「単純なホームドラマにするつもりはない」──水田伸生監督が明かした『anone』の裏側

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2018年02月28日 16:00  citrus

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ドラマ『anone』(日本テレビ系、毎週水曜22:00〜)も終盤に突入。亜乃音(田中裕子)、持本(阿部サダヲ)、るい子(小林聡美)との共同生活に、家族にも似たやすらぎを感じる主人公・ハリカ(広瀬すず)。その一方、ニセ札作りを持ちかける中世古(瑛太)の存在がハリカたちの日々に影を落とすようになる。演出を手掛ける水田伸生監督は脚本家・坂元裕二の生み出す「優しさの中にも厳しさを散りばめたストーリー」を美しい映像で見せ、キャスト陣の演技を引き出している。今回、水田監督に本作への向き合い方を語ってもらった。

 

〜ドラマ『anone』連動企画〜

水田伸生監督 スペシャルインタビュー

 

■坂元裕二が描いた“ニセモノがはびこる世の中”

 


(C)NTV

──坂元さんとのタッグは『Mother』(2010年)、『Woman』(13年)に続き3度目です。坂元さんの書くものに変化はありますか?

 

水田:坂元さんの変化についていくのが大変ですよ(笑)。坂元さんって、自分の中に衝動があって、それをもとに物語を紡いでいるのだと思います。『Mother』なら、我が子を虐待する親への憤り。『Woman』なら、シングルマザーを生きづらさと貧困で苦しめるいまの社会への問題意識。さらに他局でもいろいろな作品を書いて、寓話性と世の中に対する疑問がより強まっている中、今回、知らず知らず世間を侵食している“ニセモノ”が、坂元さんのアンテナに引っかかっていることを強く感じます。

 

──世間には、いろんな偽りがあふれている、と?

 

水田:それをみんなが受け入れている。そもそもニセモノって何? ホンモノって何? って話ですけど。きっとホンモノが揺らぎ、希薄になっているから、ニセモノがはびこるんでしょうね。

 

──脚本は坂元さんからの問いかけでもあると思います。その重さを受け止めるのは、大変ではありませんか?

 

水田:しんどいですよ(笑)。あれだけの才能を持った脚本家と向き合うのは。彼の考えることが難解、という意味ではなく、作品から伝わる思いの強さ、“本気度”がとても重圧だからです。僕らがすべきは、『anone』で何かを訴えることではありません。坂元さんが1年以上かけて資料をあたり、取材し、組み立てた脚本に彼のいまの“ホンモノ”があると思うので、それを具現化することに注力するのみです。

 

 

■ドラマのスタッフは「マゾヒスティック」

 

──広瀬さんを始め、キャストの皆さんの現場の様子を教えてください。

 

水田:すずちゃんは(出演者の中で)最年少にも関わらず主演だけど、変な気負いはないですね。裕子さん、阿部さん、小林さん、瑛太さんに委ねるところは委ねています。とてつもない可能性の持ち主だし、現場で「いまの演技は違うな」というのが一度もない。脚本をしっかり読解しているし、共演者の皆さんとハーモニーを奏でるための準備もしっかりしています。お芝居って、自分のためにするものではないんです。共演者の感情、視聴者の皆さんの感情を揺さぶるものなんです。それが19歳でできるってすごいですよ。

 

──広瀬さんを支えている皆さんは?

 

水田:坂元さんの脚本をエンジョイしていますね。セリフの一言一句に込められている思いの強さを体に入れて、現場に臨まれています。

 

──ところで、物語は回を増すごとにスリリングになっています。一方、映像はどこかファンタジックでもあります。映像へのこだわりを聞かせてください。

 

水田:ドラマであれ、バラエティであれ、報道であれ、スポーツであれ、テレビという“箱”に、さまざまなテイストの番組がある。僕は、それが望ましいと思っています。10年ほど前になりますが、「テレビはこうでなくてはいけない」という意識が作り手側に植え付けられているような気がしたんです。テレビ的であることに抗っていない。じゃあ、ドラマを撮るカメラと箱根駅伝を撮るカメラが同じでいいのか、と。そんな思いから、試行錯誤を始めました。

 

──どのような取り組みを?

