『SLAM DUNK』安西先生の言葉はなぜ突き刺さる? 「信じること」を教えた名コーチの手腕

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2020年08月01日 08:01  リアルサウンド

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「あきらめたらそこで試合終了だよ」


参考:『SLAM DUNK』は“漫画のタブー”に挑んだ作品だった?


 元ネタを知らなくても、このセリフだけならきっと一度は目にしたことがあるだろう。


 今なお色あせることないバスケットボールマンガの金字塔『SLAM DUNK』の、おそらく一番有名なセリフだ。このセリフを放った人物こそ、三井の「安西先生、バスケがしたいです」でおなじみの安西先生だ。


 湘北高校バスケ部の監督・安西先生は、白髪にメガネ、顔も体もまんまるのフォルム。その優しげな風貌に違わず、部員のことを「桜木君」と君付けで呼びかける温和な性格だ。口数は多くはなく、試合中も物静かにベンチから見守っている。けれども、ここぞという時には口を開き、部員の背中を押す。


 冒頭の「あきらめたら〜」ももちろんだが、他にも象徴的なセリフがある。それが「君たちは強い」だ。このシンプルな言葉を、安西先生は言い方を変えながら、何度も何度も湘北のメンバーに伝え続ける。


「君達は強くなる」「君たちも強いチームですよ」「君たちは強い」


 湘北高校バスケ部には才能あるプレイヤーが集っている。2メートル近い巨体を持つ主将・赤木。スリーポイントシュートを決めまくるシューター・三井。スピードとテクニックを持つポイントガード・宮城。圧倒的なオフェンス力の天才ルーキー・流川。そして、バスケ初心者ながら身体能力の高さで加速度的に才能を開花させていく桜木。


 彼らの才能は自他ともに認めるところだ。控えめな性格の者なんかいないし、ことバスケのこととなれば血の気も多い。それでも、彼らの前に立ちはだかるのは歴戦をかいくぐってきた強豪校たちだ。テクニックで圧倒され、プレッシャーに体がかたくなることが何度もある。


 相手チームに押され、ペースを掴めなくなって消沈しかける湘北メンバーに、安西先生はたずねる。


「試合前に君達にいったことを覚えていますか?」


 5人は口をそろえて答える


「『オレたちは強い』‼」


 彼らの表情からは、先ほどまでの焦りは消えている。


 当然ながら、監督は自らが試合でプレーすることはない。いくら作戦を立て、指示を出しても、シュートを打つのは選手たちだ。監督がその能力を信じていても、本人が信じられなければポテンシャルを発揮することはできない。だから、安西先生は「君たちは強い」と繰り返す。いわば「信じることで信じさせる」スタイルだ。考えてみれば、「あきらめたらそこで試合終了」というセリフは、最後まで勝ちを信じている人間からしか出てこない言葉だ。口出ししすぎずに見守るスタンスだって、メンバーを信頼してこそと言えるだろう。


 だが、安西先生は最初からこのやり方を取っていたわけではない。かつて大学バスケの監督だった安西先生は、現在とは真逆のスパルタコーチだった。当時、安西先生のもとには1人、身体的にも能力的にも高いポテンシャルを持つ選手・谷沢がいた。谷沢を日本一にするためにより厳しく接していたが、それに反発した谷沢は、何も言わずにアメリカ留学してしまう。だが、結局アメリカでもうまくいかなかった谷沢は、現地の事故で帰らぬ人となる。この出来事が心のしこりとなり、安西先生は大学界から身を引く。


 時を経て現在。安西先生のもとに、ある日流川が訪ねてくる。流川はもっと強くなるためのアメリカ留学の希望を伝えるが、安西先生は反対する。そしてこう告げる。


「流川君、君の意志は信じている」
「とりあえず日本一の高校生になりなさい」


 何も言わずに渡米した谷沢と、安西先生のもとを訪ねた流川。そして、「君の意志を信じている」という言葉は、安西先生が谷沢に言えなかった言葉でもある。


 その言葉を聞いた流川は「よろしく ご指導ご鞭撻のほど…」と頭を下げた。


 湘北バスケ部で「信じている」と伝え続けてきた安西先生。それは、無名で弱小の湘北を育てるだけではなく、かつて築けなかった信頼の応酬を、安西先生自身に与えるものでもあったのだ。(満島エリオ)


このニュースに関するつぶやき

  • 陸南の田岡監督だろ。 「あいつも3年間頑張ってきたんだ。侮ってはいけなかった」から「敗因はこの私。陸南の選手たちは最高のプレイをした」のはまさに名言。
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