JALグループ、コールセンターに眠る「200万件の声」 AIで“検索できる宝”に変えた地道なDXの裏側

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2026年10月08日 22:11  ITmedia ビジネスオンライン

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JALデジタル デジタル戦略部 データ活用推進グループ マネージャーの吉岡美江氏(筆者撮影)

 年間200万件を超えるコールセンターの音声データや、社内にたまった航空券の予約データ――JALグループではこうしたデータを業務改善につなげるため、現場の担当者とデジタル部門が一緒に課題を探りながら、データの活用方法を検証している。


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 自然言語でデータを検索・分析できる環境の整備や、音声データから顧客の問い合わせ傾向を把握する仕組みづくりもその一環だ。現場の業務知見とデータの専門知識を組み合わせながら、実際の業務で使えるデータ活用を目指している。


 そのデータ活用、AI活用は一足飛びに進展したわけではない。現場の声を聞き、課題を地道に解決していった。JALグループがかなえたDXの裏側を、JALデジタル(東京都港区)のキーパーソンが語った。


 本記事は米Snowflake主催イベント「Snowflake World Tour Tokyo 2026」におけるセッション「『声』のデータを迷わず使える武器へ。JALグループが実践する現場起点のデータ変革」を基に構成。


●デジタル部門と現場の距離をどう縮めるか? 直面した「2つの壁」


 JALグループでは、日本航空をはじめとするフルサービスキャリアや格安航空会社(LCC)のZIPAIRのほか、貨物・郵便、マイル、コマース、金融など、幅広い事業を展開している。1日平均約1000便を運航し、年間4600万人以上が利用する。連結グループ会社は50社を超え、約4万人の社員が働く。


 こうしたグループ全体のデジタル戦略や開発、運用を担う体制として、2026年4月にグループのデジタル機能をJALデジタルに集約した。従来は、日本航空本体が企画し、IT子会社が開発・運用する分業体制だったが、機能や人材を集約することで、戦略策定から実行までを一貫して進められる体制を整えた。


 JALデジタルでデジタル戦略部 データ活用推進グループのマネージャーを務める吉岡美江氏は、従来のDX推進について次のように振り返る。


 「従来の体制では、デジタル部門と業務部門の間に少し距離があり、現場の課題が置き去りになってしまうこともありました」


 そこで、各業務部門からデジタル担当者をアサインし、現場に伴走しながら課題解決を支援する体制へと転換した。データ活用推進グループも現場に足を運び、業務を理解した上で担当者とともに課題を見つけ、データを使った解決策を描いている。


 その過程で浮かび上がった課題が、


(1)BIツールを使える人材が限られていること


(2)コールセンターの音声データを業務改善に生かしきれていないこと


――の2つだった。


●目指したのは専門知識不要のデータ活用 AIを“社内の翻訳機”に育てる 


 社内には高度な分析を担う専門組織があり、業務部門にもBIツールを使う担当者がいる。一方で、データをどのように業務へ生かせばよいか分からず、分析の専門組織やシステム担当者にデータ抽出を依頼する社員も少なくない。


 JALデジタルのデータ活用推進グループ チーフを務める野口真聖氏は、この状況について次のように説明する。


 「社内にある大量のデータを活用するには、複雑なデータ構造やSQL(Structured Query Language)などの専門スキルが要求されます。抽出ロジックを考える負荷や特定の有識者への依存が、現場の迅速な仮説検証を阻害していました」


 そこで同社は、米SnowflakeのAIプラットフォーム「Cortex AI」と、社内の業務知識を組み込んだ「セマンティックビュー」を組み合わせ、自然言語で直感的にデータ分析ができる環境構築を目指した。


 セマンティックビューは、社内独自の用語やデータの意味、計算ルールなどを定義し、ビジネス上の言葉とデータを結び付ける“翻訳機”のような役割を担う。例えば、社内用語や計算ロジックを登録することで、AIが質問の意図を読み取り、適切なデータへアクセスできるようにする。


 最初の検証では、過去にデータ抽出の依頼が多かった「航空券の予約データ」「顧客データ」の抽出を代替するエージェントを構築した。日々、BIツールを使う業務部門のユーザーを想定し、ミスが許されない業務を避けながら、小さく検証を進めた。


 ただ、セマンティックビューを作成してAIに接続するだけで、正確な回答が得られたわけではない。初期段階では運賃種別を判別できなかったり、業務で使用しない粒度で集計されていたりと、社内特有の文脈を理解できず、回答の精度に課題があった。


 そこで、データ項目の意味や社内用語、集計方法などを細かく定義し、過去の問い合わせと正解となるSQLを登録するなど、実務に合った回答を得るための調整を重ねた。


 「実際に使える回答を得るには、地道なチューニングが必要でした。想定される問い合わせを事前に準備し、生成されたSQLが正解かどうかを判断する人間のスキルも重要になります」(野口氏)


 こうした調整により、運賃の名称や空港名のマスターを適切に定義し、業務の文脈に沿ったデータ抽出や集計が可能になった。


 運用面では、JALデジタルが初期構築や権限管理、コスト管理を担い、分析部門が業務知識の定義や精度改善を担当する。業務部門は実際に利用し、業務で使えるかを評価してフィードバックする。野口氏は「データの構造を理解するデータの知見と、実務を知るビジネスの知見、両方が必要」と話す。


●約200万件の音声データを検索可能に AIを活用したデータ変換


 もう一つの課題が、コールセンターの音声データ活用だ。JALグループには、マイレージ、予約・発券、カード、ツアーなど複数のコールセンターがあり、年間約200万件の電話を受けている。


 音声には顧客の本音や業務改善のヒントが含まれる。しかし、全ての録音を聞くことは難しく、検索や分析もしやすい状態ではなかった。


 データ活用推進グループ チーフの川名優輝氏は、現場との対話から見えてきた課題として、個人情報の保護、リアルタイムでの課題の把握、FAQ改善の3点を挙げる。


 コールセンターでは本人確認のために個人情報を聞き取るため、音声データの取り扱いに注意を要する。また、新サービスに対する顧客の反応や意見の変化をすぐに把握することも難しかった。顧客が自己解決できず電話に至った原因を調べるには、個々の音声を確認する必要があった。


 同社はこれらの課題に対し、Snowflake上で音声データを処理し、分析可能なデータへ変換する仕組みを検証した。音声データを文字に起こし、要約や個人情報の除去、問い合わせ内容の分類をすることで、これまで扱いにくかったデータを検索や集計の対象にした。


 個人情報の除去や日本語での要約、分類には、AIへの指示文を工夫するなどの調整をした。


 同社は今後、増え続ける録音データを自動で処理できる仕組みを整え、同様の課題を抱えるグループ内のコールセンターへの横展開を目指すという。


●JALグループが描く「業務で使える」データ活用の未来


 吉岡氏は、現場起点のデータ活用を進める上で、デジタル担当者の役割について次のように語る。


 「大切なのは、現場と同じ目線を持つ伴走者になることです。自ら業務を知る努力をして、誰にでも分かる言葉で対話するなど、コミュニケーションの工夫の積み重ねが信頼関係を築く土台になってきます」


 現場が持つビジネス知見と、デジタル部門が持つデータの知見を組み合わせる。さらに、デジタル担当者が最新技術に挑戦するマインドを持ち続ける――JALグループは、こうした現場との関係づくりと技術の検証を重ねながら、データを業務で使える環境の整備を進めている。



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