戦闘描写にモザイクや忖度ほぼ無し!アニメ「アンゴルモア元寇合戦記」の見所を原作者に訊く

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2018年07月10日 21:03  アニメ!アニメ!

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(C)2018 たかぎ七彦/KADOKAWA/アンゴルモア元寇合戦記製作委員会
日本の史実・元寇をテーマに、文永11年(1274年)の対馬で起きた蒙古襲来事件を描く歴史スペクタルマンガ『アンゴルモア 元寇合戦記』。史実に則りながらもエンターテインメントとして昇華された迫力満点のアクションシーン、深い人間ドラマが幅広い層や歴史マニアからも支持されている。

同作では対馬に流れ着いた流人の朽井迅三郎が、地元の武士とともに蒙古軍の襲来に立ち向かう。蒙古軍が本土に向かうまでの圧倒的不利な7日間の戦いが描かれている。7月10日のアニメ放送を前に、著者のたかぎ七彦先生にアニメの見どころを聞いた。

アンゴルモア元寇合戦記

■「元寇」に決めたのは史料「蒙古襲来絵詞」のインパクトが鮮烈で記憶に残っていたから
――本作を描くにあたって、元寇をテーマに選ばれたのはなぜですか?

たかぎ
学校で学んだ時はインパクトが薄かった「元寇」が、実はものすごく世界観が大きくて面白いと知った高校生の時の記憶がずっと残っていたからです。
中学校くらいで「元寇」について教わる時に、教科書に載っている「蒙古襲来絵詞」の絵がありますよね。全2巻の絵巻なのに教科書には陸上戦の1コマしか載っていない。それを図書館で全巻読んだら、異民族の寺院が出て来たり、海戦を描いたり、火薬が飛んだり内容がものすごくスペクタクルで驚きました。

――大学では史学科の西洋古代史を専攻したにも関わらず、日本史の「元寇」を描きたいと思うほどビジュアルが鮮烈だったと?

たかぎ
すぐに元寇を描こうと思ったわけではないんですが、前作では幕末もの(『なまずランプ 〜幕末都市伝説〜』)を描いたので、次回作は世界史と繋がる話にしたいと考えた時に、やっぱり元寇かなと。あまり描いている人がいなかったというのも決め手でした。

たかぎ先生の製作現場は壁一面に資料が飾られている
――2度の蒙古襲来において1度目の文永の役(1274年)を、それも本土ではなく対馬を舞台に選んだのはなぜですか?

たかぎ
やっぱり1度目のほうが、事件としてインパクトがありますよね。最初に見た教科書に載っている絵も文永の役のものなので、最初から描いて行くのが面白いだろうなと思いました。
現在は文永の役では神風はなかったとも言われていますが、これまで蒙古軍が博多に1日しか滞在しないで撤退したとされてきた中で、対馬には8日前後くらい滞在している。
それなのに教科書では詳しく触れられていません。この期間に何があったんだろう?と文献を調べたら、流人の存在や佐須浦の合戦などが載っていたので、「これは話にしたら面白い」と思ったんです。

■“傭兵のメンタル”から主人公は生まれた
本棚には傭兵に関する本がズラリ

――主人公の朽井迅三郎は実際に対馬で戦った「口井藤三」から名前を取ったと聞きました。なぜ流人という設定にしたのでしょうか?


たかぎ
元来、その地に住んでいて侵略者が来たから守るため命懸けで戦うのは当たり前だと思うんです。そこにアウトローな人間が流れ着いて、守るために戦いに参加するというシチュエーションがやっぱり面白いじゃないですか。
鎌倉時代は武士が土地を守るために戦っていましたし、幕府による本領安堵というご恩と奉公の関係もありましたから、それに縛られない流人がいかに戦いに入っていくのかというのも見せ方として熱いかなと思いました

朽井迅三郎は文献にあった流人の「口井」から名前を取りましたけど、流人が戦いに参加するきっかけや境遇を考えた時、現代で言うと傭兵が近いだろうなと思ったんですね。
なので、傭兵本人の体験記などを参考にして、迅三郎たち流人のキャラを肉付けや、様々な出自の流人が集団としてどう戦うかなどを考えました。価値観はこの時代の人のものだとしても、戦うとしたら今も昔もメンタル的な部分は共通だと思うんですよ。


――朽井迅三郎ありきでもの物語の方向性が定まったと思いますが、彼の生き様はどのように決めたのですか?

