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「えー、本番、ギリギリ前ぐらいにカットしていいですかってきて。オンエアの。いやいやいや、え、なんでなんで?」
「だから、えー、フジテレビにとってマイナスなニュースもやっぱりやっていかなアカンと思うし、吉本のなんかのそういうね、不手際のニュースでもやっぱりやっていかなアカンし、もちろん自分になんかあったときは、逃げずにコメントしないといけないし」
20日放送の『ワイドナショー』(フジテレビ)で、松本人志が上原多香子の不倫疑惑のくだりをカットされたことを告白。こんな決意を語ったことがネットで喝采を浴びている。
たしかに、松本の言うように、上原の不倫問題をめぐるテレビ局の姿勢はあまりに露骨だった。昨年のベッキー不倫から、最近の斉藤由貴の不倫まで、芸能人の不倫をあれだけ大々的に報じていたワイドショーが、今回、上原についてはまったくといっていいほど報道しなかったのだ。松本は『とくダネ!』はやってたのに」と言っていたが、『とくダネ!』も遺書の存在など不倫疑惑の詳細には触れず、むしろ騒動による上原の心労や活動休止を報じただけだった。
この沈黙の理由はもちろん、上原が所属するライジングプロダクションが、芸能界のドン・周防郁雄氏率いるバーニングと関係が深く、芸能マスコミにとってタブーになっているためだ。
本サイトは不倫を道徳的に糾弾する風潮にくみするつもりはないが、しかし、弱小事務所のタレントは犯罪者扱いする一方で、バーニングやジャニーズ事務所所属であれば、不倫はもちろん犯罪紛いの不祥事でも扱わないというテレビのワイドショーやスポーツ紙のダブルスタンダードは、あまりにもひどいと思う。
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そういう意味では、松本の指摘は至極真っ当だし、大手芸能プロに所属するタレントのスキャンダルがどのように葬られるのか、具体的なやりとりを地上波のメジャー番組で明かしたことも、意味があると言えるだろう。
しかし、一方で、松本が大見得を切ったように、これから『ワイドナショー』が大手芸能事務所のスキャンダルに切り込み、松本や吉本にとってマイナスなニュースをきちんと取り上げるとはとても思えない。というか、今回の発言はそもそも、松本のアリバイ的ポーズにすぎないのではないか。
なぜなら、松本は以前にも大手芸能事務所タブー問題についてふれていたが、その後も、何も変わらなかったからだ。
「ネットで散々、あの上位に上がっているのに、ワイドショーでは一切扱わない。この違和感は、もうあの、テレビ業界の人たちも、もうそろそろ気づいてほしい」
松本は今年元旦の放送で、こんな発言をしてやはり喝采を浴びた。しかし、この発言の直前には、三代目J Soul Brothersのレコード大賞受賞をめぐるバーニング周防郁雄社長の買収工作を「週刊文春」(文藝春秋)が1億円の請求書付きでスクープしたが、『ワイドナショー』はこの問題を1秒も流していないし、松本も一切コメントしなかった。
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また、同じく昨年末には、嵐・松本潤がAV女優の葵つかさと二股交際していたことを「週刊文春」がスクープ。ネットでは年が明けても大きな話題になっていたが、これも『ワイドナ』は一切無視し、松本も完全沈黙を守った。
この間、松本がこうした大手芸能プロの問題を口にしたのは、せいぜい、バーニング系列のレプロエンタテインメントに所属するモデル・マギーの不倫をテレビが一切扱わず、『ワイドナ』でもスルーしていたときに「それよりマギーの話を」とひと言だけギャグとしてぶっ込んだくらいだろう。ちなみに、マギーについては名前を言っただけで、「不倫」とも「バーニング」とも言っていない。
また、松本が率先して報道させなかったとしか思えない案件もあった。それは、安倍首相や維新の会、松井一郎大阪府知事がかかわった、森友学園問題だ。3月、ほかのワイドショーや情報番組があれだけ盛り上がっていたのに、『ワイドナショー』はなかなかこの問題を取り上げようとしなかった。何週か後にようやく取り上げたが、番組後半に短く、申し訳程度に扱っただけ。今回、上原問題の議論のなかで、ゲストのヒロミが「テレビは都合の悪いネタはほかのニュースと一緒にVTRだけ流してスタジオコメントなしにすることもある」という旨の指摘をしていたが、『ワイドナ』も森友問題を「VTRだけ」でしのいだ週もあった。東野は上原問題で「報道しない自由」なるネトウヨ用語を使っていたが、『ワイドナ』の森友問題への扱いこそがまさに「報道しない自由」としか思えないものだった。
