ねごと「DANCER IN THE HANABIRA」で果たした、中野雅之とのコラボレーションの“集大成”

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2017年06月27日 20:52  リアルサウンド

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 ねごとがニューシングル『DANCER IN THE HANABIRA』を発表。「アシンメトリ」、「シグナル」に続き、BOOM BOOM SATELLITESの中野雅之をサウンドプロデュースに迎えた表題曲は、2月にリリースされたアルバム『ETERNALBEAT』の制作を経て新たにつかんだ今のねごとの核と、中野のサウンドメイキングがさらに高次元で融合した、両者のコラボレーションの集大成とも言うべき一曲に仕上がっている。


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 まずは、ねごとと中野のこれまでの歩みを簡単に振り返ってみよう。2015年に3rdアルバム『VISION』を発表後、楽曲制作とライブによって次の方向性を模索していたねごとは、徐々に「4つ打ちを基調とした踊れるサウンド」という路線に接近。その中で、「一音一音の説得力を上げる」ことを主な目的に、ROVOの益子樹と共に迎えられたのが、以前からファンだったBOOM BOOM SATELLITESの中野雅之であった。


 中野にとってバンドのプロデュースは初の試みだったが、初顔合わせで「僕を信じてください」とメンバーに告げると、すでにライブで披露され、当時はデジロック風だったという「アシンメトリ」をBOOM BOOM SATELLITESばりのサイケデリックかつトランシーなアレンジに再構築。シンセベースの導入など、バンドに対して新たなチャレンジも提示し、この楽曲に背中を押されるかのごとく、ねごとの4人はアルバム制作へと邁進。よりバンドサウンド寄りの「シグナル」も含む『ETERNALBEAT』を完成させた。


 中野や益子との制作を経て、アルバムの中で最後に作ったという表題曲「ETERNALBEAT」では、EDMのようにわかりやすく盛り上げるのではなく、トーンは比較的穏やかでありながら、内側からジワジワと燃え上がるようなねごと流のダンスミュージックを確立。アルバムを携えて全国10カ所で開催されたワンマンツアーにおいては、アルバムからの曲を軸とした「今」を体現するセットリストが組まれ、現在公開されている「アシンメトリ」のライブ映像で、よりたくましさを増したバンドの姿をはっきりと確認することができる。


 そして、ツアーからは3カ月を経て発表されたのが、『DANCER IN THE HANABIRA』。ディスト―ションのかかった暴力的なシンセに始まり、印象的なクラップや勇壮なストリングスまで、まさに一音一音の強さを感じさせる音が積み重ねられたエピックな一曲で、ブレイクのパートと歌メロのパートの対比も非常に印象的だ。また、本作のポイントとして、トラックがプログラミングのみで構築されていることが挙げられる。『ETERNALBEAT』の時点でライブでの再現性は度外視した制作が行われ、特に中野の曲はバラバラに録音した楽器を素材として用いて作られていたが、完全にプログラミングのみで制作されたのは今回が初めて。それはバンドにとってある種の覚悟を伴うチャレンジだったと思うが、「それでもねごとはねごと」という強い確信がメンバーにあったからこそ、この曲が誕生したのだと言えよう。


 もうひとつ特徴的なのが、蒼山幸子の歌の力。『ETERNALBEAT』リリース時のインタビューでは、沙田瑞紀が海外アーティストの抑揚を抑えたメロディへの憧れを語り、蒼山は弾き語りの経験から「語るように歌いたい」と話していたが、その感覚は「アシンメトリ」や「シグナル」においては、まだそこまで生かされていなかったように思う。しかし、その後に作られた「ETERNALBEAT」には2人の志向性が明確に反映され、内側から燃え上がるような、ねごと流のダンスミュージックを確立。「DANCER IN THE HANABIRA」でもそのモードが貫かれていて、インパクトの強いサウンドに対し、蒼山の歌い方やメロディ自体の抑揚は抑え目ながら、だからこそ、言葉の一つ一つが深く伝わってくる。


 歌詞に関しては、「HANABIRA」という言葉を用いたタイトル通り、可憐さと儚さを同時に纏いつつも、〈どうかまだやめないで 踊るあなたの影をずっと 覚えていたい 忘れたくない〉と力強く訴えかけ、その両面性が実にねごとらしい。〈Answer in the これから〉を示すかのようなラストの美しいフェイドアウトに至るまで、サウンド、メロディ、歌、言葉が見事な相関関係を作り上げた、文句のない仕上がりの一曲だ。


 さらに、今のねごとは音源としての完成度を追求した楽曲を、ライブで生演奏に変換する技量も持ち合わせている。実際、「DANCER IN THE HANABIRA」のミュージックビデオを見ると、澤村小夜子は生ドラム、藤咲佑はシンセベース、沙田はギターを背負いつつもシンセに専念し、蒼山はしなやかにステップを踏みながら、凛々しい表情で歌っている。その姿はかつての「可愛らしい女の子バンド」という印象を過去にし、「かっこいい4ピースバンド」を明確に体現するものだ。Creepy Nutsをゲストに迎えて東阪で行われた『ねごと presents ETERNALBEAT NIGHT』を経て、ここから先は夏フェスシーズンに突入。今の彼女たちの音楽性は、広い会場でこそより映えるのは間違いないので、ぜひともライブを目撃してほしい。


 なお、9月1日より公開される土屋太鳳主演の映画『トリガール!』の主題歌が、ねごとのカバーによるスピッツの名曲「空も飛べるはず」に決定し、挿入歌として「ALL RIGHT」を書き下ろしたことも発表された。かねてより交流のあった2組によるコラボレーションがどのような形で楽曲に昇華されているのか、今から楽しみでならない。(金子厚武)


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