BRADIOが掲げる、ファンク×J-POPの新たな王道 「パイオニアになれる可能性がある」

0

2017年10月18日 23:42  リアルサウンド

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

リアルサウンド

写真

 奴らがいよいよメジャーシーンにやって来る。インディーズ時代は向かうところ敵なし、今年に入って中野サンプラザ公演をソールドアウトさせ、15個もの大型夏フェスを制覇した稀代のファンクロックバンドが、次に狙うはメジャーでの主役の座だ。熱唱とファルセットを巧みに使い分ける、一度見たら忘れないアフロ頭の真行寺貴秋(Vo)を中心に、そのサウンドは強靭なファンクビートとJ-POPの親しみやすさを兼ね備えた、とことんポップでハッピーなもの。往年のソウルマナーをたっぷり詰め込んだ1stシングル『LA PA PARADISE』から、BRADIOの新しいステージが幕を開ける。(宮本英夫)


■「いい音楽を残していきたい」(大山)


――個人的には、「HOTELエイリアン」あたりのミュージックビデオにやられたクチです。BRADIOのファンって、映像から入った人も多いんじゃないかと思うんですけども。


酒井亮輔(Ba/以下、酒井):映像はかなりパンチありますからね。


大山聡一(Gt/以下、大山):自分らで見ても「なんだこいつら?」って(笑)。


酒井:「HOTELエイリアン」は、撮影に3日ぐらいかかったもんね。


――あれ、相当お金かけたでしょう。


大山:いや、意外に節約してやってるんですよ。ロケーションも、知り合いのツテで借りたりとか。お金かかってる風ですけど(笑)。


――客観的に見ると、あの時期ですか。BRADIOという名前が一気に広がり始めたのは。


田邊有希(Dr/以下、田邊):「Flyers」でアニメ(TVアニメ『デス・パレード』)のタイアップをやらせてもらうようになってから、かもしれませんね。


――2015年くらいですね。あれからぐんぐん動員もセールスも伸ばして、いよいよメジャーデビューということで。BRADIOは実は長いキャリアを持つバンドですけど、もちろん目標ではあったんですよね。メジャーデビューというのは。


真行寺貴秋(Vo/以下、真行寺):もちろん。単純にうれしいですし、ファンの方たちに望まれていた部分もあったりしたので。そういった意味で、「みんなのおかげでここまで来たよ」というものが、一つの形になったのかなという実感があります。


――やはり変わりますか。環境も、メンタルも。


田邊:正直な話をすると、そんなに変わってないですね。今までもいい環境で活動させてもらっていたということもありますし、今まで培ってきたものをそのまま継承しつつ、いろんなことを吸収できたらいいなと思ってます。ただ自分の内面とは裏腹に、周りの人や親がすごく喜んでくれてるので、それは単純にうれしいなと思いますね。


大山:メジャーに行って音楽をやるというのは、小さい頃からの夢だったんで、うれしいです。バンド自体はもう7年目になるんですけど、バンドとしての歴史を踏まえて、一緒にやっていこうと声をかけていただいたのはすごくうれしいですし、ワーナーさんは僕たちのことをすごく理解してくれている感覚があるので、一緒にいい音楽を残していきたいです。あとは、最近よく六本木に来るなと思いますね(笑)。僕は新潟の田舎者なんで、六本木=メジャーという感じです。


酒井:音楽の芯になる部分は変わらないと思います。変わった部分は、意識とか哲学の部分ですね。人の目に触れることが多くなると思うので、ダメになった時は急激にダメになるという、プレッシャーはすごく感じてます。


――掛け金が多くなって、ゲットも増えるけどリスクも増えるというような?


