Suchmosはなぜ大ブレイクしたか? 『THE KIDS』の“今の時代らしさ”を読む

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2017年02月11日 15:03  リアルサウンド

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Suchmos『THE KIDS』

【参考:2017年1月30日〜2017年2月5日のCDアルバム週間ランキング(2017年2月13日付・ORICON STYLE)】(http://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2017-02-13/)


 前週のトップ3だったAKB48『サムネイル』、Suchmos『THE KIDS』、GReeeeN『ALL SINGLeeeeS 〜& New Beginning〜』の推移がなかなか興味深い。


(関連:「Suchmos以降」の視点で見る、2017年のキープレイヤーたち


 まず、前週の1位だったAKB48は今週9位にダウン。初動がピークとなる非常にアイドル的なチャートアクションである。個人的な観測範囲の話で恐縮だが、今のところ自分の周りのアイドル好き(リアルな友人であったりSNSのタイムラインであったり)がこのアルバムに関する会話をしているのを一度も見聞きしたことがない。そういえば、前作のオリジナルアルバム『ここがロドスだ、ここで跳べ!』のリリース時も全く同じ状況だった。「アイドル好き・48好きであってもAKB48のアルバム作品への関心が薄い」というのはこのグループを取り巻く環境を示す事象としてとても象徴的に思える(この辺の傾向は乃木坂46と大きく異なる)。「出せば売れる」わけだからそれで良いのかもしれないが、むしろ「フルアルバムは出さない」くらいのことをやった方が、やや停滞しているグループとしてのプレゼンスの向上に寄与するのでは? とすら思ってしまう。


 対照的に、前週の3位だったGReeeeNのベストアルバムは今週の1位に浮上。オリジナルアルバムに限って言えば、彼らが最後に1位を獲得したのは2009年6月リリースの『塩、コショウ』。以降は2位(2012年)→3位(2013年)→2位(2014年)→4位(2016年)と緩やかなダウントレンドにあり、シングルに至っては2016年にリリースした4作が22位→27位→43位→36位というもはや「ヒットしているグループ」とは言い難いチャート成績だった。今回の1位獲得でグループとしての底力を見せつける形となったが、おそらくここにはグリーンボーイズによる「キセキ」「道」「声」のカバーも寄与しているように思える(先日の『ミュージックステーション』におけるグリーンボーイズ、というか菅田将暉は本当にかっこよかった)。強い楽曲があれば、カバー曲などをきっかけに何度でもそのグループは復活できるという好例である。


 そして、何と言ってもここ2週のチャートの目玉はSuchmos『THE KIDS』だろう。先週のチャートでAKB48とGReeeeNに挟まれている絵はなかなか衝撃的だったが(しかも発売初週のGReeeeNよりも上!)、2週目でも2位をキープ。2015年あたりからじわじわと話題を呼び、昨年の「STAY TUNE」のCMソング起用でブレイクへの足掛かりを築いていたバンドが、一気にチャンスをものにしてしまった。雄大なロックナンバー「A.G.I.T.」で始まるこのアルバムは、他にもスクラッチが印象的に響くミクスチャーロック的な「DUMBO」や荘厳さと人懐っこさが同居するインストナンバー「INTERLUDE S.G.S.4」など、「STAY TUNE」だけではないバンドの様々な側面を見せてくれる。『THE KIDS』というアルバムタイトルからも王道を目指していくという潔さが感じられるが、日本のバンドが鳴らすポップミュージックのど真ん中を定義しなおすような迫力が作品の至るところから感じられる。


 それにしても、Suchmosの大ブレイクは正直なところとても驚いた。「ロックフェスを経由してブレイク」というここ数年における定番ルートではないし、彼らが当初属していた「シティ・ポップ」的なムーブメントからここまで大きくなったバンドはいまだ存在していない。前述のCMソングやSNSでの「もうgood night」大喜利など細かなネタはたくさんあったが、まさかマスレベルで「聴いているとかっこいいバンド」というポジションをあっという間にゲットしてしまうとは……楽曲が素晴らしいというのは大前提としたうえでキーワードを抽出してみると、「地に足の着いた自由」「品のいい不良感」といったところだろうか。ホームタウンを愛する土着性を持ちながら、それでいて(もしくはだからこそ)既成概念に縛られないような雰囲気を醸し出している。その自由さは今回のアルバムのバラエティ感にも反映されているが、そこでのトーン&マナーは「普通っぽい人たちがロックを鳴らす」というような類ではなく「ちょっと悪そうだけど色っぽい人たちがそのままかっこいい音楽をやってしまう」といった趣。でも、その「悪そう」も不法行為をするとかではもちろんなくて、話が通じそうな感じ。いつの時代も「不良/ヤンキー」的な要素は日本のエンタメ界におけるヒットの必要条件になっているが、そういった普遍的な価値を今の時代らしいソフトさ・洗練さで提供しているのがSuchmosなのではないかと思う。


 ところで、「地に足の着いた自由」「品のいい不良感」と書きながら思い出したのが、SMAPの存在である。「『SMAP×SMAP』にSuchmosが出てほしかった」という話はすでに各所でされているが、『THE KIDS』を聴くとこの2つのグループはほんとに相性が良かっただろうなと思う。2017年は(もしかしたらその先も)新たなスターが誕生するたびにSMAPの不在を実感してしまう1年となるのかもしれない。(レジー)


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