
アームが景品をつかんで、持ち上げて、あと少しのところで落ちる。「次こそは」と、また100円玉を入れてしまう。クレーンゲームでそんな経験をしたことはないでしょうか。いま、そのクレーンゲームがゲームセンターの売上の大半を占め、食べ物や日用品を景品にした専門店まで増えています。取れそうで取れない遊びは、どんな決まりと計算で成り立っているのか。ゲームセンターの稼ぎ方の核心について、リサーチャーのcomugiが解説します。
(TBS Podcast『コムギコ:資本主義をハックしろ!!』2026年9月28日配信『人生は、運か実力か。なぜ人生ゲームは全員が最後まで遊べて、モノポリーは1人しか勝てないのか?』より)
ゲームセンターの稼ぎ頭は、ビデオゲームではないゲームセンターでいちばん稼いでいるのは、画面の中で遊ぶビデオゲームではありません。日本アミューズメント産業協会の調査では、2024年度のゲームセンターやゲームコーナーなどの売上は、推計で6,148億円。そのうちクレーンゲームが3,918億円。3分の2近くを占めています。テレビゲームは266億円で、全体の4%ほどにとどまります。
この逆転は、最近始まったことではありません。協会の前身の団体などが共同でまとめた2000年度の調査を見ると、景品を取るゲームが2,151億円、テレビゲームが1,124億円で、すでに景品のほうが上回っていました。四半世紀も前から、ゲームセンターの主役は、景品を取るゲームだったのです。
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対戦格闘ゲームやレースゲームに人が集まっていた時代の記憶があると、意外に感じるかもしれません。けれども数字で見ると、ゲームセンターはずいぶん前から、景品を手に入れる場所に変わっていました。
食べ物や日用品を景品にする専門店いちばん新しい変化が、食べ物や日用品を景品にしたクレーンゲーム専門店です。ポイントは、景品を変えることで、お客さんの顔ぶれまで変えようとしていることです。
これまでクレーンゲームの景品の主役は、アニメやゲームのキャラクターのぬいぐるみやフィギュアでした。好きなキャラクターのグッズを集める、いわゆる推し活をする学生など若い世代が、主なお客さんです。ところが、お菓子や飲み物、調味料、生活雑貨が並ぶと、景品を欲しいと思う人の幅が一気に広がります。
イオングループでゲームセンターを運営するイオンファンタジーは、2025年の秋に「クレーン横丁 極(きわみ)」という新しいお店を始めました。会社の資料では、同じ会社のこれまでのゲームセンター「モーリーファンタジー」と並べて、その違いを説明しています。
モーリーファンタジーは、ぬいぐるみや玩具、キャラクターグッズが中心で、お客さんは子どもやファミリー、学生。極は、飲み物や食品、調味料、生活雑貨が中心で、平日は主婦層、週末は子ども連れの家族をお客さんとして見込んでいます。広い店内と「とれやすい」ことも特徴に掲げています。2026年9月の発表では、8月の売上が、出店した6店舗すべてで計画を上回ったといいます。
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この業界にはゲーム会社ではない会社も入ってきています。パチンコ店を運営するダイナムのグループは、パチンコ店だった建物を作り替えて、クレーンゲームのお店を開きました。会社の発表では、倉庫のような大型のクレーンゲーム店がホビー商品やフィギュアを主役にしているのに対し、食品や日用品を景品の中心にしている点を最大の特徴に挙げています。メインのお客さんとして見込んでいるのは、主婦層や家族連れです。国道沿いで駐車場が広く、毎日の買い物のついでに寄れる場所です。埼玉県の会社が運営する専門店「エブリデイ」は、10円で遊べる台を看板にしています。
キャラクターのグッズを目当てに来る人に加えて、買い物のついでに寄る人まで呼び込む。景品の幅を広げることで、これまでゲームセンターにあまり足を運ばなかった大人や家族を、新しいお客さんとして連れてこようとしているのです。
景品は、1つ「おおむね1,000円以下」筆者も先日、食品のクレーンゲーム専門店で、気がついたら8,000円近く使っていました。けれども、何千円つぎ込んでも、取れる景品は1つおおむね1,000円までです。ルールで、そう決まっているのです。