たかぎ
そこも傭兵本人の体験記などを読んで、込み入ったものを引きずるというよりも、目の前の戦いに対してすべきことをするブレない人間性を目指しました。
「〇〇の仇を取らなければ!」というのは他のキャラにはいるんですけど、迅三郎に関しては哲学的な思考ではなく本能で戦うという、できるだけ単純な人間に見えるように描いています。もちろん、迅三郎にも色々とあったんですけどね。

■描きたいのは“戦い”という共通のテーマを持った人間ドラマ
――作品では戦いを通して色んな立場の人間が複雑に絡み合っていきますが、一貫して描きたいテーマは?

たかぎ
やっぱり戦うということへの意志です。決して戦わなければいけないというテーマではなく、戦いを通じて揺れ動く人間模様を描きたい。
戦いというのは多かれ少なかれ、時代を超えた普遍的なテーマだと思うんですよ。戦うという一つの事件を通じて、裏切ったり、逃げたりするような揺れ動く人間真理に重きを置いています。あくまでもエンターテインメント作品でなければいけない。

――鎌倉時代の生死感など、現代人は共感しづらい部分もありますが、伝わるように工夫した部分はありますか?

たかぎ
例えば、一所懸命というのは、当時の言葉ですけど、今でも通じると思うんです。仕事などで様々な問題にぶつかる時に、作中の登場人物に自分を重ね合わせてもらえるように、言葉選びなどは現代とあまりかけ離れずにどちらにも通用するものを選んでいます。

ペン入れまで手描きで、その後はPCに取り込んでトーン貼りなど仕上げを行う。アシスタントは1人体制でシフト交代で入ってもらっているという
――これまで描いた中でとくに思い入れのあるシーンはありますか?

たかぎ
本作は義経流や安徳天皇生存説、義経がモンゴルに渡った説など物語の幅を広げたり、厚みを増したりするためのテイストとして取り入れつつも、軸は史実なのであまりファンタジーに逸れないようにしています。
とは言っても、全体的に見ると史実の記録が少ない作品ではあります。なので、佐須浦の合戦は描いていて楽しかったですし、8巻で当時の大陸の情勢を多めに描いたのは個人的な趣味の部分も多少ありますね(笑)。

■対馬に行かなかったら、5巻くらいで終わっていた

――鎌倉時代の街並みや当時の馬など、描くうえで史料が少ない部分もあったと思います。どのように取材をしたのですか?

たかぎ
街並みについては、自分が実際に言ったことがある中国の雲南省や、東南アジアのまだきちんと整地されていない地面だとか、昔ながらの雰囲気を感じる町並みを参考にしました。
それと当時の人が描いた絵巻なども、ディテールの部分でとても参考になるものがあったので組み合わせています。馬は牧場馬を中世時代風に置き換えて、毛並みをきれいにカットされていない野生馬に近づけています。

――実際に対馬にも取材に行かれたと聞きました

たかぎ
対馬に足を運んだことで、尺がのびました。本当は5巻くらいで終わる予定だったんですよ(笑)。
実際に足を運ぶと面白い要素が多くて、「あ!これも入れよう、これも入れよう」と思ったら、結局9巻にまでのびた(2018年7月現在)。
金田城も蒙古襲来時とは直接の関係がない古代遺跡ですけど、これを描かない手はないなと思いましたし、対馬の険しい地形も行かないと分からない部分も多くて、だいぶ描写するうえでで助かっています。


■声が入るだけで漫画の何気ないシーンが大きく変わる
――いよいよアニメ放送されますが、どのように制作に関わりましたか?

