だから私たちは星野仙一を嫌いになれない。

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2017年06月01日 01:00  citrus

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出典:「星野仙一記念館」公式サイトより

5月30日、NPB(日本プロ野球機構)のセ・パ交流戦がスタートした。我々野球ファンにとって、オールスターや日本シリーズとはまた別の高揚感を楽しめる約1ヶ月間となる。そんななか、交流戦開幕に向けて5月30日売りのデイリースポーツが、現在は楽天球団副会長を務める星野仙一氏(70)のロングインタビューを掲載していた。両リーグの監督を経験してきた“闘将”だけあって、とても興味深い話がてんこ盛りだったので、文字数が許すかぎり紹介していこう。

 

「(楽天の監督に就任したとき感じたのは)ホームランを期待されている(パ・リーグの)選手はブンブン振る。それも、ものすごくええスイングをするわけよ。びっくりした。これはセ・リーグが勝てるわけないなと思ったよ。(中略)たしかに個々のモノが違う。投げる方も打つ方も、走る方も。野球の質が違う」


ちなみに、過去12年の交流戦でセ・リーグが勝ち越したのは、たった1回っきり。いくら「モノが違う」とはいえ、同じプロ同士の対戦で「11:1」という(リーグの)勝率差は、あまりに極端すぎではないか。その要因を星野氏はこう分析する。

 

「交流戦になると、セ・リーグが“パ・リーグの野球”をしようとしとるなあ。(中略)いつも通りバントで送ったりとかエンドランをしたりだとか、セ・リーグなりの、各チームなりのプレーをしたらいいのに、どこか相手に合わせたようなプレーになっている。(打者は)大振りするような場面じゃないところで大振りしたり。右に打てばいいのに、センター返しすればいいのに……」
(中略)「それだけ(勝敗の)差がつくのは、セ・リーグそのものがパ・リーグを意識しすぎているからだよ。自分の野球というか、考え方を貫いていない。『今年はパ・リーグをやっつけようぜ!』とか、そうやって言うのはいいけど、(俺には)逆に弱気に聞こえる。そんな弱気でどないすんねん。」


当インタビューを始めるにあたって星野氏は「俺はパ・リーグの人間だからなあ」と、みずからの立場を冷静に示したという。そして、インタビューの内容としては、その“パ・リーグの人間”が一方的にセ・リーグの体たらくぶりを糾弾している風にも捉えられなくはない。しかし、次の“後フォロー”こそが星野仙一の真骨頂だと言えよう。
 
「俺はセ・リーグ育ちだから」
 
これだけで「糾弾」が「叱咤激励」へと早変わり。「人たらし」との異名でもならす星野氏だが、とにかくこのヒトはしゃべるのが本当に上手い。
 
イチローや王貞治氏、あとノムさんとかの「話が面白い、重みがある」っていうのとは微妙にニュアンスが違う。彼らのように絶対的な数字を残してきた“偉人”ならば、うがった見方をすると、なにを語っても面白味や重みはあとから勝手についてくる。そりゃあ、現役時代の通算成績146勝121敗34セーブ、さらに監督時代は中日・阪神・楽天の3球団を優勝に導き、楽天では初の日本一にも輝いた……という星野氏の実績は立派なものだ。が、前出の3人と比べれば正直、見劣りする感は否めない。
 
ただ、野球選手としては凡人であったからこその“発言ひとつ一つに対する注意深さ”には、他の追随を許さぬ天賦の才を認めざるを得ない。
 
2003年、我が阪神タイガースを18年ぶりにリーグ優勝へと導いた際、星野氏が監督として発したコメントは、今でも鮮明なかたちで私の胸に刻み込まれている。
 
「野村(前)監督(ノムさん)が耕した畑のあとを私が引き継げたのが幸運だった」
 
こんなことばかり言うもんから、私たちは星野仙一を、どうしても嫌いになれないのだ。
 

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