音ゲーシーンは更に面白くなる 『EDP×beatnation summit 2017』に見た“歴史の継承”

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2017年05月25日 13:03  リアルサウンド

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『EDP×beatnation summit 2017 -beatnation 10th Anniversary-』(撮影=岡本麻衣)

 約20年前にゲームセンターの一角からその歴史をスタートさせた音楽ゲーム。現在は多ジャンルで展開し、スマートフォンでも手軽に楽しめるようになるなど、ユーザーの生活に浸透している。そこから生まれた楽曲たちは、どのように継承され、現在のクリエイターたちに影響を与えているのか。3月18日に東京・新木場STUDIO COASTにて行なわれた『EDP×beatnation summit 2017 -beatnation 10th Anniversary-』は、その回答の大きな部分を提示してくれた公演だった。


 当日の模様を振り返る前に、まずはbeatnationとEDPについて言及したい。beatnationは2006年、コナミデジタルエンタテインメントの社内レーベルとしてdj TAKAを中心に立ち上がったプロジェクト。メンバーはdj TAKAをはじめDJ Yoshitaka、L.E.D.、Sota Fujimori、Ryu☆、kors k、猫叉Masterと精鋭揃いだ。そしてEDPは、Ryu☆が立ち上げたレーベル。自身や仲間アーティストの音源をリリースするほか、音楽ゲーム関連の大きなイベントを定期的に開催したり、海外ツアーを行なったりと、さらに外側へのアプローチを続けている。


「神曲のオンパレードをかけるぜ!」(Sota Fujimori)


 このSota Fujimoriの言葉通り、ライブでは数々の"神曲”がプレイされた。1番手のkors kは「Gimme a Big Beat」や「smooooch・∀・」、さらにteranoid名義で『beatmaniaIIDX11 RED』に提供した楽曲の最新版「gigadelic 2017」でSota Fujimoriへとチェンジ。Sota Fujimoriは「Back Into The Light」や「Andromeda」、そして「New Decade」から「New Century」と、ストーリー性のある繋ぎも披露してみせた。


 L.E.Dはbeatmania IIDXシリーズ最新機種「beatmania IIDX 24 SINOBUZ」に収録している「鴉」や、代表曲のひとつ「THE DEEP STRIKER」などを挟んでハードコアな空間を作り上げるが、Primがゲストとして登場したあとは「†渚の小悪魔ラヴリィ〜レイディオ†」や「キャトられ(ハート)恋はモ〜モク」、さらにwacも加わり「轟け!恋のビーンボール!!」と次第にお祭りムードが加速。DJ Yoshitakaは「お待たせしました、僕でーす!」と叫び、「Evans」などの高難易度曲を連発したかと思えば、初期の名曲「High School Love」や一大アンセム「GOLD RUSH」で会場を大いに盛り上げた。


 そしてイベント中盤、猫又Masterのステージでは、kors kをゲストに迎えた「Far east nightbird(EDP2017 edit feat kors k)」や「サヨナラヘブン(EDP2017 edit feat かめりあ)」などスペシャルな要素が盛りだくさん。後半のRyu☆はXceon、Mayumi Morinaga、Dai.、Yossyを加えたHHH×MM×ST編成で「朧」を披露したり、HHH結成のきっかけとなった「So Fabulous!!」では、当時のMVがビジョンに映し出された。公演後に発表されたが、Dai.が前十字靭帯断裂&半月板損傷という大怪我を負い、この日が最後となる公式ライブ出演だった。それを踏まえて思い返すと、10年という月日の長さとパフォーマンスの感慨深さにグッとくる。Ryu☆はラストに「plan 8」をプレイし、トリのdj TAKAへ。


 dj TAKAのステージでは、「Zirkfied」でゲストにwacが登場すると、dj TAKAが「俺の相棒を紹介するぜ! キーボード、脇田潤!」と叫び、なんとwacは仮面を外してキーボードを演奏。このサプライズに会場からは割れんばかりの歓声が上がった。


この日の最後にdj TAKAは「『BEMANIのなかで大したことない俺たちは、グループでも作ろうか』と言って集まったのがbeatnation」と語っていた。これを聞いて思い出したのが、Ryu☆とkors kを迎えて先日行なった対談だ。彼らが「ある時期は『音楽ゲームの曲はまがいもの』という風に誤解されていたことは間違いないですから。僕らはそれをひっくり返したくて、いままでこのシーンでやってきた」(Ryu☆)、「音楽ゲームの楽曲はクラブシーンのサブジャンルにもなれずに『これはクラブミュージックではない』と言われてしまっていました」(kors k)と話していたように、音楽ゲームというジャンルの楽曲や作り手は、ダンスミュージックを作っているにも関わらず、シーンと交わることのない年月を過ごしてきている(参考:Ryu☆×kors kがbanvoxと考える、“音楽ゲーム”からしか生まれないダンスミュージック)。だが、誰もそれを見ていなかった、というわけではない。彼らに憧れて音楽家を目指し、同じ土俵へ上がった者たちもこの日のライブには登場している。


 それはアナザーフロアで熱演を繰り広げたMASAYOSHI IIMORI、BlackY、t+pazolite、cosMo@暴走Pなどの若手勢も、メインステージへと上がったDJ TOTTO 、Hommarju、P*Light、OSTER project、かめりあ、RoughSketch、PHQUASEもそうだ。彼らは音楽ゲームというプラットフォームにたどり着くまでに、動画投稿サイトでの成り上がりや現場DJ、音楽作家としての活躍など様々な経験を積んできた。その甲斐もあってか、「音楽ゲームの楽曲」というフィルターで楽曲が聴かれないということもなくなってきたし、細分化するダンスミュージックにおいて、一つの尖ったサブジャンルとして海外に熱狂的なリスナーも多く存在するシーンになった。先述の対談でも話題に上がったが、世界的なDJであるポーター・ロビンソンも音楽ゲームからの影響を公言するなど、状況はどんどん好転してきている。


 そんななかで、今年12月にbeatmaniaは20周年を迎え、EDPは全国ツアーや海外ツアー、大箱でのイベントなど、積極的な外側へのアプローチを続ける。次々と実力者の若手も登場し、スタープレイヤーたちもプロデューサーとしての才覚を発揮しつつある現在。このシーンはまだまだ面白くなる。アンコールで星野奏子と演者全員が歌ったbeatnation10周年ソング「crew」を聴いて、そう思わずにはいられなかった。(中村拓海)


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