オーストラリア・メルボルンで新シーズンが開幕した。シーズン中は普段みかけない人物との出会いがあるが、そんな人に「あなたは何しに、アルバートパーク・サーキットに来たのですか?」と尋ねてみた。今回は、F1の車検委員を務める今戸知行だ。
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2017年の開幕戦前日の3月23日、アルバートパーク・サーキットで各チームのガレージに頻繁に出入りする日本人がいた。今戸知行である。
今戸は1978年から鈴鹿サーキットで車検の仕事をスタートして以来、39年間、国内外のモータースポーツを長年サポートしてきたベテラン車検委員だ。今戸がF1の車検を初めて行ったのは、鈴鹿でF1が初めて開催された87年。
その正確で緻密な仕事ぶりがFIAのスタッフにも高く評価され、2001年のアメリカGPで国際自動車連盟(FIA)の技術委員とともに、鈴鹿サーキットだけでなく、海外のF1グランプリの車検も行うようになった。最も多い年で1シーズンに9回、海外のF1で車検委員を務めたこともある。
今年は車体製造に関するテクニカルレギュレーションが大幅に変更され、その初戦となったオーストラリアGPは忙しくなるため、当然のごとく今戸の姿がアルバートパーク・サーキットにあった。
F1の車検には大きく3つの種類があり、最初の車検はグランプリ開幕前日に全チームのマシンをチェックするイニシャル車検が最も忙しい。今戸が各チームのガレージに頻繁に出入りしていたのは、このイニシャル車検を行っていたからだった。
この日、今戸がチェックしていたのは、FIAによって封印されているチップが正しいものかどうかを電磁波を出す特殊な機械によって確認していたのである。
ちなみに今戸のように、FIAのスタッフ以外でF1の車検を国外で行っている者はいないという。それは、FIAが今戸を高く評価している理由として、仕事が正確で緻密なだけでなく、公平であることが挙げられる。2009年のオーストラリアGPの予選で日本チームのトヨタのリヤウイングに違反を発見したのは、じつは日本人の今戸だった。
「今年はオーストラリアGP以外に、カナダ、シンガポール、マレーシアに行く」という。F1チームの皆さん、今戸車検委員に違反を指摘されないよう、ご注意あれ。