セミ・グランドスラムの中嶋一貴に見た夢【今宮純の視点:スーパーフォーミュラ番外編】

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2017年04月26日 12:22  AUTOSPORT web

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走り出しから予選、決勝と他を寄せ付けずに開幕戦を制した中嶋一貴。
スーパーフォーミュラ鈴鹿開幕戦の「ドライバー・オブ・ザ・デイ」に中嶋一貴を推す。F1ではファン投票によって1戦ごとに選ばれるこの賞、昨年はマックス・フェルスタッペンが最多9回受賞。ちなみにこの4月中国GPで彼は10回目、バーレーンGPでは今季2勝目セバスチャン・ベッテルが受けた。

 中国GP、バーレーンGPの2連戦の後の23日に『鈴鹿2&4』へ。会う人、会うドライバーにご無沙汰のあいさつ回り、スーパーフォーミュラ(SF)とF3とN−ONE(ワンメイクレース)と2輪JSB1000の“4本立てイベント”でパドックは大混雑。モータースポーツ・ワンダーランドに入り込んだよう。まず驚いたのがさまざまなエキゾースト音、SFからJSB1000までひっきりなしで耳に心地よい。パドックにただよう匂いもいろいろ、F1グランプリとは違う・・・。

 土曜朝10時からSFフリー走行。先入観なしに見ることにする。誰が走り出しからくるか、ピエール・ガスリーだった。1分38秒台をスパッとマーク、それを山本尚貴が破ると一貴がたちまち1分37秒台。参考までに昨年日本グランプリFP1トップのニコ・ロズベルグは1分32秒431で4秒6しか遅くない。即、起動した一貴、明らかに「乗れている」のが見てとれる。

 SFではF1とセクター区間分けが違う。セクター1は逆バンクまで、セクター2はデグナー2の出口まで、セクター3は130R手前まで、セクター4はシケインと最終コーナーになる。

 このセッション1位石浦宏明1分36秒513、2位一貴、3位アンドレ・ロッテラー。セクター・ベストは順にロッテラー、ロッテラー、一貴、石浦。トムスとセルモの2チームが競い合う状況を、セルモの浜島総監督に聞くと「そう、石浦はシケインの“近道”を知っているみたい(笑)」。

 予選はF1と同じ午後2時から、S字・逆バンク付近に行く。一貴PPタイム1分35秒907はSFニューレコード、昨年日本グランプリのロズベルグPPと5.266秒差、20位マノーのパスカル・ウェーレインに2.346秒差に迫る。S字で見ていると視覚的にはマノー以上、限りなく中間チームのマシン・レベルに匹敵する感じ。オーダーは一貴、国本雄資、山本、石浦、4人が0.111秒間にひしめく。

 F1のメルセデス対フェラーリのようにトムスとセルモ(トヨタ勢)が拮抗する中に、ホンダの山本が食い込んできた。ここで気になるのはそう、一貴の相棒ロッテラーと山本の相棒ガスリーが7位と8位の4列目に沈んだことだ。

 ふたりに共通するのは時差ボケ。ロッテラーはWECシルバーストーンから移動、ガスリーはF1バーレーン・テストを水曜にこなし木曜夜に鈴鹿入り。一貴も英国からだが自分の国に帰れる気分はロッテラーとまったく違う。ガスリーの場合は中東の猛暑気温35度から春の鈴鹿に直行、昼は20度でも夜は10度以下の体感温度差は強烈。コンディショニングは相当厳しく、また17年ニューF1初走行65周を終えてメンタル的な疲労も癒えないままだ(2月にホンダ青山本社であった時とは別人のよう)。決して彼らは言い訳にはしないが、個人的に同情する。

 夕方、トムスのピットを覗くと一貴がスタッフとにこやかに雑談中。「お久しぶりです」から余談がスタート、その一部を。

「いやあ、水曜は僕もちょっとボケ気味でしたけどもう大丈夫です。(S字で見ていたというと)ありがとうございます、本当にいい流れでクルマが決まっているので。WECマシンと違和感はあっても、スピードの違いなど問題ないです。ドライバーとしてこれだけ走り込めるのはうれしいし、楽しいですから」

 いつも礼儀正しい彼、ちょっと痩せたのではと聞くと。

「いやダイエットとかとくにしていませんよ。オフの間にトレーニングをやって毎年今ごろはちょっとスリムで、これから徐々ににふっくらしてくるんです(笑)。いつもそんな感じです」

 フライト移動の連続でマイルは貯まるけれど「使う暇がない」とか。スタッフが「じゃあ分けて」と笑うと「たしか2親等までしかでしょう」と彼。こんな余談からも心技体ともにピークを保ち、リラックスしてこのSF開幕戦に帰ってきたのがよく分かる。マシンの状態やレース戦略など聞かなくても感じとれたのだった。

 PPウイン、全周回トップ、最速ラップを取れば、F1で言うグランドスラムが達成できた。それを終盤に狙ったと思う。レッドブル時代に無敵のベッテルがチームから「抑えろ」と言われてもこだわったように。一貴は3周目に自己ベスト1分40秒713、ゴール前の34周目に1分40秒937。5回使えるオーバーテイク・システムを残したままだからプッシュしたが樹立できなかった。だが1本交換したタイヤ・セットで最終盤にこのタイムを出しきった開幕戦は「セミ・グランドスラム」に値する。

PS:32歳のカズキ・ナカジマがランス・ストロールの代わりに、古巣ウイリアムズで走る夢を亀山のホテルで見た。 

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