 

水田:最初に断っておきますが、どのドラマも『anone』のような映像にする必要はありません。ときには、スマートフォンで撮った映像の方がリアルに感じられる作品もあるでしょう。作品の世界観を表現する際、テレビ局の機材以外で撮影する方が望ましい場合もあります。しかし、作品ごとに合うカメラを開発する余裕は民放にない。そこで、映画館での上映に耐えうる映像でテレビドラマを作ればどうなるのか、と思ったんです。
『Mother』は、そんなことを考えていた頃に撮りました。『Mother』は映画的にしたかったわけではありません。「テレビドラマですが、こういう映像もあります」と視聴者の皆さんに提示したかった。2010年当時はまだアナログ放送だったので、本当に“チャレンジ”でした。デジタル放送に切り替わってから急に始めても追いつかないと思いました。

 

──坂元さんの書くものには、それだけのトライをしたいと思わせる力があった、ということでもありますね。

 

水田:坂元さんの脚本にはいつもワクワクさせられます。「こんな絵、どう撮ればいいんだ!?」という脚本を提示されたときこそ、我々現場のスタッフは燃えるんです。ハードルが高ければ高いほど、よろこびしかない。そういう意味で、ドラマのスタッフはマゾヒスティックだと思います(笑)。

 

 

■広瀬すずでこんな映画を撮りたい

 


(C)NTV

──坂元さんの書かれた世界をより“ホンモノ”に近づけるため、水田監督からキャストの皆さんにどんなリクエストをするのですか?

 

水田:あれだけ素晴らしいキャストが揃っていますから、大したこと言わなくても大丈夫です。どこか少し強調したいところがあったとして、そこを明確にしてもらいたとき、“心拍数”の話をするぐらいです。人間って、脳がいろいろ指令を出しているけれど、案外肉体に支配されているものです。興奮したり、怒ったり、楽しくても心拍数が上がりますよね。反対に沈痛な思いを抱いたり、体調が悪かったりすると心拍数は下がります。こんなことを「このシーンの心拍数は……」と話すだけで、僕らが望んでいる演技を軽々とやってくれます。

 

──ドラマは今後も目が離せない展開です。水田監督から改めて、視聴者の皆さんにメッセージをお願いします。

 

水田:この作品を、血が繋がっているから家族、血が繋がっていないから他人、という単純な“ホームドラマ”に落とし込むつもりはありません。人の感情を揺さぶるものがホンモノなら、劇中すべての出来事、すべての言葉を最後までよりホンモノに近づけたい。ドラマを熱心に見てくださっている方の中には、坂元さんのセリフに注目している方もいるでしょう。同じように、あのセリフを軽々と自分のものにして語りかけるキャスト陣の演技も堪能していただきたいです。
さらにすずちゃんはクランクイン当初より、間違いなく成長しています。コメディ演技は阿部さんから、観客に媚びないトーンは小林さんから、全身全霊を現場に捧げる姿勢は裕子さんから、ときに盗み、ときに学び、表現者としてふくよかになっています。そんな広瀬すずの姿をしっかりご覧ください。

 

──ドラマの今後も広瀬さんの今後も、とても楽しみです。水田監督と広瀬さんのコンビで『anone』の次に何を見せてくれるのか、期待している視聴者も多いと思います。

 

水田:たとえば映画。すずちゃんはこれまで、大きなスクリーンの中で“等身大の役柄”をいくつも演じてきました。でも、そういう役柄じゃない彼女も良い。海外に、電話ボックスを舞台にした『フォーン・ブース』(2002年)というサスペンス映画があります。主人公がどんどん追い込まれていく作品で、よくできている。すずちゃんにはああいうタッチの世界観が合うような気がして、何とか実現できないものか、とマジメに考えています。すずちゃんが徹底的に追い詰められて……。そこでどんな演技をするのか、どんな表情を見せてくれるのか。そう考えるだけで観てみたいでしょ?(笑)

 

日テレ水曜ドラマ

『anone』(あのね)

毎週水曜22:00〜
脚本:坂元裕二
音楽:三宅一徳
チーフプロデューサー:西憲彦
プロデューサー:次屋尚
演出:水田伸生
出演:広瀬すず、小林聡美、阿部サダヲ、瑛太、火野正平、田中裕子ほか
製作著作:日本テレビ

HP:https://www.ntv.co.jp/anone/

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