ゲームセンターは、風営法という法律で、遊んだ結果に応じて賞品を出すことが原則として禁じられています。そのうえで警察庁は、クレーンで釣り上げるなどした物品で、小売価格がおおむね1,000円以下のものなら、賞品を出したことには当たらないものとして扱う、としています。この金額は、2022年に800円から引き上げられました。
ここで気をつけたいのは、1,000円はあくまで景品の値段の目安だということです。お客さんが使っていいお金の上限ではありませんし、1,000円使えば必ず取れるという保証でもありません。筆者の8,000円も、取れた景品の値段を合わせると、使った額にはとても届きませんでした。
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では、取れるかどうかを、お店はどこまで決めているのでしょうか。クレーンゲームの機械メーカーの手引きを見ると、アームのつかむ力、爪の角度、アームが下りる深さ、景品を離すタイミングといったところを、お店が調整できるようになっています。景品の出方に合わせて、自動で難しさを変える機械もあります。
大事なのは、調整するのが取れすぎるときだけではない、という点です。手引きには、景品が想定より多く出る場合と、想定より出ない場合の、両方の対処が書かれています。取れなさすぎるときにも、調整するのです。
お店のお金の流れも見てみましょう。日本アミューズメント産業協会の資料では、クレーンゲームなど景品を取るゲームの売上のうち、景品の仕入れに使うお金は3割ほどです。残りから、家賃や人件費、機械の代金を払っています。取れやすくすれば景品代がかさみ、取れにくすぎればお客さんの足が遠のくおそれがある。お店は、そのあいだで設定を決めています。
「手ぶらでは帰さない」という計算ふつうのゲームセンターのクレーンゲームは、取れそうで取れない、そのさじ加減に面白さがありました。ところが、いま増えている食品のクレーンゲーム専門店の中には、あえて取りやすくしているお店もあります。
関東でクレーンゲーム専門店「Benex(ベネクス)」を運営するティスコは、「せっかく来てくれた方を、手ぶらでは帰さない」をモットーに掲げています。苦戦しているお客さんには、スタッフが声をかけて、一緒に攻略法を考えるそうです。先ほどのイオンファンタジーも、「とれやすい」ことをお店の特徴にしていました。
取りやすさや、攻略を手伝う接客で満足してもらい、何度も足を運んでもらう。スーパーの買い物のように、日常の中でくり返し使ってもらう考え方です。ただ、売上に対して景品の費用が増えすぎれば、採算が合わなくなります。取りやすさには、お店ごとの計算があるのです。
「惜しい」に、お金を払っている最後に、あと少しで落ちなかった瞬間の話に戻ります。イギリスのケンブリッジ大学の実験心理学の研究者たちが、簡単なスロットマシンで実験したところ、自分で絵柄を選べる場合には、あと一歩で外れる「惜しい」結果は、大外れよりも不快なのに、もう一回やりたいという気持ちを強めていました。ただし、カナダのウォータールー大学でスクラッチくじを使って調べた実験では、気持ちは強くなっても、実際に買い足す人が増えたとは確認できませんでした。気持ちが高まることと、お金を使うことは別なのです。
それでも、クレーンゲームには、自分の腕で手が届きそうに見える「惜しい」があります。あと少しだったのだから、腕を上げれば取れるかもしれない。8,000円を使った帰り道、筆者が「また行ってもいいな」と思ったのも、その「惜しい」のせいでした。
お客さんの腕と、お店の設定と、景品の魅力。クレーンゲームは、その3つの組み合わせでできています。私たちがお金を払っているのは、景品そのものだけでなく、「次は取れるかもしれない」という気持ちなのかもしれません。
<コムギコ:資本主義をハックしろ!!>
毎日ニュースを100本を読むビジネス系VTuberのリサーチャーであるコムギ(comugi)が、日々の経済にまつわるニュースを解説するビデオポッドキャスト。本記事は2026年9月28日配信『人生は、運か実力か。なぜ人生ゲームは全員が最後まで遊べて、モノポリーは1人しか勝てないのか?』から抜粋してまとめたものです。
