1979年に発売された「ウォークマンの1号機」 “発売初月”は伸び悩むも、「前代未聞の戦略」で大ブレイクするまで

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2026年10月14日 16:01  日刊SPA!

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ウォークマン1号機「TPS-L2」
 いまや音楽を持ち歩くのは常識だが、その先駆けとなった「ウォークマン」は、ポータブルオーディオの代名詞とも言える商品だ。
 1979年に1号機が発売されて以降、50年近くの歴史を重ねてきたが、その船出は順風満帆ではなかった。当初は「録音できないカセットプレーヤーなんて、何に使うの?」と、懐疑的な視線が向けられていたというのだ。

 今回はウォークマンを設計するソニーの担当者に取材し、その誕生の裏側と歴史に迫る。

◆ウォークマン誕生につながった創業者のひと言

 取材に応じてくれたのは、現在もウォークマンシリーズの設計を担当する佐藤浩朗氏。同氏によれば、「ウォークマンが誕生する以前、海外出張の飛行機などで音楽を楽しみたい層に、広く利用されていたのが、『TC-D5』という機種です」という。

 いわゆる「デンスケ」と呼ばれていたシリーズで、タブレット端末を2枚重ねたくらいのサイズ感。

「電池も単一を入れていたので、重さも1.7kgとそこそこありました」

 気軽に持ち運べる代物でないのは明白。このままの仕様ではおそらく日の目を見ることはなかっただろう。一変させたのは、海外出張の多かったソニー創業者の一人である井深大氏の鶴のひと声だ。

「当時販売していた『プレスマン』という商品から、録音機能とスピーカーを外して、もっと小さいものを試作してくれないかという要望があがったと聞いています」

 前例のない商品開発。社内では「録音機能なしでは売れない」という意見も少なくなかった。一方で、一般消費者からも驚きの声は上がっていたようだ。

「当時高校生だった私は、ウォークマンの発売をニュースで見て、『録音ができないってどういうこと?』と、びっくりしたのを覚えています。カセットテープは録音した音声を再生するというのが一般的な使い方でしたから」

◆ウォークマン1号機に詰め込まれた意外な機能

 この井深氏の依頼を知った、もうひとりの創業者である盛田昭夫氏は「これは売れる!」と太鼓判。一気に商品化への機運が高まり、急ピッチで動き出すことになる。

「GOが出たのが1979年の2月なのですが、盛田が『大学生にウケるはずだから、彼らが夏休みに入る7月までに発売できるように』と指示を出したもので、わずか数ヶ月で仕上げる必要がありました」

 1号機には、珍しい機能も搭載されていた。

「ボリューム調整のツマミがLRで二つあります。また、ヘッドフォンジャックも二つあり、二人で聴けるようになってるんですよ」

 音質にこだわる同社らしく、当初からステレオで聴けることにこだわった。これらに加えて開発中に追加で依頼された機能もある。

「録音はできませんが、マイクがついているんです。ヘッドフォンを二つ繋いで、二人で音楽を聴いていたら会話ができないため、そのマイクに話しかけて、声がヘッドフォンからも聞こえるようにしたんです」

◆ヒットに導いた“街中で使わせる”戦略

 予定通りの1979年7月に「ウォークマン」(TPS-L2)がついに発売となる。

 だが、前代未聞の製品ゆえ、発売初月に関しては想定を下回る売り上げにとどまった。翌月になってブレイクしたというが、背景にはマスに向けた広告ではなく、ある個性的なアピールがあった。

「資料を見ると、山手線の車内で弊社社員がこれ見よがしにウォークマンを使っていたそうです。発表会も一風変わっていて、屋外の公園で社員がウォークマンを聴きながらローラースケートで走るという、身をもって使い方の提案をしたようですね」

 ウォークマンは「街に馴染ませる」方法が奏功して、世間に広まっていったのだ。

◆不可能を可能にした小型化

 ポータブルオーディオのパイオニアとして颯爽と登場した「ウォークマン」だが、他社が類似製品を出すようになる。差別化するべく打ち出したソニーの武器は「小型化」だった。

 1983年には「カセットケースのサイズ」がウリの「WM-20」を発売。ただ、カセットケースのサイズにすることは物理的に難しいのではないか。

「伸縮させることによって、不使用時はカセットケースのサイズに変化します。これを『カセットケースのサイズ』と言い切るのは、いかにも弊社っぽいなとは思います(笑)」

 とはいえ、そのキャッチコピーのインパクトもあってか、同機は大きな話題を呼んだ。小型化のために数多くの工夫がなされている。

「IC(集積回路)が低い電圧でも動くように研究を進め、2本必要だった単三電池が1本に。さらにモーターの小型化にも成功。無事に小型化を実現しました」

◆iPodの大ヒットで業界が過渡期に

 時代とともに記録媒体はCD、MD、そしてデジタルオーディオへと移り変わっていく。2001年にAppleから発売されたiPodの大ヒットにより、過渡期に突入する。

「弊社もメモリーウォークマンを1999年に発売していますが、あの時期、使い勝手の面などいろいろあり、主流にはなれない時期でしたね」

 2005年に発売し、その見た目から「香水瓶」とも呼ばれた「NW-E505」シリーズは、シェアトップになったことも。当時は、Apple社のiPodが大ヒットを記録している中での偉業だ。

 その後は、他社を含め高音質モデルが並ぶ時代に。ウォークマンは2013年に高音質のハイレゾ対応モデル NW-ZX1を発売。

「この機種以前は、前作よりサイズを小さくしてきました。しかし、ざっくり言えば『ものが大きい方が音はいい』んですよ。その分岐になったのがここで、よい音質を生むために、前作よりサイズアップするという、新しい進化の方向に進みました」

◆これからも「音質」にこだわりつづける

 その結果、NW-ZX1は一時的に品薄になるようなヒット商品となったのだ。

 発売当初は「売れないのでは」の声もあった「ウォークマン」。それが、開発や広告の工夫を重ねて、50年近くの歴史を重ねてきた。

 今や、モバイルオーディオプレイヤーは私たちの生活に欠かせないが、そんな現代人のライフスタイルの変化をもたらしたと言ってもいいだろう。

 長年追求してきた「小型化」は、デジタルオーディオの登場によってひとつの完成形にたどり着いた感はあるが、佐藤氏は「これまでもこれからも、ソニーは音質にこだわり続けたい」と話す。

 8月には「全モデル出荷終了」との知らせもあったが、取材の中で広報担当者から「ウォークマンの事業は今後も継続していく」との言葉もあった。後継機を含め、今後の展開にも期待が高まる。

<取材・文/Mr.tsubaking>

【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。

このニュースに関するつぶやき

  • 初代ウォークマンのデモテープ。聞いたよね?あれがT-SQUAREだと知った時は驚いた。
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