寄付者を裏切らないことだ。


 「寄付してくださった方のコメントやご意見は、ほぼ全部読んでいます。『完成を楽しみにしています』『こういうビールがあったらうれしいです』という声を聞き、できる限り調整します。返礼品に同封する冊子を楽しいものにするなど、かつて通販の業務で培った経験を生かしました」


 よなよなビアライズの開業後、寄付者が実際に店を訪れることもあった。「『5年も経ったけど、完成して良かったね』と言ってもらい、一緒に乾杯する素敵な時間でした」と谷氏は顔をほころばせた。


著者プロフィール


伏見学(ふしみ まなぶ)


フリーランス記者。1979年生まれ。神奈川県出身。専門テーマは「地方創生」「働き方/生き方」。慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院政策・メディア研究科修了。ニュースサイト「ITmedia」を経て、社会課題解決メディア「Renews」の立ち上げに参画。



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  • まって。これって、地域民のビール消費以外の生活にどの程度の貢献度があるの??ふるさと納税って……?(2026年09月30日 08:21 ITmedia ビジネスオンライン)
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