結成40周年のモーターヘッド、中心人物レミーの壮絶なる人生とは? 現役パンクスがその自伝を読む

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2015年05月18日 17:41  リアルサウンド

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レミー・キルミスター自伝 ホワイト・ライン・フィーヴァー

 今年70歳を迎える、モーターヘッドの中心人物レミー・キルミスター。彼の自伝の日本語訳『レミー・キルミスター自伝 ホワイト・ライン・フィーヴァー』が、ライブハウス「ロフト」グループの出版部「ロフトブックス」より出版された。2002年にイギリスで刊行されたこの本は、モーターヘッド結成40周年、レミー生誕70周年にあたる今年、ついに日本語訳されたのだ。


参考:現役パンクスがドキュメンタリー映画を紐解く


 今年は8年ぶりにフジロックへの来日が決定し、秋には2年ぶり22枚目のアルバムをリリース予定のモーターヘッド。


 この自伝には、幼少時代から2002年までのレミーの生き様が本人から語られており、モーターヘッドファンにはたまらない一冊となっている。


 モーターヘッドといえば、メタルファンだけではなくパンクスにもファンが多い。イギリスのパンクロック・ムーヴメントが起きる以前の1960年代後半から1970年代初期にかけて、アメリカではMC5やザ・ストゥージズ、ニューヨーク・ドールズといった後のパンクに多大な影響を与えたバンドがあったが、その時代にはまだモーターヘッドは結成されていなかった。ホークウインドでレミーがプレイしていたのも74年頃の話だ。


 モーターヘッドのデビューが1975年であり、イギリスのパンクロック・ムーブメントの中心であるセックス・ピストルズ、ダムド、ザ・クラッシュも同時期の1976年〜1977年頃に結成やデビューをしている。ニューヨークパンクのラモーンズ、テレビジョン、パティ・スミスなどはモーターヘッドと同時期の1974年頃から活動しているところを見ると、パンクというものが世に出て来たと時を同じくして、モーターヘッドも産声を上げたと言っても過言ではないだろう。


 パンクの始まりと同時期に始まったモーターヘッドは、その音楽の荒々しくハードでスピード感溢れる名曲の数々と共に、瞬く間にパンクスにもファンを増やしていった。実際にダムドとは交流があり、本書の中でもダムドについて「奴らこそ真のパンク・バンドだよ、セックス・ピストルズと違ってな。ピストルズは偉大なロックン・ロール・バンドであり、それ以上でもそれ以下でもないんだ」と語られている。ほかにもダムドとの交流の様子がレミー節で炸裂していて、実に興味深い。


 とはいえ、モーターヘッドはセックス・ピストルズの「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」のカヴァーをアルバム『WE ARE MOTORHEAD』でやっているし、レミーはシド・ヴィシャスにベースを教えたこともあるというから、パンクというものに少なからず好意を抱いていたと思われる。


 MC5やザ・ステゥージズ、ニューヨーク・ドールズ、パティ・スミスやテレビジョンなどは、パンクのみならず様々なロックの世界にも多大な影響を残し、そのフォロワーはジャンルの壁を越えて数多く存在している。


 モーターヘッドのサウンドやレミーの声は、実際にはパンクロックよりもハードコアパンクに近く、モーターヘッドは国内外のハードコアパンクスから絶大なる支持を今でも受け続けている。モーターヘッドの楽曲に影響を受け、カヴァーするハードコアバンドが無数に存在しているところを見ると、モーターヘッドのジャンルを超えた人気が伺える。パンクとメタルが喧嘩になったときにはモーターヘッドをかければ喧嘩が収まるという逸話があるほどだ。


 海外のフェスなどにはメタル系のバンドとハードコアパンクが一緒に出演することがたくさんあるが、モーターヘッドの話題では必ず盛り上がり、車中などで流す音楽でもモーターヘッドは必須だ。


 モーターヘッドファンには初期70年代〜80年代の『Motörhead』『ACE OF SPADES』や『OVER KILL』『BOMBER』『IRON FIST』、ライブ盤の名作『No Sleep 'Til Hammersmith』などの作品に影響を受けた人間が多いが、90年代の作品『SACRIFICE』や『BASTARDS』などの作品も素晴らしく、特にハードコアパンクスは必聴のハードなアルバムだ。


 それほどまでに愛されるモーターヘッド・レミーのライフスタイルには度肝を抜かれる。


 ロックとは切っても切れないドラッグの話も満載で、それは『ホワイト・ライン・フィーヴァー』というタイトルからも伺えるだろう。しかし、レミーは友人をヘロインでたくさん亡くしているために徹底的なアンチ・ヘロイン主義だ。アルバム『BOMBER』にはレミーが初めて書いたアンチ・ヘロインソング「DEAD MEN TELL NO TALES」も入っている。それ以降も徹底してアンチ・ヘロインの姿勢をとり続けており、独自の視点からのヘロインユーザーに対する処置方法もレミー節で語られている。


 しかしながら、自他共に認めるスピードフリークのレミーは、ヘロイン以外のドラッグに関しては寛容なようだ。青年期からホークウインドを経てモーターヘッドを結成し、本書刊行の2002年現在に至るまで、レミーのドラッグに関する逸話は、時代を象徴する文化の一端のようにも思える。


 オジー・オズボーンなどに代表されるような1960年代に始まったハードロックやメタルの創始者達の破天荒なライフスタイルと同様、レミーの凄まじい生き様も本書の中でたっぷりと本人の弁で語られている。


 一年のほとんどをツアーで過ごすモーターヘッド各時代のメンバーとの逸話も多く、その時代ごとのメンバーの無茶苦茶さや、メンバーやプロデューサー、プロモーターやレコード会社との確執などがバンド視点、レミー目線で書かれており、モーターヘッドというバンドとレミー・キルミスターという人間の偉大さと極悪さにのめり込んでしまう。


 幼少期から始まり、デビュー以前のバンドや、ホークウインドについても語られ、モーターヘッド結成から現在までの話。さらには各著名ロッカー達との交流や、ソングライティング、レコーディング、各アルバム製作秘話やアルバムごとのレミーの感触。テレビ番組や映画出演時のエピソードや女性にまつわる話。ナチスグッズを収集しているレミ−のユダヤとナチに関する想いや9.11のテロについての意見まで、たっぷりと語られている。


 そして何よりも本書全編でレミーの生き様が現れているこの日本語訳の口調が、まるでレミーが語りかけているように生々しくて非常に素晴らしい。


 巻末には本書が刊行された2002年以降のレミーについても、日本語版補章として現在までの概要が書かれているので、この一冊があればモーターヘッドを、レミー・キルミスターを知ることが出来る。


 「負け犬として生まれ、勝つために生きる」レミー・キルミスターの自伝『WHITE LINE FEVER』は、モーターヘッド好きならずとも、全てのロックンローラー、メタルキッズ、パンクス必読の書だ。(ISHIYA)


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