アフガン撤退から一転、増派へ トランプはなぜ変心したのか

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2017年08月22日 19:42  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<アメリカのトランプ大統領がアフガニスタンの新戦略を発表し、アメリカの関与継続を表明した。アフガニスタンに無関心だったトランプの戦争とは?>


ドナルド・トランプ米大統領は21日、政権発足から8カ月で最も重大な決断をした。アフガニスタンへのアメリカの関与を継続し、米軍部隊を撤退させるのではなく増派し、「勝つために戦う」ことが、トランプの国家安全保障チームの選んだ答えだ。ただし増派の規模など、具体的な計画は明らかにしなかった。


アフガニスタン増派に反対してきたトランプがたとえ疑念を持っていようと、これは最終決定だ。目的は、アフガニスタン軍による治安の回復を支援し、反政府武装勢力タリバンに対する作戦を本格化し、テロ組織ISIS(自称イスラム国)が同国で足場を固めるのを阻止することだ。


【参考記事】アフガニスタンを脅かすISISの戦線拡大


オバマ政権のアフガニスタン政策を批判してきたトランプ政権は、この決定を、前政権とは明確に袂を分かつ新たな戦略だと主張するだろう。だが現実には、長年の中核戦略を、適度に修正しただけだ。


一方、今回の決定の重大さの割に、アメリカの国家安全保障問題に占めるアフガニスタンの存在感は失われたままだ。もはやアフガニスタンが、アメリカで話題を独占することなどない。アフガニスタン戦争が「良い戦争」と言われたのは過去の話で、今や忘れられた戦争だ。2016年の米大統領選挙でも、アフガニスタンは全く争点にならなかった。1度もテレビ討論の議題にならず、トランプも民主党候補だったヒラリー・クリントンも大した意見を言わなかった。


【参考記事】バノン抜きのトランプ政権はどこに向かう?


辛い戦争から目を背ける国民


だがアフガニスタンでは、これまでに2400人以上の米兵が死亡し、2万人以上が負傷した。2002年以降、アメリカはアフガニスタンの外交や治安維持を支援するために1000億ドル以上を注ぎ込んだ(この金額に、アフガニスタンで実際にかかった数千億ドルの戦費は含まれていない)。これだけの人命と国費を犠牲にしても、アメリカ人の大多数にとってアフガニスタン戦争は過去の話だ。9.11テロの報復として始まった、アメリカ史上最もトラウマとして残る戦争であるはずなのに、心理的に決別してしまった感じだ。


【参考記事】アフガニスタンは「オバマのベトナム」


多くのアメリカ人と同様に、筆者もアフガニスタンにおけるアメリカの使命について答えを探しあぐねている。はっきりした正解がなく、どの選択肢にも納得がいかない。前職(オバマ前政権下の米国務省国防次官補代理)では、政権末期に駐留米軍の兵力を維持するとしたバラク・オバマ前大統領の決定を強く支持した。規模を維持するリスクより規模の縮小によるリスクの方が大きいと思ったからだ。


だが同時に、アメリカが型通りの関与を続けるべきだとも思わない。アフガニスタン戦争の終結は軍事的手段でなく、主に政治を通じてもたらされるべきだ。トランプ政権の政策は、この点を非常に軽視している。トランプは駐留米軍撤退時期を示さなかったが、改めて駐留の根拠を明らかにすべきだ。


もし米軍兵士の命を危険にさらす覚悟があるのなら、駐留米軍の使命や、軍事的・非軍事的資源の調達先についての説明責任をトランプは果たすべきだ。


トランプの国家安全保障チームは史上初めて、ほとんどのメンバーを元軍人が占めている。それもアフガニスタン戦争を指揮した元司令官ばかりだ。H.R.マクマスター大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、ジェームズ・マティス米国防長官、ジョセフ・ダンフォード米統合参謀総長、ジョン・ケリー大統領首席補佐官がそうだ。彼らはアフガニスタンでうまくいくこととといかないことを大統領に明示できるベテランだ。


自問自答すべき10の質問


トランプと国家安全保障チームはアメリカ国民に対し、以下の10の疑問に答える必要がある。


■アフガニスタンでアメリカは何を成し遂げようとしているのか。戦争が始まってから16年経過したのに、なぜ今後も駐留米軍を維持することが重要なのか。


■開戦当時アメリカがアフガニスタンに侵攻したのは、国際テロ組織アルカイダを倒すためだったが、その目的はほぼ達成された。現在の敵は何者で、敵はアメリカにどんな脅威を与えているのか。


■トランプ政権は撤退の期限を設けたくないと言う。では永遠にアフガニスタンに米軍を駐留させる気か。目的は何か。いずれ撤退させるつもりなら、どんな条件を満たした時か。


■増派によって期待できる有意義で予測可能な成果は何か。それとも失敗を先延ばしにしているだけか。アメリカの「勝利」をどう判断するのか。


■紛争終結時のアフガニスタンの姿はどんなものか。戦争の席には誰が取るのか。


■アメリカの同盟国は新戦略でどのような役割を担うのか。アメリカはどうやって同盟国から最大限の支持を取り付けるのか。


■アフガニスタンの隣国パキスタンが、米軍の対テロ戦争に協力するよう見せかけながら、他方ではテロ組織の温床になってきた問題を、アメリカはどう解決するのか。


■トランプ政権は中国に、より大きな責任を負わせるのか。それとも中国が今後も南アジアに覇権を広げ続けるのを看過するのか。


■アメリカはこの戦略に対し、十分な財源(と人員)を確保しているのか。今後どのくらい必要になるのか。


■米軍駐留に資源を割き続けることで、アメリカが世界的に被る機会損失は幾らか。なぜアメリカがそうした損失を強いられるのか。


残念ながら、トランプがこれらの疑問を熟考することはないだろう。トランプはアフガニスタン戦争の責任を将軍たちに押し付け、アフガニスタンを一度も訪問しないまま今回の決定を下した。一連の言動は、アフガニスタンに対するトランプ自身の関心の低さを物語っている。どれほど優れた政策決定プロセスから生まれた戦略も、大統領が無関心では台無しだ。


ただしトランプがどれほど無関心であろうと、新戦略を発表したからには、これはもうトランプの戦争だ。オバマでも、ジョージ・W・ブッシュ元米大統領でも、マクマスターでもない。トランプは自分の決断が生む成功も失敗も、すべて背負うことになる。


トランプにしてみれば、大統領就任以来、最も恐ろしい心境だろう。先週は米バージニア州のシャーロッツビルで白人至上主義を掲げる団体と反対派が衝突する事件が発生し、その後トランプは人種差別を容認するような発言をして、大統領として道徳的な規範となるべき立場を放棄した。


このタイミングでの新戦略の決定は、新たな意味合いを帯びてくる。果たしてトランプは、アフガニスタンのような危険地域に米軍を増派するという重大な決定で、十分な求心力を持ち得るのだろうか。答えは、じき分かるはずだ。


(翻訳:河原里香)


From Foreign Policy Magazine


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ケリー・マグサメン(米国務省元国防次官補代理)


このニュースに関するつぶやき

  • 面子やバックの威信を取るか、リスクをきちんと理解しつつ捨てるところを捨て実利を取るかだったが、これはコレまでで最大の誤った采配となったかもな、トランプ政権…。
    • イイネ!3
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