いよいよ最終回を迎えるドラマ『ブラックリベンジ』(読売テレビ・日本テレビ系)。週刊誌のねつ造記事に人生を狂わされた女性、今宮沙織(木村多江)が、自分を追い込んだ人たちに復讐を仕掛けるストーリーです。citrusでは最終回放送にあたり、ドラマのメインテーマ「女の復讐」にまつわる解説記事を掲載。最終回を深く、そして“ゲスく”味わうためのヒントをcitrusオーサーが提供します。
〜『ブラックリベンジ』最終回連動企画〜
女の復讐劇 その“エグすぎる”内情
<あらすじ>今宮沙織は5年前、週刊誌『週刊星流』が放った夫・圭吾(高橋光臣)にまつわるねつ造スキャンダルで、圭吾をお腹の子供もろとも失ってしまう。それから5年、圭吾が死の直前に残した肉声を聞いた沙織は、ねつ造の関係者に対する復讐を決意。『星流』の編集部に契約ライターとしてもぐり込み、関係者を一人一人スキャンダルで失脚させていく。信頼する人の裏切りで、時に失意の底に叩き落とされながらも、沙織は憎しみをバネに立ち上がる。その復讐劇は、実妹・綾子(中村映里子)をも巻き込みながら泥沼化。最終回では、沙織も驚愕する復讐劇の“裏”が明らかに……?
|
|
今回ご登場いただくcitrusオーサーは、コミュニケーション研究家の藤田尚弓さん。ドラマのテーマにあわせ、女性を復讐に駆り立てる心理を藤田さんが解説します。
***
■怒りを感じた人の90%以上がとりたくなる行動
|
|
(C)ytv
皆さんは、誰かに復讐したいと思ったことがあるでしょうか。研究によると、怒りは約8割の人が、週1回以上経験する身近な感情。そして、怒りを感じた人の92%が何らかの攻撃行動をとりたくなるそうです。(※1 大渕・小倉,1984)
女の復讐劇で注目を集める『ブラックリベンジ』では主人公が、夫を死に追いやった関係者に次々と復讐します。これは、復讐される側にも思い当たる理由のあるケース。しかし「酷い」「辛い」「許せない」といった感情は主観的で、世の中にはなぜ自分が恨まれるのか見当のつかないケースもあります。ブラックリベンジの最終回では、「まさか!」と叫びたくなるような衝撃の復讐理由が明らかになります。
|
|
ちょっとした判断ミスや誤解で人を傷つけてしまうことは誰しもあります。それで不当な扱いをされた、と感じた人が、長い間怒りの感情を持ち続けたとき……。あなたも、ひょんなことから復讐のターゲットにされるかもしれません。
■「あの時もあなたは〇〇だった」の理不尽フレーズを解剖
(C)ytv
研究によると、男性は女性よりも怒りの対象に対し、報復にまつわる考えを持ちやすいようです(※2 八田,2014)。これを見る限り、男性の方が攻撃的なように思えます。ただ筆者は、本当に恐ろしいのは女の復讐ではないかと考えています。
女性が口論のときによく使ってしまうフレーズに「あの時もあなたは○○だった」があります。加えて、「それはそうだけど」というフレーズも多用されます。別件で揉めている時、過去の話を持ち出すのは論理的ではありません。ここで昔の話を蒸し返すのは理にかなっていない…。女性の方も薄々わかっているはずなのに、なぜそうしてしまうのでしょうか。
研究によると、悲しい気分や抑うつを感じたとき、女性は男性より怒りを思い出しやすい傾向にあります(※3 Nolen-Hoksema&Jakson,2001)。『ブラックリベンジ』でも、悲しみを背景にして過去の怒りに触れるセリフが随所に見られます。このような“怒りの反芻”は、報復に繋がりやすい。具体例として、夫に浮気された妻の場合を見てみましょう。
■妻がよくやる“怒りの反芻”って…?