酒井:そんな感じですね。ライブのキャパもそうで、何百人のライブハウスから何千何万になっていくということだと思うし、ミュージシャンとしても成長しなきゃいけないなという意識はすごく高まりました。


――その、記念すべきメジャー一発目。「LA PA PARADISE」は、シングルを想定して作ったものですか。


真行寺:もともと違う形であった曲を、このタイミングでブラッシュアップしました。


大山:BRADIOの場合はだいたいオケ先で、それにメロディを乗っけていくパターンが多いですね。これはもともとのオケは全然違う感じだったんですけど、サビで貴秋が歌ってたメロディがすごく良かったので、そこを生かして、ガラッと作り直して今の形に持って行きました。


田邊:曲のテイスト的には80年代、90年代の古き良き音楽をベースに、BRADIOのソウルをふんだんに盛り込めたんじゃないかと。歌詞的には、人の背中を押せるようなものになればいいと思っていて、元気になる要素もあるし、せつない要素もあって、現時点でのBRADIOの良きところを詰め込めた1曲になったんじゃないかなと思ってます。


――プロデューサーが藤井丈司さん。僕ぐらいの世代にとっては、「YMOとやっていた、あの……」という感じですね。すごいビッグネーム。


酒井:めっちゃファンキーな人でした。


田邊:気さくな親父って感じ(笑)。同じ目線で話してくださるので、すごくやりやすかったですね。フレーズというよりは、メンタル面でアドバイスをくれるプロデューサーのタイプかなと思っていて、ドラムに関しては、僕は一小節一小節の積み重ねで作っていくタイプだったんですけど、「こういうダンスミュージックはもっと大きいループでグルーヴを作っていったほうがいいよ」とか。初歩といえば初歩なんですけど、ハッとする言葉が多かったです。最終的な答えは自分で出すんですけど、そこまでの道筋のヒントをくれるというか、そういう印象ですね。


酒井:ベースは楽しく録れました。個人的にどんどんレコーディングが楽しくなってきてる感覚があって、前回のアルバムの時からそうなってきたんですけど、今回は何も考えずに楽にできた気がします。


■「仮歌詞で往年のフレーズを入れていた」(真行寺)


――「LA PA PARADISE」を聴くと、アース・ウィンド・アンド・ファイアーを思い出します。


酒井:この曲はもう、アースですね(笑)。


――ですね(笑)。ただアースとか、70年代のソウルやディスコには独特の揺れを感じますけど、BRADIOのビートはタイトなダンスミュージック。現代的なビート感覚だと思います。


田邊:そこは一ドラマーとして永遠のテーマですね。黒人が叩く良き揺れのビートは、これからももっと研究していかなきゃいけないなって思わせてくれた曲でもあります。きっちり叩くだけがすべてじゃないという、ニュアンスが絶妙ですよね。絶対何か答えはあるはずだと思っているので、そこはこれからずっと、寄り添っていかなくちゃいけないテーマなんじゃないかなと感じてます。


真行寺:グルーヴものは突き詰めていきたいです。でもBRADIOの根底にあるのは、ポップスがすごく好きですし、歌謡曲も好きですし、音楽は一つのツールというかフィルターというか、「音楽って楽しいね」ということを表現するのがBRADIOだと思っていて。一つのものを突き詰めるのも好きなんですけど、そこだけではないのがBRADIOなのかなと思ってます。


――この曲、歌詞にいろんな過去の曲名を引用してるでしょう。すごく面白いんですけども。


真行寺:プロデューサーの藤井さんに、歌詞のほうにも密に入っていただいて。仮歌詞でなんとなく往年のフレーズをちょいちょい入れていたんですけど、藤井さんが「もっといろんなフレーズを入れて行こう」と言ってくれて、最終的にこうなった感じです。藤井さんもソウルミュージックが大好きな方なので。


