ビートたけしに「漫才師になった理由」を聞いてはいけない

この１ヵ月あたり、ネット上を見渡すと、ビートたけし（70）監督による『アウトレイジ 最終章』をベタ褒めする記事がやたら目につく。

 

私は、いわゆる「たけし映画」の大ファンで、このアウトレイジシリーズも一作目、二作目（ビヨンド）ともに、もう10回以上繰り返して観てしまったほどの“ヘビーユーザー”だったりするのだけれど、正直なところ一番面白かったのは一作目……だと個人的には思っている。ビヨンドはちょっとトーンダウンな感じで、最終章は……映画館で一度観たかぎりでは一番つまらなかった。まあ、何度か観ればじわっと染みてくる可能性も充分あり得るが……？　やはり、椎名桔平・加瀬亮・三浦友和・小日向文世がいなくなった（＝死んでしまった）のが、ゴメス的にはそこはかとなくマイナスポイントがデカいのだ。

 

一本くらいは私と同様の感想を述べる原稿があっていいようなものだが、なのにどれもこれも絶賛の嵐。もはや、ビートたけしの映画や番組や著書や小説や発言は、大マスコミが公で反論すらできないレベルの“格”を得てしまったのではないか。そして、同時にそれはちょっと危険な傾向なのかもしれない。

 

そんななか、「ビートたけしも松本人志も面白いことを言うときもあれば、つまらないことを言うこともある」という信条を貫きとおしている私ではあるが、デイリー新潮が配信しているインタビュー記事『ビートたけしに「成功の秘訣」を聞いてはいけない理由』は、ゴメス的には相当に「面白いほう」の部類だったので、ここcitrusでもゼヒ紹介したい。まずは、私がもっとも感銘を受けたコメントの一部を抜粋してみよう。

 

たまに「どうしたら漫才師になれますか？」なんて聞かれることがある。

 

バカ言ってんじゃない。

 

漫才師になるためお金を払って学校に入る奴もいるけど、おいらの場合は、流れ着いたところがたまたま芸人だったというだけ。結果的に漫才師になっただけで、なろうと思ってなったわけじゃない。

 

大学の機械工学科でレーザーの研究をやろうと考えていた男が、なんで漫才師になったのか──それをまともに説明できる理由なんか、いくら考えてもないんだ。

 

挫折して挫折して、折れて折れて、辿り着いたのが浅草で、そこで偶然漫才師になった。

 

（中略）それは役者でも同じこと。（中略）「あなた雰囲気があるから、ちょっと役者でもやってみない」と言われて、あれよあれよという間に役者になった人と、役者になりたくてなりたくて、しがみつくようにして役者になった人の両方がいる。そこに就活のような必勝マニュアルなんてない。

 

まったくもってそのとおりだと思う。私が「成功している人」かどうかは置いといて、一応50歳を過ぎても“現役”として生き存えている者の一人として言わせてもらえば、私も別に文筆業を目指して文筆業者になったわけではない。

 

大学の経済学部に入学したころは、普通にサラリーマンを目指していた。大学を卒業するころにはイラストレーターを目指していた。で、就職先は画材屋である。画材屋でレジを打っていた。やがて、幸運にも画材屋で働きながらイラストレーターも掛け持ちできるようになり、ある日イラストを納品しに行った編集部のとなりにあった編集部に「人が足りないんで、原稿書いてみない？」と振られたのが「アダルトビデオ評論」である。一日に20本近くのAVを観ながら「勃起度A」とか「C」とかのジャッジを下し、主観混じりの紹介文を添える300ｗ程度のコラムが私のデビュー作品である。今でもイラストレーターの看板は降ろしていない（つもりだ）が、イラストと文筆の仕事比率は贔屓目に見積もっても１：９といったところ？　つまり、私が現在の職に就いたのは成り行き以外の何物でもないのである。

 

とくに、「基本、誰でも書ける」といった性質の“文章”を取り扱う“文筆”という職業で食っている人たちは、「成り行きでなってしまった人」のほうが長持ちしているような気がする。「文筆業者」ときてパッと頭に思い浮かぶ「小説家」やら「コラムニスト」やら「エッセイスト」やら「ルポライター」やら……の“理想像”への固執がなく、目の前に湧いてきた仕事に柔軟な姿勢で対応できるからだ。

 

よく、文筆業者を目指して、ライターを養成する講座とかを受ける人がいるが、そこで「誰にでも書ける文章」を学んでも意味はない。“学校”は決して“ゴール”ではなく、あくまで“スタート地点”であり、そこでどう目立ち、どんな出会いがあるかこそが最重要事項となるのではなかろうか。