
清水邦広が振り返るアジア選手権 中編
(前編>>)
元日本代表・清水邦広が振り返るアジア選手権の中編。大会優勝の立役者に挙げた深津英臣、キャプテンの石川祐希、西田有志をはじめ各ポジションの選手について語った。
【ベテランが背負った重責と残した結果】
――前編では�盒桐�選手のすごさについて語っていただきましたが、ほかに印象に残った選手はいますか?
清水邦広(以下、清水) 優勝の立役者という意味では、セッターの深津英臣選手です。36歳という年齢で、スタートで出続けて体力的にも精神的にも相当きつかったと思うんです。2016年に、リオ五輪のOQT(最終予選)というプレッシャーのかかる大会で敗れ、オリンピック本大会へ行けない挫折を味わった。「負けたらこうなる」という怖さを誰よりも味わってきたはずです。
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だからこそ今回は、「絶対に勝たないといけない」という思いが誰より強かったと思いますし、一方で「負けたらどうしよう」という気持ちも絶対にあったはずです。ベテランになればなるほど背負うものが増えて、プレッシャーも大きくなります。ネーションズリーグからずっとスタートで出続けて、日本代表の素晴らしいスパイカーたちにトスを上げないといけないわけですから、相当苦しかったと思います。
――サーブも効果的でしたね。
清水 ブレイク率が非常に高かったですし、どこを狙うか明確で、計算できるサーバーでした。石川祐希選手とのコンビがなかなか合わなくて、「トスが短いのかな」と思うこともありましたが、大会期間中にしっかり合わせていました。セッターとして攻撃のバランスはもちろん考えながら、スパイカー全員のモチベーションも上げないといけない。本当に難しいポジションです。
もし僕が深津選手の立場だったら、相当きつくて寝られないくらいプレッシャーがかかっていたと思います。でも、それを周りに見せないのが彼のよさです。いろんな思いを抱え、いろんなことを言われるポジションのセッターという重責を背負い、チームの雰囲気づくりに徹していた。まさに優勝の立役者でした。
【最後をエースに託すことの意味】
――石川選手とのコンビがなかなか合わなかった、とのことですが、準決勝の韓国戦では石川選手が復調するも、決勝のイラン戦はブロックに捕まるなど苦しむ場面がありました。
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清水 イラン代表の監督は石川選手がミラノに所属していた時代の監督なので、石川選手のことをよく知っています。「徹底的に潰す」という戦術で臨んできていましたし、石川選手だけでなく藍選手に対してもかなりプレッシャーをかけてきました。ライト側や真ん中は多少決められてもいいから、とにかくレフトを抑えることを徹底しているように見えましたね。
最初にブロックされて石川選手は苦しかったと思いますし、サーブでも狙われ続けていましたが、それでもキャプテンとしてチームを引っ張っていた。いいパスを返し続けていましたし、サービスエースもいいところで出ていました。誰でも調子の波はありますし、得意なところをマークされて思い通りにいかないこともあります。ただ、彼はひとつうまくいかなくても、折れずにクオリティを上げられる。イラン戦の2セット目の最後、サービスエースを決めた時も「ああいうところで決めるのが石川選手だよな」と思いました。
――勝利を決めた最後の得点も石川選手でしたね。
清水 あれは僕も、試合を見ていて「そこは石川選手でしょ」と思っていました。1本目はブロックされましたけど、「次も石川選手に上げるやろ」と思ったし、長年やってきた"阿吽の呼吸"じゃないですけど、エースに託すのはわかっていました。
――あの選択に関しては「エース勝負にこだわらないほうがいい」という意見もあります。清水さんは最後の1本について、どう思いますか?
