写真はイメージですEUも「15歳未満はSNSの個人アカウント禁止」へ。子供を画面に縛りつけるSNSへの規制は、いまや世界的な潮流になっている。オーストラリアでは、すでに16歳未満のSNSアカウント保有が規制された。そして今度はEUが、子供のSNS利用に大きな制限をかけようとしている。
◆よくあるSNSの年齢制限なのか?
9月16日、欧州委員会のウルズラ・フォンデアライエン委員長は、13歳未満のSNS利用を認めず、15歳未満には個人アカウントを持たせない方針を表明した。13〜14歳は、保護者が管理する制限付きアカウントだけを利用できる。翌17日には、欧州委員会が「EU KIDS Act」の規則案を正式に公表した。
この方針は日本でも「EU、15歳未満のSNS利用を制限」と報じられた。ここだけ見れば、よくあるSNSの年齢制限に見える。
しかし、今回EUが踏み込んだのは、その先だ。XやInstagram、TikTokなどの事業者に対し、誰に何を見せ、どれだけ長く使わせ、どんな情報へ誘導するのか――その「設計」そのものを変えさせようとしている。
未成年向けの推薦アルゴリズムは、滞在時間やクリック数だけを最大化するのではなく、安全性や情報の質、メンタルヘルスを優先するよう求められる。無限スクロールや自動再生、利用者を呼び戻す通知、毎日アクセスさせる「ストリーク」といった依存を促す設計も規制対象になる。さらに最大手のプラットフォームには、子供にサービスを提供する前に安全性を示す計画を提出させ、独立監査まで受けさせる。
しかも対象はSNSだけではない。AIチャットボット、オンラインゲーム、アプリストア、OSまで含まれる。つまりEUがやろうとしているのは、「15歳未満には有害だからSNSを禁止する」というだけの話ではない。
これまでテック企業が自分たちで決めてきたデジタル空間の設計ルールを、法律によって外から縛る。
本当の争点は、誰がデジタル空間のルールを決めるのか、なのである。
◆新法案が制限しているもの
公表された規則案では、SNSなどの利用を年齢に応じて三段階に分けている。
13歳未満は、リスクが認められるSNSや動画共有サービスで自分のアカウントを持つことができない。ただし、子供向けに設計された動画サービスについては、保護者自身のアカウントを通じて、パーソナライズ機能を切ったうえで1日最大1時間まで利用できる。
13歳以上15歳未満は、保護者が作成・管理する制限付きの「ミニアカウント」に限られる。利用時間は1日最大1時間で、連絡先を追加する場合にも保護者の承認が必要になる。
15歳になると、自分自身のアカウントを開設できる。ただし、そこで規制が終わるわけではない。子供が利用するサービスには、年齢にかかわらず「安全な設計(safe by design)」が求められる。
さらに、既存アカウントも例外ではない。制度の適用から6カ月以内に、事業者は利用者が15歳未満ではないかを確認し、15歳未満だった場合や年齢を確認できなかった場合には、そのアカウントを停止しなければならない。
つまり「生年月日欄に適当な数字を入れて大人として登録する」という、これまでの抜け道も塞いでいるのである。
この法案が従来の「○歳未満は使えない」という規制と大きく違うのは、サービスを提供する企業側に安全性を証明させる点にある。
子供に使わせるなら、そのサービスが子供にとって安全であることを、まず企業側が示さなければならない。
しかも、規制されるのは投稿内容だけではない。無限スクロール、通知、推薦アルゴリズム、毎日アクセスさせるストリーク機能など、利用者を長時間サービスにつなぎ止めるための「設計」そのものが対象になる。
つまり、この法案は、「何歳からSNSを使えるか」を決めるだけの法律ではない。
「子供に提供するデジタルサービスを、企業はどのように設計しなければならないか」までEUがルールを決める法律なのである。
さらに、EU域内で月間4500万人以上が利用する巨大プラットフォームには、より重い義務が課される。
子供にサービスを提供する前に、安全性をどのように確保するのかという計画を提出し、独立した監査人による検証を受けなければならない。監査費用も企業側の負担だ。AIチャットボットやAIコンパニオンについても、市場に投入する前に安全上の義務を満たしていることを示す必要がある。
この発想は、2025年からイギリスで本格的な運用が始まったオンライン安全法にも通じる。 イギリスではポルノを扱うサイトに強力な年齢確認が義務づけられ、SNSなどにも子供がポルノ、自傷、自殺、摂食障害などの有害コンテンツに接触しないための措置が求められるようになった。
従来のように、問題が起きてから「この投稿を削除しろ」と命じるだけでは遅い。
そこで企業側に「安全なサービスを設計する責任」を負わせ、「安全だと言うなら、まず企業側がそれを証明しろ」と発想を逆転させたのである。
◆投稿規制ではなく、設計規制である
いまXやInstagramを開けば、画面をスクロールするだけで投稿や動画が次々と現れる。しかも表示されるのは、自分がフォローした相手だけではない。「この人なら興味を持つだろう」とプラットフォーム側が判断した投稿が、「おすすめ」として延々と差し込まれてくる。
EUが規制しようとしているのは、まさにこうした仕組みだ。
子供向けには、無限スクロールや自動再生を制限し、推薦アルゴリズムも「できるだけ長く見せる」ことを優先してはならない。本人が自分でフォローした相手を優先し、閲覧履歴などを追跡して作るパーソナライズは初期設定でオフにする。似た刺激の強い投稿へ次々と誘導する「ラビットホール」も防がなければならない。
さらに、メッセージも、保護者の承認なしにメッセージを送れない、同意なしにグループに追加されない。さらに、投稿のダウンロードやスクリーンショット、デフォルトでライブ配信も禁止するとされている。
つまり、子供がスマホを開いた瞬間から始まる、「次はこれを見ろ」「まだ閉じるな」と誘導する現在のSNSの仕組みそのものを作り変えろ、というのが今回の法案である。
「悪い投稿をひとつ消す」ことではない。「悪い投稿を大量に拡散・増幅・推薦するシステムそのものを作らせない」という、制度思想そのものの転換である。
フォンデアライエン氏は「ルールを決めるのはビッグテックではない。われわれだ」と宣言した。この法案は、その言葉を制度にしようとするものである。
子供保護を入口に、国家がアルゴリズムやサービス設計にまで踏み込む。拙著『「デジタル主権」戦争』第5章「国家の反撃――SNS規制という主権防衛」で描いたのは、まさにこの構図だ。
SNS規制のニュースとして読むだけでは見えてこない。誰がデジタル空間を設計し、誰がそこでのルールを決めるのか。 EUの取り組みはは、その争いが新しい段階に入ったことを示している。
文/昼間たかし
【昼間たかし】
ルポライター。1975年岡山県に生まれる。県立金川高等学校を卒業後、上京。立正大学文学部史学科卒業。東京大学情報学環教育部修了。ルポライターとして様々な媒体に寄稿。著書に『コミックばかり読まないで』『これでいいのか岡山』