
僕は田舎に生まれた男だ。宮崎県の椎葉村という小さな集落で幼少期を過ごし、そこから両親が離婚したのをきっかけに、ちょっと離れた延岡市に移住した。延岡ってのは、チキン南蛮と辛麺の発祥地としてグルメな人には知られているらしい。まあ、椎葉も延岡も、どっちも田舎である。
そんで18歳になって神奈川で働いて、横須賀、小田原を転々として。福岡とか新潟でも暮らしてみて。それからライターになってからは都内での仕事の機会も増えたんで、今では目を閉じていても駒込ぐらいなら楽々四つん這い移動できるようになった。そんな生活を送っているので、自然と色んな旨いものを食う機会はあった。
結論から言えば、大体どこだろうとちゃんとお金を出せば旨いものは食える。東京だろうと、どこだろうと、それは変わらんように思う。しかし、世の中にはそうは思えない人もいる様子だ。(文:松本ミゾレ)
「普通に考えたら競争激しいところのほうが安くて旨いだろ」
先日、おーぷん2ちゃんねるで「田舎は飯うまいとかって絶対嘘だよなって思う」というスレッドが立っていた。
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スレ主は都会から田舎に移住した人間ということだが「飲食店の選択肢が少なすぎてキツい」と漏らしている。分かる。地域によっては「おい、この村うどん屋しかないやんけ」ってことも結構あるし。
スレ主の主張としては特に多いわけではないが「普通に考えたら競争激しいところのほうが安くて旨いだろ」と、まあおっしゃる通りといった塩梅。僕としても、父方の祖父母が送ってくれた猪肉、鹿肉はマジでご馳走レベルで旨かったんだけど、都内で食べた猪肉のパテだって比肩するレベルで臭みも消えてて旨かった、という経験がある。
宮崎は太平洋側だったから地元で採れた魚も新鮮なまま食卓に上がってたけど、これも正直、関東圏のチェーンで出てくる刺身とそんなに変わらない。値段は都会の方が高かったけど、味に関しては東京のものだって馬鹿にできなかった。
あ、でも高知の人は本当に鰹の味に凄い自負を持ってるよね。他所のは臭くて食えないとか言うレベルで。残念なことにその高知の鰹をまだ食ったことがない。これはひょっとすると、凄い勿体ないことなのかもしれない。
なにより、僕が青春時代を過ごした延岡発祥のチキン南蛮。チキン南蛮も気付けば、全国どこでも食えるようになった。
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これも店によっては調理法がただの唐揚げだったり、そもそも甘酢にくぐらせてないなど、話にならんものを提供してる場合はあるが、ちゃんとこだわってる店はある。そういう店で食うチキン南蛮は、発祥の地出身の僕ですら違和感なく食べれるんだよね。まあ、「おぐら」をかなり精密にトレスしてる店って結構あるよ。
さすがに本家本元の、タルタル掛かってない「直(なお)ちゃん」のトレスは、自信がないのかまだ見たことないけど。直ちゃんはもう、別格だから(おぐらも旨いですよ!)。
とかく、田舎と都会を行き来してる人間としては、田舎だから飯が旨いとか、そういうのはさほど実感したことはないかな。色んな土地に住んできたから、その辺は割とフラットに見ているのかもしれない。
セブンのチキン南蛮も普通に旨い
このスレッドでは、スレ主が都会から田舎に移住した上で「田舎は飯が旨いは嘘」と断定している。それはそれで反感を買いやすいものなんだけど、案の定「口がチェーン店なんやろ」といった反論を招いている。
で、これに対して「郷土料理的なのを旅行で食うなら旨いかもしれんが、日常的には食いたくならんで」とまた言い返すスレ主。さらに、「観光地でもないところの田舎料理とかって食えたもんじゃないで」とまで書き込んでいる。
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これに憤る田舎の人も、もしかするといるのかもしれない。でも実際、まあ、そういう面もあるだろう。チキン南蛮とかが全国区になった宮崎だって、他に郷土料理は色々ある。冷や汁とかもそうだよね。でも冷や汁って別にそこまで旨いわけじゃないし。夏場に食うとなんか満足するけど、それはきっと僕が宮崎出身の田舎者だからであって。
時折さ、「チキン南蛮を完全再現していないレシピなのに、チキン南蛮として売ってる都会の店が許せない!」みたいなことを言う宮崎出身者もいる。
でも、そんなこと言う人ほど詳しく掘り下げると延岡出身じゃないし。串間とか西都とか、ほぼ他県じゃんレベルの土地の人なんだよな。
そんで、僕は延岡出身だし。その延岡出身の僕が、全く関係ない地域のセブイレとかに売ってるチキン南蛮弁当とか普通に買うし、食うんだよね。で、文句も一切言わない。「要素を最低限押さえてくれちょるっちゃから、まあいいっちゃが」という感覚だ。
本気で直ちゃんや、おぐらを再現するコンセプトでやってるわけじゃないって分かるから。監修も受けてないし。
ところが、地元への思い入れが強すぎると、少しでも自分の知っているものと違うだけで「これは本物ではない」と腹を立ててしまう人もいる。
そうした地元への自負が膨れ上がった結果として、「田舎は都会よりも飯が旨い」という主張が生まれることもあるのではないか。
しかし、実際に色々食べてみるとわかるが、結局のところ「田舎だから旨い」「都会だから旨くない」と、土地だけで決めつける話でもないだろう。
故郷の味を愛するのは結構なことだし、僕だって直ちゃんのチキン南蛮は別格だと思っている。ただ、その思い入れと、誰が食べても旨いかどうかは別の話である。「田舎のほうが都会より飯が旨い」という言葉には、地元への愛着による補正もかなり乗っている。こういうことを言う人がいたら、話半分で聞いておくぐらいがちょうどよさそうだ。
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