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清水 僕は全然いいと思うし、やっている選手にはわかるんです。「ここは石川選手だろう」って。たとえ石川選手がブロックされて負けたとしても、みんなが納得できる。もし違う選手に託して負けた時のほうが、「託しておけばよかった」という気持ちになるだろうし、深津選手も嫌だと思います。
僕も日本代表やパナソニックパンサーズ(現・大阪ブルテオン)で長く一緒にプレーしてきたので彼の気持ちはわかるし、僕も「絶対俺に上げろよ」と言ってきた。だから、最後はあの選択でよかったと思います。
【ミドルブロッカー陣と西田有志の評価】
――サーブやブロックディフェンスなどさまざまな強さがありましたが、清水さんもおっしゃっていたように、誰が出てもそれぞれの役割を果たしていました。選手層の厚さも印象的でしたね。
清水 もう、全員のことを語りたいです(笑)。語っていいですか?
――ぜひ語ってください(笑)。まずミドルブロッカーからお願いします。
清水 スタメンの選手からいうと、小野寺太志選手はネーションズリーグではコートに倒れ込むアクシデントがありましたが、アジア選手権はミドルとして大きな役割を果たしていました。そこまで派手さはないですが、大事なところでブロックタッチを取っていたし、サービスエースも決めていましたね。気づいたら点を取っている、というのが小野寺選手の特徴で強みだと思います。
逆にエバデダン ラリー選手は、ピンチの時にブロックでプレッシャーをかけていた。たとえば同点や1点リードされて、「この1点を取られたら相手に流れがいく」という場面で、石川選手にトスが上がったけど、相手がブロックタッチをとってつないだ。そういった「うわー、嫌だな」というところで、ラリー選手がブロックする場面が何度もありました。本当に大きかったですね。
――オポジットの西田有志選手は、決勝戦ではレシーブ面でも活躍が目立ちました。
清水 めちゃめちゃすごかったですし、西田選手は年々レシーブ力が上がっている印象です。技術で上げているというよりも、フィジカル、身体能力で上げているイメージですね。少しでもボールが上がれば全員がカバーしてくれるから、まずは「ボールを上げる」ということにフォーカスしている。これは西田選手に限らず、日本の選手は全員がそうで、リベロも含めて「みんなきれいにつながなければいけない」と思うのではなく、「身体のどこかに当たればつながる」という考え方が統一されています。
セッターの深津選手だけでなく、誰が上げてもきれいなトスにしてくれるから、レシーブで無理する必要がないんです。ロラン・ティリ監督のディフェンス練習ではいつもその意識づけをしていて、それはパンサーズ時代から変わらないのですが、日本代表にも浸透してきた印象です。西田選手が体現していたと思います。
――もちろん、攻撃面での活躍も素晴らしかったですね。
清水 彼はプレッシャーがかかった大きな舞台になるほど、力を発揮しますね。SVリーグの決勝、アジア選手権もそうですが、石川選手の調子が上がらない状況でも「ここは俺の舞台だ」とばかりに自分の力でねじ伏せる。昨シーズンは日本代表から離れて、スパイクを基礎から見直して、アジリティ、ダッシュ、走り込みを強化してパワーもつきました。その成果を発揮していたと思います。
オポジットは西田選手だけでなく、途中から入る宮浦健人選手もすごかったです。出れば必ず決めてくれるし、「なんでスタートじゃないんだ?」と思うぐらいバランスがいい。途中から入ると1本目は緊張するし、身体が温まっていないとコースが甘くなったりするものなんです。でも宮浦選手は、ずっとコートに立っていたんじゃないかというぐらいキレがあった。さすがの安定感でした。
長くなりますが、ほかの選手ももう少し語らせてください!
(後編>>)
【プロフィール】
清水邦広(しみず・くにひろ)
所属:大阪ブルテオン
1986年8月11日生まれ、福井県出身。身長192cm、オポジット。福井工大福井高校時代に春高バレーに出場するなど活躍。東海大学在学中の2007年に日本代表に選出され、翌年の北京五輪に出場した。2009年にパナソニックパンサーズ(現・大阪ブルテオン)に入団後、多くの個人タイトルを獲得するなど、チームを何度も優勝に導いてきた。2021年には東京五輪に出場し、日本代表のベスト8進出に貢献した。2025−26シーズン限りで現役を引退し、大阪ブルテオンのコーチングスタッフに就任した。
田中夕子●取材・文 text by Yuko Tanaka