たかぎ
時代考証の部分では、鎧の大袖(鎧の肩部分)は1枚板ではなく、きちんと繋ぎ合わさったフワッと稼働する形にして欲しい、刀のカーブはこうして欲しいなどはお伝えしました。
あんまりここの考証はこうだとか厳密にはお願いしていないです。あくまでも人間ドラマがメインなので。それにスタッフの方も熱心に考証してくれているので、聞かれた時に「できれば」と注釈をつけて史料をお送りするくらいですね。

脚本の読み合わせにも、参加しましたが、すごく良い感じにまとめてくれているので、ほとんど何も言うことはありませんでした。
原作者として、言葉の重みを考えてよほどの事が無ければ口を挿むことはしていないです。ほぼほぼ、聞いているだけ(笑)。

作画資料のために特注で頼んだ、鎌倉時代使われた日本刀の模造刀

――マンガからアニメになることで変化はありますか?

たかぎ
やっぱり声優さんの演技が加わるると、マンガで強調したところはより強調されますし、逆に「なるほど!ここは声をあてるとこういう感じになるんだ!」という発見もあります。
描いている時は声を想定していないので、良い意味で化学反応が起きていると感じています。

――アニメでしかできないような表現はなんですか?

たかぎ
やっぱり殺陣のシーンですね。マンガでは止め絵しか無いので、PVでもご覧いただける蒙古軍の仮面の男との戦いはでもご覧いただけますが、「すごく動いているな!」と感動しました。
あとは声優さん。本当に適任の方を選んでくださったので、何げないシーンとかでも声が入るだけで「ああ〜!」とマンガとは全く別の良さがあるなと思いました。

■刀を振り回して声をあてる声優さんも。アフレコ現場はうめき声と叫び声が木霊


――アフレコ現場はどうでしたか?

たかぎ
ヒロインに輝日姫はいますが、主要登場人物がほぼ男の作品なので、アフレコ現場では男の声優の方の「ううっ!」「ああっ!」といったうめき声や叫び声がこだましていました。
皆さん力の入り方も尋常じゃないんですよ。ボルケーノ太田さん(貝谷権太郎役)なんて、リアルを追求して刀を振りながら声を出して、途中、酸欠で倒れてしまうほど熱のこもった演技をされています。

――マンガでは御首(みしるし)のシーンが出て来ますが、アニメではどうするのか?

たかぎ
御首の描写もしっかりやっています。あんまりアニメでそこまでやらないと思うんですが、過激なシーンもオブラートに包まず描いているのが見どころだと思います。
本当に目の前で起きていることを観ているような感覚に陥りますね。

戦闘に出てくる刀や矢の音もすごいんです。効果音は今野康之さんというすごい方が担当してくれているので、単純に刀だからズバーッと切るような音ではなく、「この音なんだ!?」という迫力。それこそ、まるで黒澤映画のようなリアリティーある音を付けていただいています。

■女の子で推すアニメじゃない渋さがカッコいい


――アニメ第1話の見所を教えて下さい。

たかぎ
メインキャラ全員が第1話に登場しますが、キャラの個性が分かりやすく伝わる部分がセリフとして選ばれているので、声優さんの演技が決定づける部分もあります。「このキャラがこういう感じになって出てきたんだ!」と、良い意味でマンガとは印象が変わって、新しい魅力が発見できると思います。本当に声や動きが付くと違いますから。

それと、第1話だからこそ、ものすごく力が入っている部分があります。総作画監督の小峰正頼さんもほとんどの原画を描いてくれていて、注がれている熱量の大きさを感じます。
迅三郎と蒙古軍の仮面の男との戦闘シーンもありますので、とくに第1話は注目してほしいです。

――良い意味で、普段アニメを観ない方にこそ観て欲しいアニメだと感じました。

たかぎ
ヒロイン役の輝日はいますが、美少女が出てくるアニメとは明らかにタイプが違いますね。
昔はアニメを観ていたけどもう観なくなってしまった方、大河ドラマとかを見ている方にもおすすめできると思います。かなり時代劇寄りに作ってありますから、そういう意味では普段はアニメを観ない方でも観ていただければ絶対面白いと感じていただける思います。

◆◆
超硬派な本格歴史スペクタクルに仕上がっている本作。現代における戦場は恐らく職場でしょうから、「傭兵のメンタリティ」を学ぶ意味でも見逃せないアニメとなりそうだ。迅三郎は蒙古襲来の7日間を生き抜くことが出来るのか!? いよいよ物語の幕が上がる。

(C)2018 たかぎ七彦/KADOKAWA/アンゴルモア元寇合戦記製作委員会

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