――何曲あるか探してみようという、クイズができますよ。まずは「雨上がりの夜空に」(RCサクセション)から始まって……。


真行寺:あ、そこわかりますか。けっこうスルーされるんですよ。


――そうなんですか? だってそのあとに「気持ちE」も出てくるし。


真行寺:ああ〜。藤井さん世代ですね。


――もうちょっと下ですけどね(笑)。RCサクセションはリアルタイムですから。


真行寺:「気持ちE」をわかってくれた人は初めてかも。一生伝わらないんだろうなと思ってたんですけど(笑)。うれしいです。


――うーん、若い人は知らないですかね。でも「LA・LA・LA LOVE SONG」(久保田利伸)とかはわかるんじゃないですか。


真行寺:ここまではっきり言っちゃって、大丈夫なのかな? と思ったんですけどね。でも久保田利伸さんご自身が、「過去の曲のエッセンスを入れるのはソウルマナーだ」と言われてる方なので、だったら使っちゃおうと(笑)。


――大丈夫じゃないですか。それを言ったらカップリングの「Baddest」も、久保田さんのアルバムにありましたし。


真行寺:そうですね。でもそれはあんまり意識してなくて、もともと「Bad」という仮タイトルがついていて、マイケル・ジャクソンですけど、「良すぎてヤバイ」みたいなニュアンスで。インタビューでも、今回の2曲は「久保田さんを意識したんですか?」と聞かれることが多いですね。


――J-POPとしてのソウルミュージックのパイオニアの一人ですからね。でも「引用はソウルマナー」というのはいいセリフだなあ。ホッとしますね(笑)。


真行寺:それを言ったら何でもいいじゃんみたいな(笑)。


――読者のみなさん、この歌詞に過去の曲名が何曲出てくるかチェックしてみてください。全部名曲なので。ちなみに「LA PA PARADISE」という、可愛らしいタイトルはどこから?


真行寺:メロディが先にあって、そこにスキャットみたいな感じで入っていたのが、こういう感じの響きだったので。それを文字にしたらこうなった、という感じですね。「That’s the way」が「ガッツだぜ」になったみたいな。


――ああ〜、なるほど。やっぱりBRADIOは受け継いでますね、ソウルマナーを。


真行寺:まあ、後付けみたいなところもありますけどね。


――上の世代で言うと、ウルフルズやSCOOBIE DOがやってきたことを受け継ぐみたいな、そういう感覚はありますか。


真行寺:受け継いでる感じは、特にはなくて。大先輩で、すごくリスペクトしてますし、でも受け継いでる感じはあんまりないですね。好きですけど。


――「Baddest」は、どんなふうに作った曲ですか。


大山:これもオケ先で、トラックの段階からやりたいことが固まっていた曲だったので。バンドのグルーヴをグッと前に出した曲にしたいなと思って、そのテンションで貴秋に歌をつけてもらって、という感じですね。


――ギター、最高にクールでかっこいいです。もはやワビサビの域というか、ソロパートなのにカッティングで乗り切るとか、なんて渋いギターソロだろうと。


大山:今までとは違う間奏のアプローチとして、バンド全体で世界観を作りたくて、うまくアレンジできたと思ってます。ライブが大変だなと思うんですけど、やりたい感じの世界観が作れました。


酒井:ストイックですね。ライブでは毎回フレーズを変えても面白そうな曲かなと思ってます。「LA PA PARADISE」はもっとカチッとした、世界観をすごく大事にできる曲なんですけど、「Baddest」はすごく表情を変えられるような曲だと思ってるので。今後のスキルが反映されて行く曲かなと思ってます。


田邊:この曲はいかにシンプルに、いかにハネられるか。少ない情報でいかに濃く踊らせるかが肝だと思ってます。


――メジャーデビューに際して用意した2曲。望み通りの仕上がりですか。


田邊:そうですね。今までのBRADIOチームで培ってきた良きところはしっかり継承しつつ、新しいエッセンスや、プロデューサーの藤井さんもそうですけど、いろんな意見を柔軟に取り入れて、自分たちで消化して反映できたのが素晴らしいことなんじゃないかなと思います。


■「人の人生を変えていくようなバンドになりたい」(酒井)


