姫乃たまが縷縷夢兎 東佳苗に聞く、アイドル衣装制作にかける思いと“女の子”たちの魅力

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2018年04月21日 14:21  リアルサウンド

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 ハンドニットブランドの縷縷夢兎(るるむう)が編み出す衣装は、そのブランド名の複雑な漢字のように、糸と糸が複雑に編み込まれて可愛らしく完成されています。一見少女趣味な衣装は、近づいてみるとしかし、女の子が持つ裏表の感情のように絡み合っているのです。東佳苗さんとも親交のあるラッパーのGOMESSさんは、「縷縷夢兎のピンクは黒にも勝るピンク」であると表現しました。


 「音楽のプロフェッショナルに聞く」第9回目は、縷縷夢兎のデザイナーとして、舞台に立つ女性たちの衣装制作を数多く手がける東佳苗さんをお迎えします。ファッション、映画、音楽、アイドル……様々なジャンルを縦断しながら、常に唯一無二の表現を追っている東さんの歴史に迫りました。自分の仕事を探したい人、特別になりたい/なれない人たちに送るインタビューです。(姫乃たま)


(関連:姫乃たまが「飲み屋 えるえふる」で聞く、新代田に根づく音楽と食のコミュニティ


●アイドルと衣装
ーーアイドルの衣装って、下手したら数カ月しか着られないわけで、ものすごく刹那的ですよね。


東佳苗(以下、東):大森靖子ちゃんとかは何年も前に作ったものをフェスでまた着てくれたりするんですけど、作品のイメージに合わせて作ったアイドルの衣装は、基本的にその時期しか着られないんですよね。それでも、すごい凝って作ります。


ーー縷縷夢兎の衣装に女の子が持つ一瞬の輝きと闇が表れているのは、短い期間だとわかっていても、東さん自身がその一瞬に力を尽くしているからなんですね。


東:衣装は一着ずつそこまでやらなくていいだろうってくらい凝ってます。オサレカンパニーってAKBグループの衣装をつくっている会社があるんですけど、48人分とか作るのに、一着ずつすごい凝ってて、可愛いんですよ。こっちは数人分しかつくっていないわけだから、大手の衣装会社にも負けないように、丁寧に作るよう心がけてます。


ーー販売しているニットの商品もハンドメイドで一点物なところも儚い感じがします。


東:一点物の商品は特別感はあるけれど、ひとりずつにしか届けられないことに歯痒さもありました。一点物を不特定多数の人に届けるには普通に販売するのではなく、衣装製作の方が私には合っているんじゃないかと思い、アーティストやアイドルの衣装デザイナーを始めました。ただ、たまに虚しいのが“衣装”はその本人が着て完成するものであって、服自体には興味がなかったり、もはや服はなんでもいいってファンも一定数いるんですよね。私にとって衣装製作は単にコンセプトに合わせて着飾ってもらう為のものでなく、多角的に想いを込めて作っているので、そういう、ファッションに興味が無いファンの人の意識も、徐々に変えていけたらな、とは思っています。


●不器用で孤独な子が好き
ーー縷縷夢兎の衣装はただ可愛いというより、女の子の魅力と不器用さを補強する力があって、手を伸ばして触れてはいけないような強い印象を受けます。東さんの中にある、あの作風の原点はなんでしょう。


東:『カードキャプターさくら』だと思うんですよ。私が小4の時に、(主人公の)さくらちゃんも小4だったので影響を受けて。さくらちゃんって昨今のアニメのようなあざとい要素がなく、等身大でピュアなんですよね。衣装も異様に可愛くて。絶対的に守られている神秘的な存在で好きでしたね。


 あとは、映画の影響も大きいです。例えば、『ヴァージン・スーサイズ』『エコール』『小さな悪の華』などの小・中・高生くらいの女の子が、閉塞感のある環境下で禁忌を犯す感覚と私の表現したいコンセプトは結構近くて、縷縷夢兎の根源はそこにあります。


ーー女の子自身が持っている裏表の部分にも興味を惹かれますよね。


東:そうですね。撮影をする時は、誰をモデルするか、どこをロケ地にするのか決めてから服を作ることも多いです。そんな方針のデザイナーさんは多くはないと思うのですが、私的にはそれが性に合っていて、縷縷夢兎のモデルさんのことは“muse(ミューズ)”と呼んでいます。今までは、服だけが作りたいより、museも込みの“作品”を作ることが優先になっていることが多かったですね。


ーーどんな女の子が好きですか?


