GLAYが『SUMMERDELICS』で提示した“新たなバンドの楽しみ方” アリーナツアーを機に考察

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2017年09月23日 10:03  リアルサウンド

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 『GLAY ARENA TOUR 2017 SUMMERDELICS』が9月23日、朱鷺メッセ・新潟コンベンションセンターより幕を開ける。


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 本ツアーは、7月12日にリリースされたGLAYの14thアルバム『SUMMERDELICS』を携えて行われるアリーナツアーだ。『SUMMERDELICS』は発売初週で5.3万枚を売り上げ、7月24日付オリコン週間アルバムランキングで1位を獲得。GLAYがアルバムランキングで1位を獲得したのは、『JUSTICE』(2013年1月)以来約4年半ぶりのことだった。ツアー開始に伴い、GLAYにとって大きなターニングポイントとなった作品『SUMMERDELICS』について改めておさらいしておきたい。


 アルバム『SUMMERDELICS』が多くのリスナーに受け入れられた最大の理由は、斬新なGLAYのイメージを打ち出し、バンドの新しい可能性を訴求できたこと。この絶妙なバランス感覚は、TAKURO、TERU、HISASHI、JIROの楽曲がほぼ均等に収録されていることによって支えられている。


 ご存知の通り、「グロリアス」(1996年)、「口唇」(1997年)、「誘惑」(1998年)など、1990年代のヒット曲はすべてTAKUROの作詞作曲によるもの。90年代のGLAYの絶頂期を支えたのは、まちがいなくTAKUROのソングライティングだったのだ。しかし2010年代以降は、メンバーそれぞれのセンスが徐々に前景化。JIROが作曲を手がけたシングル曲「運命論」(2012年)あたりからは、TAKURO以外のメンバーが作曲した楽曲がシングルの表題曲になることが増えた。その方向性を決定づけたのが、2016年1月に発売された『G4・IV』。メンバー全員が曲を収録するというコンセプトを掲げた本作は、『VERB』(2008年)以来、約7年8カ月ぶりに首位を獲得。このシングルの手応えがアルバム『SUMMERDELICS』につながったというわけだ。


 メンバー個々の才能がこれまで以上に発揮された『SUMMERDELICS』。このアルバムのを“新しさ”を象徴しているのは、HISASHIの作曲によるオープニングナンバー「シン・ゾンビ」だ。『G4・IV』収録の「彼女はゾンビ」のアナザーバージョンとして制作されたこの曲は、音楽ゲーム「太鼓の達人」とのコラボナンバー。「太鼓の達人」の“ドンちゃん”の声を担当している“ならはしみき”も参加し、まるでニコ動に投稿される二次創作のような楽曲に仕上がっている。この曲をアルバムの1曲目にしようと提案したのはTAKURO。「シン・ゾンビ」がアルバムの冒頭を飾ったことで、本作におけるGLAYの新たなイメージが決定づけられたと言っていいだろう。当初HISASHIは「シン・ゾンビ」を1曲目に据えることを反対したというが、「この曲がアルバムのポイントになる」というTAKUROの判断は大正解。そこにおそらく「ネットカルチャー、アニメなどにも造詣が深いHISASHIのセンスを活かすことこそが、この先のGLAYにとって大きな意味を持つ」という狙いもあったのではないだろうか。


 「HEROES」「空が青空であるために」などTERUの楽曲からは、前向きで希望に溢れた歌がまっすぐに伝わってくる。これまでTERUには(自らのボーカル表現の可能性を広げるような)さまざまなテイストの楽曲を作る傾向があったが、ここ数年は“後ろ向きなことは歌わない”というテーマを課し、リスナーを鼓舞するような楽曲を作り続けている。そこから伝わってくるのは、自分自身のクリエイターとしてのエゴを追求するよりも、GLAYのフロントマンとしての責務を全うしたいという意志。GLAYのパブリックイメージを背負い、正面からリスナーと向き合おうとする姿勢もまた、本作『SUMMERDELICS』が支持された大きな要因だ。


 JIROが手がけるオルタナティブ・テイストのロックナンバーもさらに存在感を増している。特に印象的なのはタイトルトラックの「SUMMERDELICS」。シンプルなコード進行とエモーショナルなメロディラインはまさにJIRO節だが、この曲にインスパイアされたTAKUROがアルバムのテーマに直結する歌詞を書いたことは、メンバー間の化学反応がより強く作用していることの証左だろう。4人のセンスを自由に活かすことが“ソロ曲の集合体”ではなく、有機的なケミストリーによってトータリティのある作品へと結びついていることも、現在のGLAYの好調ぶりにつながっているのだと思う。


 やはりJIROが作詞作曲を担当した「lifetime」も素晴らしい。地方のファンに向けて“次に会えるときまで、自分たちの曲を聴きながら待っていてほしい”という思いが込められたこの曲は、ここ数年、毎年のように全国ツアーを行い、日本中のファンと密なコミュニケーションを取っているGLAYの活動方針とも重なっている。


 また、メンバーの個性を把握し、「GLAYとして、いま何をすべきか?」を正確に捉えているTAKUROのリーダーシップもきわめて重要な役割を果たしている。アルバム『SUMMERDELICS』に関するインタビューのなかで彼は「純粋に「楽しいね」って思えることが、GLAYのすべての原動力なんですよ。メンバー4人が持っている、ある種、高校時代の最後の夏休みのような、あの雰囲気だけは、触れてくれるなっていう」「そこさえちゃんと守ることができるならば、俺のリーダーとしての役目は、もう十分に果たせていると思うんですよね」と語っているが、“楽しむ”ことを継続するためには、メンバー同士のバランスを取りながら、進むべき方向を示す必要がある。メンバー全員の才能を存分に活かした『SUMMERDELICS』の制作を通してTAKUROは、GLAYというバンドの新たな楽しみ方を実感したはず。そして、このアルバムが多くのリスナーに支持されたことは、彼らのなかで「この方向でまちがいない」という確信につながったのではないか。


 TAKURO、TERU、HISASHI、JIROのそれぞれの存在感をアピールすると同時に、バンドとしての絆もしっかりと示すーーそう、アルバム『SUMMERDELICS』の成功は、GLAYのポテンシャルをどう活かし、どう見せるか? という真摯な探求の結果なのだと思う。アリーナツアーでは、それらがどのようなかたちで具現化されるのか? 会場で確認したい。(森朋之)


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