【F1】ホンダPU責任者の交代劇、浅木泰昭はどう読んだ?「私が人事を担当する立場だったら......」

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2026年09月30日 10:01  webスポルティーバ

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【連載】元ホンダ・浅木泰昭
「F1解説・アサキの視点」第17回(前編)

 2026年シーズンのF1は終盤戦に突入した。しかし、いまだアストンマーティン・ホンダは苦戦を強いられている。

 後半戦のスタートとなった第12戦オランダGPのザントフォールト・サーキットに、ホンダは大幅にアップデートしたパワーユニット(PU)を持ち込んだ。そして決勝では、フェルナンド・アロンソが中団グループのなかで奮闘して、今季最高の9位入賞を果たす。

 開幕から続いていた長いトンネルを、ついに脱したかに見えた。だが、その後のレースでは再び下位に沈んでしまった。入賞はおろか、トラブルで完走さえままならない戦いが続いている。

 そして9月14日、ホンダ・レーシング(HRC)はPUの開発責任者(LPL)を10月1日付で交代すると発表した。ホンダは何に苦しみ、いつ復活できるのか? 元ホンダ技術者でF1解説者の浅木泰昭氏に話を聞いた。

   ※   ※   ※   ※   ※

 第12戦オランダGPで、ホンダは大幅にアップデートしたパワーユニット「スペック2」を投入しました。そして、フェルナンド・アロンソ選手がアストンマーティン・ホンダとして今季最高の9位入賞を果たしました。

 しかし、その後のレースを見ると、正直、期待ほどのパフォーマンスは発揮できていないと言わざるを得ません。ガタガタな状態だったのを多少は立て直したことにはなるのでしょうが、もうちょっと目に見えるような進化を期待していました。

 たとえば、「スペック2にはまだ荒々しさがあるけれども、ピークパワーは出ていたよね」とか。そういう"光るところ"を見たかった。

 シーズンが進むにつれて、競争相手もPUの改良をいろいろと進めてくるので、パワーは自然と全体的に上がっていくわけです。そのなかで優勝しようとすると、メルセデスやフェラーリといったライバルよりも急な角度で、PU性能を向上させていく必要があります。

 そういう観点で見ていると、今回のスペック2は多少のパワーアップがあったと思いますが、小改良というレベルにとどまっていたと思います。この傾き(角度)では、現行のレギュレーションが終了する2030年シーズンまでにライバルに追いつくことができるのか──。そんな不安を感じるような傾きに見えました。

【何か手を打たないとダメだと判断?】

 ホンダには、今シーズン導入された新システム「ADUO」(追加開発・アップグレード機会)でアップグレードできる権利が2回ありますが、オランダGPでの1回にとどめると言われています。そうなると、次のアップデートは来年の開幕戦になると思います。

 フェラーリはADUOを利用した2回のアップデートをすでに投入し、メルセデスは10月中に1回アップデートする予定だと言われています。つまり今シーズン、ライバルとのギャップは開くことがあっても、基本的にはこのまま変わらない。アストンマーティン・ホンダとしては、パワー的には相当苦しい状況で残りのレースを戦わなければなりません。

 そんななか、ホンダが2026年10月1日付で開発責任者(LPL)を交代すると発表しました。LPLはラージ・プロジェクト・リーダーの略語で、F1プロジェクトではPUの開発責任者です。

 これまでアストンマーティンと組んだ第5期のPU開発を牽引してきた角田哲史LPLに代わって、アシスタントLPL(F1プロジェクト副責任者・ソフトウェア部門責任者)を務めてきた深尾洋一郎氏が新しいLPLに就任します。

 普通に考えたら、2027年シーズンのPUで何をやるのか、というのはすでに決まっており、この時期は最終確認の段階です。つまり、2027年シーズンの開幕戦に投入するPUのスペックはほぼ見えてきています。

 少なくとも、私が人事を担当する立場にいて、来年のPUがすばらしい性能を発揮するとわかっていたら、開発リーダーを変えるようなことはしません。そんなことをすると、むしろ組織のなかで変なゴタゴタが起こる可能性がありますから。

