野暮用があって、恵比寿にあるcitrus編集部へと出向いたとき、真向かいにあるビルのエントランスで、なにかのロケをやっていた。
恵比寿や代官山がある渋谷区は、テレビや映画のロケがしょっちゅう行われている場所柄ゆえ、普段の私ならほぼ100%素通りしてしまうのだが、この日はその周辺に集まっている野次馬の数が尋常じゃなかったので、つい私も足を止め、人垣の最後列からつま先立ちで「なんのロケなの? 誰がいるの?」覗いてみた。
マッチ箱ほどの大きさでしか見えなかったが、水谷豊と反町隆史の二人を確認することができた。どうやら『相棒』のロケである。
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ビルの中から並んで歩いて来る二人と、反対方向、ビルの中へと歩いて行く一人の女性(誰だかは確認できなかった)が、挨拶も交わさず、ただすれ違うシーンで「ハイ、カット!」。
直後、反町が水谷や他のスタッフとしきりに握手していた。ワンカットごとにいちいち握手していたらさすがに手もしんどいし、時間のムダだし……おそらく、なにかの節目的なシーンだったんだろう。
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私のとなりにいた二人組の女性が「まともな芸能人見るの初めて〜!」「だよね〜」みたいな会話を交わしていた。私も、インタビューとかの仕事ではなく、たまたま通りかかったロケ現場でこのクラスの芸能人を見るのは初めてかもしれない。
「オーラ」というあやふやな言葉を使うのはあまり本意ではないけど、とにかく二人とも、ものすごいオーラを発していた。水谷に“ソレ”があるのは、まあ想定内ではあるが、反町にも同程度の“ソレ”があったのは、正直ちょっと意外であった。
背は思ったより高くなかった。でも、握手しているときのシーンがいい意味で慇懃で、「ああ、このヒトに握手されたらうれしいだろうな…」と感じさせるような貫禄があった。
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ちょうどこのタイミングで、デイリー新潮に
『反町隆史 「相棒」新シリーズ放映開始で聞こえる「現場では低姿勢」』というタイトルの記事が、ネット上に配信されていた。なかなかに長文の原稿なので、詳細は記事を読んでもらいたのだが、要は『相棒〜シーズン16〜』も引き続き、水谷の“相棒役”を務めることになった反町が、はたして「人気凋落を食い止めた功労者」なのか「テコ入れに失敗したミスキャスト」だったのか……を論じるような内容である。
記事によると、制作サイドは反町を「引き続き起用していきたい」と判断しているのだという。水谷との関係も良好であるらしく、
「反町さんは、自分の演技は素人だということを充分に理解している、撮影現場では徹底して低姿勢で、スタッフの指示には絶対に従う。『俺はスターだ』なんて天狗になっているところは微塵もありません。」
「偏差値の極めて高い大学を卒業し、難関の国家試験を突破した官僚なんて役が、反町さんに似合うはずがありません。でも見続けているうちに、自然と溶け込んでいく。『こんなキャリアもいるかもなあ』なんて思ってしまう。監督をはじめとするスタッフが入念に準備して撮影にあたり、反町さんもスタッフの努力に応えよう頑張っているからでしょう」
……などと現場の評価も高い。役者の世界でも「演技力」や「外見・風貌」といった“実力”以外の、「真面目さ」や「謙虚さ」や「空気の読み」という、一般社会では定番的な処世術が通用するってことだ。単純に、いい話ではないか。
ところが、そんな「いい話」に、デイリー新潮は最後の〆で水を差す。
「結局は大根役者。人気も去った。とはいえ、意外に世渡り上手らしい。スターの座を自ら降り、周囲との人間と協調していけば、仕事はある。それこそ官僚ではなく小役人という気がしないでもないけれど」
そこまで言わんでも……(笑)。小役人おおいにけっこう! 私も、なりふりかまわず死ぬまで現役でいるためにも、小役人のようなライターを目指したい。