日本経済の成長には「ホリエモン」が必要だ - 池田信夫 エコノMIX異論正論

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2014年06月18日 17:00  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

 安倍政権の「成長戦略」の素案が、産業競争力会議でまとめられた。法人税率の引き下げやホワイトカラーの勤務時間の規制廃止などは評価できるが、効果は限定的だ。「岩盤規制」はほとんど手つかずで、株式市場で話題になったのは、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の株の買い上げぐらいだ。


 そもそも成長戦略とは何だろうか。誤解している人が多いが、これは単に成長率を引き上げる政策ではない。GDP(国内総生産)を上げるだけなら、公共事業を増やせばいい。ここ1年の成長のほとんどは政府投資によるもので、民間の成長力を示す潜在成長率は、日銀の調査によるとほぼゼロである。これが成長率の上限を決めるので、これがゼロになると、いくら公共事業で嵩上げしても、中長期にはゼロ成長に戻ってしまう。


 日銀の「異次元緩和」は株式市場を錯覚させて株価の過小評価を是正する効果はあったが、しょせん1年足らずの線香花火だった。完全失業率も3.6%と実質的な完全雇用に近く、人手不足が問題になっている。もう日銀にできる仕事は終わったのだ。黒田総裁も、最近は白川前総裁のように「潜在成長率の引き上げ」を政府に求めるようになった。


 そこで潜在成長率を引き上げるのが成長戦略だが、これは経済の構造的な要因を変える必要があるので、容易ではない。短期的に成長を制約しているのはエネルギー価格の上昇だが、中長期では生産年齢人口の減少が大きい。一人あたりGDPは増えるが、経済全体の成長率はゼロに近い状態が続く可能性がある。


 これを打破する可能性が残されているのは、資本市場である。潜在成長率を決めるのは資本蓄積率と労働人口成長率と生産性上昇率だ。労働人口が減っているのに、資本収益率が低いから投資が増えず、企業の新陳代謝が進まないから生産性が上がらない。企業が投資しないで貯蓄していることが、日本経済の病理現象である。


 その最大の原因は、日本の資本収益率が低いからだ。次の図は三井住友アセットマネジメントの調査だが、日本の主要企業のROE(株主資本利益率)は約5%で、アメリカ(約16%)の1/3だ。停滞しているといわれるヨーロッパと比べても、はるかに低い。


 トムソン・ロイターの調査によると、2013年度の日本のM&A(企業買収)総額は12.5兆円だったのに対して、アメリカのM&Aは1兆ドルと、ほぼ8倍の差がついている。しかも買収対象の多くは海外企業で、国内企業の買収額は4.4兆円だった。これは欧米のM&Aで対外買収額と対内買収額がほぼ同じなのと対照的だ。


 このように資本市場が活発化しない原因は、株式の持ち合いで経営者を守るカルテルが強固にできている上に、買収防衛策を講じて二重・三重に企業買収を防いでいるためだ。これは経営者が、資本を浪費して株価が下がっても企業買収で職を奪われないようにするモラルハザードである。


 さらに経済産業省が、資本市場の発達を阻害している。2012年に経営危機に陥ったルネサスエレクトロニクスに対して、大手投資ファンドのKKRが1000億円出資する意思を示したが、経産省は産業革新機構を中心とする官民ファンドでこれを横取りしてしまった。経産省の産業政策にとって、民間ファンドが企業を再構築するM&Aはじゃまなのだ。


 小泉改革の時代には日本でも資本市場が活性化し、ライブドアや村上ファンドなどが企業買収を提案したが、東京地検が介入してつぶしてしまった。今の日本経済の停滞は、株主を無視する日本の資本主義に世界の株主が愛想をつかした結果なので、GPIFで官製相場をつくっても効果はない。


 しかし低収益は、投資家にとってはチャンスである。日本には時価総額より預金のほうが多い「100円の入った財布を70円で売っている」企業もまだあるので、これを買収して会社を清算するだけでもうかる。老舗の同族企業をファンドが買収して経営陣を一新すれば、まだまだ成長の余地はある。日本経済には「ホリエモン」が必要なのだ。


 M&Aというと敵対的買収ばかり話題になるが、世界的にみても成功した買収のほとんどは友好的買収だ。経営陣が自社株を買収して経営合理化を行なうMBO(マネジメント・バイアウト)も出てきた。ローランドのMBOが話題になっているが、これを支援するのも外資系ファンドだ。日本のファンドは壊滅状態なので、せめて「外圧」でホリエモンが出てくることを期待したい。




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