ピンクレディーグッズを大量に盗んだ少年は、父親にボコボコにされた……ベテラン保安員が振り返る「昭和の万引き犯」

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2020年05月23日 19:12  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

 こんにちは、保安員の澄江です。

 ここのところ、新型コロナウイルス感染防止による自粛要請から仕事を失い、生活苦に陥られた方による犯行が目立ちます。普段通りの生活が送れていれば、おそらくは縁がなかっただろう雰囲気の被疑者が多く、そうした方が犯行に至った時には、我が目を疑う気持ちになって、声かけに躊躇することもありました。慣れぬことをすれば目立つもので、その挙動や犯行態様から、初犯だということは伝わってくるものなのです。報道によれば、万引きから事後強盗(窃盗犯人が取得物を取り返されるのを防ぐため、あるいは、逮捕を免れもしくは罪跡を隠滅するため、暴行・脅迫に及ぶこと)に発展してしまう事案も各地で頻発しており、この先の治安悪化は避けられない情勢と言えるでしょう。みんながマスクを着用していることから、顔認証装置の精度は役に立たないほど低下しており、被害の暗数は確実に増加しています。いままでの現場と、何かが違う。長年、この世界にいることから、そうした時は肌で感じてしまうのです。今回は、保安員として働いてきた過去42年間を振り返りながら、万引き現場の変遷についてお話ししていきたいと思います。

 私が、この業界に入ったのは、昭和54年のことでした。当時は、セブン-イレブンが増え始めた頃で、スーパーや百貨店、ディスカウントショップ、書店、レコード店などが主な現場であったと記憶しています。いまのような巨大ショッピングモールは存在しておらず、派遣される現場は、チェーン展開するスーパーマーケットばかりで、当時人気を博していた屋上遊園地が設置された百貨店などもありました。

 万引きをして捕まっても、商品を買い取れば許されることが多く、警察を呼ぶことは滅多になかったです。たとえ支払いができなくても、店長の罵倒に耐えれば済む時代だったので、いまよりも罪の意識が希薄だったのでしょう。食品売場を中心にして、衣料品、ドラッグ、玩具、文具などの売場を順番に回っていれば、自然と被疑者が目に入る日々を過ごしていました。少年たちはゲーム感覚で、大人たちは節約心と生命維持を理由に、平気な顔で商品を盗んでいくのです。

 この仕事を始めた頃、百貨店内にあったアニメやアイドルのさまざまなグッズを扱うお店で、ピンクレディーのブロマイドやポスターなどを大量に盗んだ中学生を捕らえたことがありました。捕捉して事務所に連れて行き、所持していた学生バッグの中を出してもらうと、下敷きや筆箱、ノート、鉛筆、定規、ブックカバーなど、その全てがピンクレディーで統一されています。所持金を確認する際に取り出した折り畳み財布にまで、ピンクレディーのお二人がプリントされているのを見て、スーパーアイドルの底力を見たような気持ちになりました。

「ピンクレディーのモノは、全部持っていたくて、我慢できなかったんです」

 熱狂的ファンとは、こういう人のことを言うのでしょう。被害品の中で微笑むピンクレディーと鬼気迫る少年のニキビ顔は、40年以上経過した現在も、色褪せることなく脳裏に焼き付いています。結局、盗んだ商品を買い取れなかった少年は、お店の人の判断で、自宅と学校の両方に連絡されました。当時は、子どもの万引きを教育のせいにする人が多く、非行の芽を早期に摘むという名目で、自宅と学校の両方に連絡するのが基本だったのです。この時は、連絡を受けて迎えに来た父親が、うなだれる息子を事務所で殴る蹴るしたあとに、商品を買い取って終結。いまならば通報しなければならないレベルの暴行でしたが、昭和の父親は、地震や雷、火事などと同線で恐れられていたこともあってか、咎める人は誰もいません。保護者が不在のため、仕方なく身柄の引き受けに来た生活指導担当の先生が、当該生徒をボコボコにしばいてしまうこともありました。昭和という時代の雰囲気が、保護者や教師による暴力を問題視することなく、許容していたように思います。

 この頃の主な警戒対象は、いわゆる不良少年たちでした。なにしろ中学1年生くらいの子が、パンチパーマをかけて、たばこやシンナーを吸いながら街を練り歩いていた時代です。少年非行が社会問題化しており、シンナーを吸いながら万引きする少年少女など、珍しくもない時代でした。暴走族風のカップルが、ジュースやお菓子、もしくは酒とおつまみといった組み合わせ一式を万引きするのが犯行の定番で、夏休みになるとバーベキューセットを花火付きで持ち去る犯行が横行します。野球チームを作りたかったと、バットやボールのほか、仲間の人数に合わせた数のグローブを盗み出した暴走族グループに遭遇した時には、開いた口が塞がらない思いがしたものです。

 当時は、インベーダーゲームが大流行しており、屋上のゲームコーナーで「ガット」(硬貨投入口にテニスラケットで使用するガットや針金を差し込んで不正にクレジットを増やす犯罪行為)と呼ばれる行為で不正入金を繰り返す不良高校生グループを、学校の先生と一緒に摘発したこともありました。盗んだジュースやお菓子、それにシンナーを片手に、ゲームコーナーで屯するところを摘発したのです。その時には、捕まった被疑者たちの仲間が事務所まで身柄を取り返しにきて、大騒ぎになりました。通報を受けて駆け付けた体格の良いプロレスラーのような体をした警察官が、全員相手してやるから道場に来いと、事務所で悪態をつく少年たちをドラマチックに挑発してみせた場面が、昨日のことのように思い出されます。不良少年などには、みんなが人情深く、熱く接していた時代だったのです。

 昨今の現場は、金を出し惜しむ守銭奴のような高齢常習者と、我が国の商店をあざ笑うかのように大量盗難を繰り返すベトナム人窃盗団に苦しめられています。コロナ騒動下の現在、高齢常習者は相変わらず目に余る状況ですが、多くの不良ベトナム人は帰国を余儀なくされたようで、その姿を見ることは急減しました。その分と言っていいのかわかりませんが、自粛により稼げなくなった中高年層の方々が万引きに手を染めてしまう事案が目立ち始め、暇を持て余した小中学生によるゲーム感覚の犯行も増加傾向にあるようです。

 ここのところ頭にちらついていた引退の二文字が、最近は浮かばなくなってきました。初々しく犯行に及ぶ初犯の方を検挙するたび、自分の使命感のようなものが燃えてしまうのです。

「これを最後にしましょうね」

 現場で縁のあった被疑者のみなさんに伝える言葉は、この仕事を始めてから変わっていません。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

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