「能と歌舞伎」までARの時代。これってやりすぎなの?

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2017年07月04日 19:00  citrus

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出典「超歌舞伎公式サイト 花街詞合鏡」より

VR(バーチャル・リアリティ)という言葉についていくのが精一杯だったリアルバーチャンな私ですが、昨今はARですと。いやもう、ARってなんだ?って話です。オーグメンティッド・リアリティと言われたって全くわかりませんから、リタイアリタイア・オーノー・サンキュウ・サヨウナラとさよならしかけたら、まさかのニュースが伝統芸能のAR化とな。

 

ARを知らない人ににわか仕込みの知識を披露しますとARとは「人が知覚する現実環境をコンピュータにより拡張する技術」。どちらかというと、VRが仮想世界を現実のように見せるのと違い、ARは現実をベースにそこに技術を加えているんですね。

 

 

■能を鑑賞中に「解説」をしてくれる?

 

まずは、能の世界のARです。ARメガネを装着して能を見ると、適切なタイミングで画面上に解説が現れ、セリフの意味や物語の内容が、目線を変えることなく理解できるとのこと。これはありがたい!2017年7月に実証実験が開始されるARメガネの対応言語は日本語と英語。初心者の日本人も観光客もずっと能の世界に入りやすくなるのは間違いありません。

 

舞台では能面をつけた演者。客席ではARメガネをつけた観客。どっちもなんだか表情のわからぬものをつけて異様な感じがしないでもありませんが、少なくとも観客にとってはとてもありがたいものだと思います。

 

 

■歌舞伎は「バーチャル・シンガー」と共演。累計15万再生も

 

歌舞伎の世界では、それより一足早く昨年、超歌舞伎「今昔饗宴千本桜(はなくらべせんぼんざくら)」が上演されました。これは、最新テクノロジーと伝統芸能が融合した大胆な試みで、中村獅童とバーチャル・シンガーの初音ミクが「共演」、それをネットで同時配信。見ていた人たちもコメントを書き込めばそのまま舞台上の画面に流れる仕組みで、大変な盛り上がりを見せました。2日間で5回の上演では、ネットでの視聴回数は累計15万回。数多くの賞を受賞し、その人気に押され、今年も第2回超歌舞伎「花街詞合鏡(くるわことばあわせかがみ)」が上演されました。

 

この第2回超歌舞伎を私はテレビで観ましたが、何しろすごい。花街の風景にぐっと入り込んでいく導入部は、まるで私たちをそのまま江戸の世界に導いていくかのような臨場感です。役者や初音ミクが出てくれば

「紀伊国屋!」

「初音屋(初音ミクにかける屋号)!」

「888888888888888888」(拍手を表す)

といったコメントであふれる画面。

 

「衣裳が豪華!」「すごいね!」と、リアルな俳優の隈取や衣裳に感心する声とともに、バーチャルリアリティの初音ミクの衣裳にも「衣裳の厚みがすごくリアル」「きれい」「流れるような手の動き」といった賞賛のコメントが流れていました。

 

 

■初心者でも「歌舞伎を観たい」という気にさせる

 

最先端デジタル技術であるプロジェクションマッピングや、舞台上の人物がリアルタイムで違う場所で立体的に投影されるのもARの技術。これはまさにリアル分身の術ですね。今までも映像で分身の術などは操作できるものでしたが、その立体感がとてもリアルなので、迫力が違います。

 

敵も味方もARで組んずほぐれずの大乱闘。音楽は導入部こそジャズでしたが、邦楽の良さも存分に披露。スローモーション(だんまり)をたっぷり使ったかと思えば、スピード感あふれる展開になる。緩急入り混じった殺陣は息もつかせませんでした。今まで歌舞伎を全く見たことのない人たちに「歌舞伎すげえ」と言わしめる、そしてその後歌舞伎を観に行こうという気にさせるものがそこにはありました。

 

それは、「おめえら、歌舞伎ってのをしっかり見て見やがれ」という演出の本気度と、ARの技術のすばらしさ。そして歌舞伎俳優のしっかりした体幹に裏打ちされた江戸時代から継承されている技術がありました。ポーズが決まるのは体幹がしっかりしているから。どの瞬間を切り取っても美しいのは、日本舞踊の基礎がしっかりできているから。すべてはたゆまぬ努力の賜物ですが、ARの話とはちょっと離れるのでここで熱弁を振るうのはやめるとします。

 

 

■最新技術で、歌舞伎はさらに進化する?

 

AR技術を使った、本来の歌舞伎とは違う舞台に「こんなものは歌舞伎ではない」と眉をひそめる方もいることでしょう。でも私はそうは思いません。歌舞伎も能も長く伝統を継承してきただけあって、非常に懐が深いものなのです。能は研ぎ澄まし削ぎ落としてきた芸ですが、歌舞伎は、核となる基本の上に縦横無尽に広がりを見せつつ残るものは残り、消えるものは消え、どんどんと枝葉を広げてきた芸でした。

 

つまりどんどん新たなものを吸収し、挑戦をし、観客に選ばれれば残るし、選ばれなければ残らないという奥深さ、息づく力強さがあるのです。常に時代の最先端を行くもの、それが歌舞伎です。そう考えれば、バーチャルキャラクターを使ったAR技術をも飲み込みながら進化していくのも当然のことなのかもしれません。堅苦しいもの、眠くなるもの。そんなことを言って能や歌舞伎を遠ざけていれば、あなたのほうが伝統芸能に追いてけぼりを食ってしまうかもしれませんね。

 

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