しかし、『直撃LIVEグッディ!』や『バイキング』を見てもわかるように、フジテレビで森友問題を扱うことがタブーだったわけではない。にもかかわらず、『ワイドナ』がこんな不自然な対応を見せたのは、安倍首相の熱烈な支持者で、大阪万博アンバサダーに就任して松井府知事とも関係ができた松本が扱うことを嫌がったためではないかといわれている。
さらに、決定的なのは、松本批判をしたオリエンタルラジオ・中田敦彦の問題だろう。この問題は、「日本のお笑い芸人は権力批判ができない」「日本のお笑いはオワコン」とツイートした茂木健一郎が『ワイドナショー』に出演して、松本に謝罪をしたことを中田が批判したもので、当然、同番組で大きく取り上げるべきテーマだった。しかし、この問題は一切扱われることなく、松本もひと言も口にしなかった。
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以前、『白熱ライブ ビビット』でベッキーを批判した中田を、『バイキング』で雨上がり決死隊の宮迫博之が批判した際は、いずれも他番組での話だが『ワイドナショー』でも取り上げ松本もコメントしていたのに、この沈黙。どう考えても、都合が悪いから逃げたとしか思えない。しかも、その後、吉本興業が裏で中田に松本へ謝罪するよう圧力をかけていたことも判明している。
松本は今回、「もちろん自分になんかあったときは、逃げずにコメントしないといけない」とカッコよく宣言していたが、実際にやってることはまったく逆なのである。
いや、中田のケースだけではない。松本はこれまでも、自分への批判やスキャンダルは「逃げずにコメントする」どころか、それこそ事務所の力を使って封じ込めてきた。松本の所属する吉本興業はジャニーズやバーニングのように、なんでもかんでもタレントの批判やゴシップを圧力で潰す体質ではないが、こと松本の問題については別。それこそ、テレビやスポーツ紙はもちろん、エロ本や実話誌レベルの悪口に対しても抗議をしてくることで有名だ。
その結果、松本人志は過去のゴシップをほじくりかえされることもなければ、プライベートの家族生活を覗き見されることもない。『ワイドナショー』でこれだけ強者の論理を振り回してもマスコミでは誰からも批判されることはない。事務所のおかげで、松本自身もジャニーズやバーニング並みのメディアタブーになっているのだ。
しかも松本の場合、自身への批判は封殺する一方、後輩芸人たちのスキャンダルや不祥事は積極的に取り上げ、辛辣にコメントすることで、吉本興業はタブーではない、自分は吉本のスキャンダルもちゃんと取り上げるという印象をつくりだしているから、より悪質ともいえる。
そんな松本が芸能事務所タブーをエラソーに批判する資格があるのか。というか、そもそも、松本は本気で芸能事務所タブーを打破しようなんて考えちゃいないだろう。
実は前回、テレビが大手芸能プロのスキャンダルを扱わないということを批判した際も、松本が強調していたのは「ワイドショーに出演するコメンテーターのタレントが一番損する」ということだった。テレビ局のせいで自分が恥をかかされたことに怒っていただけなのだ。
今回も同じだ。おそらく、ネットで「テレビはなぜ上原多香子の不倫ネタを扱わないのか?」という声が高まっているのを目にし、自分も同じように批判されるのがイヤで、エクスキューズ的にこの問題を扱いたかっただけではないのか。
事実、松本は威勢良くフジテレビを批判していたが、上原不倫が扱えなかった本当の理由、ライジングとバーニングの圧力についてはひと言もふれていない。結局、松本は自分で率先して自主規制しておきながら、テレビのせいにして被害者のように語っているだけなのだ。
にもかかわらず、今回の放送をめぐって、ネットでは「さすが、松ちゃん」などと松本を称賛する声があふれている。
しかし、権力におもねり弱者をいじるこの芸人の本質はそんなかっこいいものじゃない。もしも松本が本気で芸能マスコミの理不尽を本気でただす気があるというなら、まず、オリラジの中田をゲストに呼んで、生討論するべきじゃないのか。それをせず、何を言ったところで、他人に厳しく自分に甘いダブルスタンダードの批判は免れない。
(本田コッペ)
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