(C)ytv
夫の浮気で妻は、信じていた人に裏切られる悲しさに包まれます。それだけならまだいいのですが、妻としての権利を侵されたような気持ち、「私はこんなに頑張っているのに」という不公平感を持つ場合もあります。これらは報復に繋がりやすい危険な因子です。
私たちは誰しも社会的バランスの根源的な感覚を持っています。ですので、自分が直接被害を受けていないケース、たとえば「凶悪犯罪をニュースで見た」というケースでも「凶悪な犯罪をおかした人は、極刑になるべき」といった制裁、報復の感情が喚起されます。自分が当事者になった場合は、言わずもがなです。
愛し合い助け合う関係であるはずの妻を裏切るケースも、言ってみれば社会規範に反した行為。夫への報復行為に正当性を与える要因、強い攻撃への動機づけが生まれる要素が揃っていると言えるでしょう。
最愛の相手に裏切られる辛さはそう簡単に払しょくできません。悲しい気分や抑うつ状態は長い間続きますので、怒り体験を反芻しやすくなる状況も長くなります。男性は「もう済んだこと」と思っても、女性は浮気されたことを何度も思い出す中で、憎しみの気持ちを強めがちなのです。
当然ですが、妻から夫への憎しみの原因は浮気だけに限りません。約束を破られる、自分勝手に振る舞われる、無配慮な言葉を投げかけられるなど、女性が怒りと悲しみを感じる行動は要注意。子供のこと、経済的なことを考えて表面上は許していても、心の底では許せずに何度も怒りを反芻する。これは妻の「よくあるパターン」なのです。
■「一刻も早く夫に死んでほしい」妻たち
(C)ytv
最近話題の「だんなデスノート」というサイトを覗いてみました。そこには「一刻も早く夫に死んでほしい」といった女性たちの心の声が綴られています。怨みを持つようになった理由としては、どんなケースが多いのか。グル―プ分けを試みているうちに気持ち悪くなるほど生々しい内容でした。
これほどの恨みを抱える女性は少数派だと思いたいところですが、このサイトの書籍版『だんなデス・ノート 〜夫の『死』を願う妻たちの叫び〜』(宝島社、2017年)は発売直後に、Amazonの本カテゴリにある「家庭生活」部門、そして楽天でも売上ランキング1位を記録しています。もちろんガス抜きの機能もあるでしょうし、好奇心で購入した人も多いと思いますが、夫に毒づくフレーズに共感してしまう女性もいるのは否めないかと。
うちは大丈夫だから…
あなたはそう思っているでしょうか。しかし気づいていないフリをする行為や表面上は取り繕う行為は、多くの妻がやっています。経済力、体力のあるうちは“俺様流”で押し通せても、定年を迎えて病気になったときは危ないかも。コップに少しずつ溜まった水がある日突然あふれ出すように、長年溜まった妻の恨みが復讐心に変わることは珍しくありません。
初代内閣安全保障室長を務め、危機管理のプロとして活躍した某氏も、身体が悪くなり介護が必要になった晩年は奥様に見放され、別居。奥様は数年前、積もり積もった怨みを女性誌でこう吐露しました。
今までも彼の“ビョーキ”や“ご趣味”はさんざん我慢してきたけれど、また裏切られた。仕事でも介護でも、私はこんなに頑張ってるのに、なぜ……と、ひどくがっくりきてしまったのです
危機管理のプロも家庭内リスクについては、予測も対処もお粗末だったようです。
■歯ブラシでトイレ掃除、料理に塩大量振りかけ……
(C)ytv
怒りから「文句を言う」など言葉による手法で相手を攻撃した人は約半数、物理的攻撃をする人は10%以下(※4 Averil,1982 ;大渕・小倉,1984)。犯罪史を紐解くと、復讐に分類できる事件もありますが、よくある復讐の手法は言葉による罵倒が多そうです。
男性より女性に多い復讐の手法としては、食べものに塩や化学調味料を大量に振りかける、旦那の歯ブラシでトイレを掃除するといった、不在時にこっそりできるものが挙げられると思います。こういった行為はガス抜き効果もある反面、エスカレートすると怖い。
女性は男性よりも怒りの表出を抑制しやすい傾向があります(※5 井上,2000)。怒っていないように見えても、実は……というケースもよくあること。男性の皆さん、身を守るためにも奥さんには優しい言葉をかけ続けてください! 妻を怒らせている自覚のない人は、『ブラックリベンジ』を見て、女の復讐の怖さを味わってみては? 明日から女性に対する態度が変わるかも知れません。
***
参考文献
※1 大渕憲一・小倉左知男(1984). 怒りの経験 (1)-Averillの質問紙による成人と大学生の調査概況-犯罪心理学研究, 22, 15-35.
※2 八田武俊・八田純子.(2014). 若年者における怒り反すう特性と睡眠との関連. 日本社会心理学会第55回大会.
※3 Nolen-Hoeksema, S. & Jackson, B.(2001). Mediators of the gender difference in rumination. Psychology of Women Quarterly, 25, 37-47.
※4 Averil, J. R. 1982. Anger and aggression. New York: Springer.
※5 井上弥.(2000). 感情表出抑制に及ぼす人・場所状況と他者意識の効果. 感情 心理学研究, 7(1), 25-31.
木曜ドラマ
『ブラックリベンジ』最終回
2017年12月7日(木)深夜0:09〜
<出演>
木村多江
佐藤二朗
平山浩行
堀井新太
鈴木砂羽 ほか
<スタッフ>
脚本:佐藤友治
音楽:大間々昴
チーフプロデューサー:柿本幸一 田中壽一
プロデューサー:福田浩之 尾上貴洋
演出:大谷太郎 ほか
製作著作:読売テレビ
HP:http://www.ytv.co.jp/blackrevenge/