――一つ聞いてみたかったのは、「LA PA PARADISE」でも炸裂している、真行寺さんの得意技のファルセット。あれってどこを鍛えたらうまく歌えるんですか。ファルセットでガンガン歌う男性シンガーってあんまりいないので、誰をお手本にして、どんな鍛え方をしてるのかな? ってふと思ったりして。


真行寺:フィーリング……ですかね(笑)。もともと僕、声がすごく低くて、高い声が出ないというコンプレックスがあって。その頃はハイトーンのボーカルが流行ってる時期で、僕みたい声質はバンドに埋もれちゃうから、何かないかな? と思ったら、「そうか、ファルセットだ」と。最初は薄っぺらいところから、どんどん厚くしていきました。マニアックなことを言っちゃえば、輪状甲状筋がなんたらとか、いろいろあるんですけど、そんなの言ってもしょうがないですよね(笑)。


――いや、めちゃめちゃ気になりますよ。何筋?


真行寺:輪状甲状筋という喉の筋肉があって。けっこう僕、一人でそういうことを調べるのが好きなので。医学的な本とか、ネットで喉のお医者さんがやってるブログだとか、毎日チェックしてた時期があって、プリントアウトして、図を見ながらああだこうだって……インタビューでこんなマニアックな話して大丈夫ですか(笑)?


――いやあ、真面目に興味津々ですよ。喉の筋肉のことを研究しているボーカリストには初めて会った気がする。やってるけど言わないだけかもしれないですけど。


真行寺:そうそう、言ってもしょうがないんで。だから、フィーリングです。


――まとめた(笑)。面白いなあ。


真行寺:みんなの機材と一緒ですよ。ここにエフェクトをかますとどうなるとか、そういう類の話です。


――今度ゆっくり、筋肉の話だけをするインタビューをしましょう。きっとボーカリストがみんな見てくれる(笑)。


真行寺:調べると、けっこう面白いんですよ。仕組みを知ると。


――これから始まるメジャーライフ。BRADIOはどういう存在になっていきたいですか。


酒井:僕は世界に行きたいなと思ってます。究極を言っちゃうと、ウッドストックみたいな、人がドカーンといる場所に行ってみたいです。でも場所に固執するわけではなくて、人の人生を変えていくようなバンドになりたいんですよね。気持ちがネガティブになってしまう人たちに寄り添って、後押しするというよりは「変えてやる」ぐらいの意識で取り組んでいきたいので。BRADIOはそういうことをやっていけるバンドでありたいと、最近すごく思っています。


大山:これから年を重ねて、より深みが出てくる年になっていくんだろうなという期待がすごくありますね。今の時代がどうとかってよく言いますけど、昔から同じだったんじゃないかな? って思っていて。新しいものが出てきて、それがカルチャーになっていろんなものが派生していく、その繰り返しの中で、時代に合わせたものが出てくるだけのことのような気がするんですけど、その中で、誰かにとって大事な曲を作れたらいいなという気持ちがあります。今は情報力がすごくて、一つ一つの価値が軽く見える時もあって、便利だけどもったいないなと思うこともあるので。もっと質量のあるものを作れたらと思っています。


田邊:自分の音は自分にしか出せないんだということを、まずは確立していきたいです。尊敬するバンドやミュージシャンの方はたくさんいるんですけど、その人みたいになりたいと思うと、二番煎じになってしまうので、自分たちの進むべき道を見極めて進んで行きたいなと思っています。まずは目先のZeppツアーを成功させて、その先に見えるものもあるでしょうし、一歩一歩進んで行きたいと思っています。


真行寺:BRADIOはすごくこだわりがあるバンドで、でも頑固じゃないこだわりがあるのがすごくいいなと思っていて、パイオニアになれるんじゃないかという気持ちがありまして。先ほど出たウルフルズやSCOOBIE DOは、好きです。でも憧れてるだけなら、たぶん同じラインに行けないと思ってるんで。BRADIOにはそういう可能性があるなと最近すごく感じられて、それを信じていきたいです。


(取材・文=宮本英夫)


    ニュース設定