“疑う”木村拓哉と“信じる”長澤まさみ 『マスカレード・ホテル』観る者惑わすキャストの怪しい魅力

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2019年01月22日 07:12  リアルサウンド

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 東野圭吾の累計発行部数350万部を突破した『マスカレード』シリーズ第1作を原作とした映画『マスカレード・ホテル』が公開された。次々と現れる素性の知れない宿泊客を、刑事として疑う新田浩介と、ホテルマンとしてお客様を信じる山岸尚美の異色のバディが中心となって描かれていく。本作の魅力は何と言っても豪華すぎるキャスト陣にある。平成の大スター木村拓哉を始めとして、刑事陣に渡部篤郎、小日向文世、篠井英介。宿泊客には生瀬勝久、前田敦子、濱田岳、松たか子と日本映画界で活躍するキャストが揃う。その豪華キャストが、映画の舞台となるホテル・コルテシア東京のエントランスから登場するシーンは鳥肌が立つほどにかっこいいのだ。最近の日本映画はどちらかというとリアルな様子やときめきなどが重視される傾向にある。そんな中で、映画を観ていて「かっこいい」と感じるヒーロー性を重視した演出は新鮮かつ、役者の魅力をふんだんに使った贅沢な時間であった。


参考:木村拓哉が平成最後に再び“ヒーロー”を演じる 「キムタク」の姿に私たちが託してきたもの


 そんな「かっこいい」本作だが、キャストが輝ける所以はやはりその演技力にある。出演キャストの多くは芝居の実力に定評のある者ばかり。そんなキャスト陣が怒ったり、時には困っていたり、問題を起こしたりとホテル内をかき乱す存在になる。生瀬演じる元英語教師のように、悲しみを抱え、憎悪でかき乱すキャラクターもいれば、前田演じる花嫁のように幸せに満ち溢れたキャラクターもいる。しかし、一流ホテル・コルテシアのいち宿泊客には収まらず、全員が圧倒的個性をもってして作品を引っ張る実力を持っているのであった。故に、全員が「犯人なのではないか?」と思わせる怪しい魅力を放つ。


 そして宿泊客の芝居を受け止めるのは、新田を演じる木村と山岸を演じる長澤まさみ。2人はより宿泊客の個性が際立つような芝居を見せた。笑顔でお客様対応に徹する山岸と、すぐに鋭い目つきになってしまう新田は対照的だが、宿泊客の抱える怪しさと問題を浮き彫りにするスパイスとなっただろう。


 本作の舞台となるコルテシアはそんな個性の強い面々をどっしりと支える魅力に溢れたホテルである。エントランスから入り、目の前に広がる左右対称のつくりのフロントロビー。そして事あるごとに映し出される外観と光るエンブレム。夜のコルテシアの外観では、ライトのついたエンブレムがドクロのように怪しげな魅力を放つ。狙ったか狙っていないかは定かではないが、ライトの影のせいでエンブレムが禍々しい雰囲気になるのだ。しかしその外観のシーンは一転、必ず朝の外観へと変化してから次のシーンに移る。ライトが消え、元のコルテシアのエンブレムに戻るのだ。コルテシアの二面性を表すかのような演出に思わず事件への恐怖が煽られる。


 さらに、客室に配置されたコルテシアのエンブレムの入ったペーパーウェイトにも注目したい。ただのホテル備品のようでありつつ、実はコルテシアの精神を表す大きな役割を果たしている。このペーパーウェイトがまっすぐに配置されているときは、ホテル・コルテシアは今日も問題なく営業しているというサインになっている。従業員はコルテシアの秩序を保つようにこのペーパーウェイトの配置を直す。事件が起こるラストシーンではこのペーパーウェイトは曲がったままなのだ。そしてそのまま殺人未遂の現場となってしまった客室のペーパーウェイトは直されないまま物語が進む。新田がペーパーウェイトの位置を直さなかったことが、ホテル・コルテシアのホテルマンではなく刑事に戻った瞬間を表していた。


 ひとつのホテルを舞台に様々なケースが入り乱れ、事件の真相が目くらましされる本作。一筋縄ではいかない展開に、時間を忘れ夢中になってしまう。そんなホテル・コルテシアの日常を、のぞいてみてはいかがだろうか。


(Nana Numoto)


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