 おそらくホンダ内部で、従来の体制で開発を進めていくとどうなるかを話し合うなかで、2027年のPUの様子が見えてきて、このままの開発スピードではいつまで経ってもライバルに追いつくことができない、何か手を打たないとダメだと判断した......というのが私の推測です。

【2017年頃のホンダに戻ってしまった】

 今シーズンの成績を振り返ると、PUの開発リーダーが責任を取るのは当然だと思います。「うまくいったらLPLのおかげ、失敗すればLPLのせい」。それがF1プロジェクトのLPLの役割ですから。

 私は2017年の夏頃からF1プロジェクトのLPLに就任しましたが、その時代にALPL(アシスタント・ラージ・プロジェクト・リーダー)、日本語で言うと「LPL代行」を務めていたのが角田氏と深尾氏です。設計系のLPL代行が角田氏で、テスト系のLPL代行が深尾氏。いわば「助さんと格さん」みたいな感じでした。

 角田氏と深尾氏のふたりは、レッドブルとともに黄金時代を築き上げた時のキーパーソンでした。私の背中を見てきたふたりには、私がいなくなったあとにリーダーとして開発チームを牽引して、ホンダF1をさらに前に進めてくれることを期待していました。彼らの能力を信じてふたりに託したということです。

 レギュレーションが大きく変わった2026年、新しくリーダーになったふたりがどんなPUを開発し、どうやって勝っていくのかを期待しながら見てきました。でも結局、私が第4期でF1プロジェクトに行く前、マクラーレンと組んでいた2017年シーズン頃のホンダに戻ってしまったような印象です。

 今、ホンダのPUがライバルに負けている本質は「パワーがないこと」です。それ以上でもそれ以下でもありません。

 その大きな原因となっているのは、今年のレギュレーション変更によって内燃機関(エンジン)の圧縮比の上限が18:1から16:1に引き下げられ、高速燃焼が起きにくくなったことではないかと、私は見ていました。

 オランダGPで投入されたスペック2でも高速燃焼は起きており、多少のパワーアップは実現しています。しかし、あいかわらずライバルに比べて十分なレベルに達していない、というのが私の見立てです。

【ルールの抜け穴を利用することも必要】

 高速燃焼の手法は、ひとつではないかもしれません。メルセデスやフェラーリもそれぞれ別の方法で高速燃焼を実現していると思います。ただ、高速で燃えなければ馬力が出ないのは間違いありません。

 今の燃料エネルギー流量の規制があるなかで熱効率を上げるためには、いかに一瞬で燃やすか。そこを追求していくしかないのですが、今年のホンダの内燃機関はそこで失敗をしています。失敗というのは相対的なものですが、私の見立てでは新規参入のアウディよりも燃焼速度が遅いのが現実です。

 まずは現行のレギュレーションのなかで、ライバルと同等のパワーを発揮するだけの高速燃焼を実現させること。それと同時に、性能向上が見込めるレギュレーションのグレーゾーンを見つける作戦を並行して進めていくしかないと思います。

 今シーズンはメルセデスやレッドブルがレギュレーションの抜け穴を見つけ、マシン走行時に実質的な圧縮比を高める方法でパワーアップに成功したと言われています。F1で勝つためには、ルールの抜け穴を利用することも必要となります。まずは燃焼の問題を何とかしなければ、優勝争いのスタート地点にすら立てないと思っています。

(つづく)

◆第17回・後編>>ホンダの新リーダー「深尾LPLには腹をくくってほしい」


【profile】
浅木泰昭(あさき・やすあき)
1958年、広島県生まれ。1981年に本田技術研究所に入社し、第2期ホンダF1、初代オデッセイ、アコード、N-BOXなどの開発に携わる。2017年から第4期ホンダF1に復帰し、2021年までパワーユニット開発の陣頭指揮を執る。第4期活動の最終年となった2021年シーズン、ホンダは30年ぶりのタイトルを獲得。2023年春、ホンダを定年退職。現在はF1コメンテーターとして活躍。初の著書『危機を乗り越える力 ホンダF1を世界一に導いた技術者のどん底からの挑戦』(集英社インターナショナル)が好評発売中。

川原田 剛●取材・文 text by Tsuyoshi Kawarada

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