東:うーん、不器用そうな子ですかね……生きづらそうな、だからといって、かまってちゃんではなく、絶対に誰にも侵せない領域を持っているミステリアスな子、目の強い子が好き。私は少女趣味なので、大人でも少女感のある人に惹かれます。触れてはいけない神秘的な部分が、当初コンセプトとしてありました。


ーーたしかに、縷縷夢兎のモデルになっている女の子たちは極端に強い部分を持ちながら、どこか不器用そうですね。


東:可愛く生まれたことが、そのミステリアスさを引き立てていて、掘り下げたくなります。『カードキャプターさくら』の登場人物に“大道寺知世”っていうさくらちゃんの衣装を作って終始ビデオを撮っている親友の子がいるんですけど、私も完全に同じことをやっているんですよね(笑)。愛を捧げる気持ちで、服を作ったり、写真や映像に収めたりしています。


●唯一無二じゃないと意味がない
ーー東さんはもともと絵や音楽もされてたんですよね。


東:小学生の頃は漫画家になりたくて、中高生の時はシンガーソングライターになりたかった。自分の中の喜怒哀楽全ての感情を表現に集約して、歌にして伝えるのが歌手だと思ってたので、ただ歌うんじゃなくて、私にとってはシンガーソングライターじゃないと意味がなかったんです。自分にとっての歌手の理想の形があった。でも私の実力が全然それに達してないと悟ったので、スッキリ諦めました。


ーー当時はどんな曲をつくってたんですか?


東:その時期は完全に鬱々としていたので椎名林檎さんに影響されてて、あとは安藤裕子さんやcharaさんが好きだったので、どっちかっていうと女の情念系です(笑)。


 その傾向が、今の大森靖子ちゃんとのお仕事にも繋がっていると思います。自分の感情を形にしてお金に換える仕事、がずっと人生の目標にあって、それが絵や歌から表現方法を変えながらいまに至ってるという感じです。


ーーそれが途中から服をつくることになっていったんですね。


東:やっぱりよく考えたら一番服が好きだなってことに立ち返って、高校生の頃に独学で始めました。工程とかも学んでいなかったので、見よう見まねです。最初は本当にぐちゃぐちゃで。でもそれよりも、とにかく服にすることだけを目標にしていたので、初期衝動で繰り返し作ってました。テーマだけはやたらと凝ってて。


ーー最初はどんなものを作っていたんですか?


東:学生時代は当時の趣味もあってアンティークの生地を組み合わせて服を作ったり、ぬいぐるみを解体してカバンを作ったり、コラージュっぽい感覚で作っていました。でもある時、委託していた私の服と他のハンドメイドブランドを見比べて、お客さんに「差異がわからない」と言われたことがあって。世の中にまだ無いものを作りたくて作っていたのに、他の人でも思いつく物を作っているってことだと気付いてから、一旦縷縷夢兎を止めました。


ーーそれでアンティーク調から方向転換していったんですね。


東:当時「ネオコス」っていう、“ファッション×二次元”ブームが来て、みんな“アニヲタ”化しきて、コスプレっぽいアイテムを取り入れたスタイルをヲタクじゃなくファッションキッズ達がし始めたのが斬新で、その頃私も感化されていきました。


 今のバンドじゃないもん!の恋汐りんごちゃんと学生時代に出会って、「ウサギノリンゴ」っていう、二次元の三次元化をコンセプトにしたブランドを始めたんです。刺繍でキラキラのアニメっぽい目をブローチにして売ったりコスプレっぽいアイテムをファッションに落とし込んだものを作っていました。


 その後、今に至るまでそういうファッションは新しくなくなってしまったし、唯一無二を目指して始めたので、流行っちゃったら終わりかなって気がしてきて。しかも汐りんは絶対にアイドルになるべき人だったので、「今は部屋にこもって服を作るより、アイドルになって外の世界に出た方がいいよ」って言って、当時彼女はソロアイドルになって、私は一人でニットで服を作りはじめたんです。


ーーますます東さんの知世ちゃんっぽさが強まるエピソードですね!


東:(笑)。私はその都度、みんながやっていないことをやらなきゃっていう気持ちが強かったです。縷縷夢兎がニットブランドなのも、当時はニットでガーリーな世界観や二次元っぽい要素を取り入れるブランドがなかったからで。私が通っていた文化服装学院の先生にも、「あなたみたいな系統のニットブランドはないから頑張りなさい」と言われたしかにそうだなと思って、卒業してすぐ、でんぱ組.incの衣装を担当したんです。ニットのセーラーで、襟を色分けして美少女戦士みたいにして。彼女たちはファッション業界の中でmuseだったので、どうしても一緒に仕事したかった。


●主人公になりたい女の子たち
ーー縷縷夢兎の独創性には、東さんが好きなファッション以外の、映画や音楽の要素も含まれていると思うのですが、特に映画の影響が大きいんでしょうか。


東:私は邦画にずっとフラストレーションがあって。ファッションやデザインなどのビジュアルに携わる仕事にしてる人にとって映画の服や美術、メイク、インテリア、構図もインスピレーションソースになり得るので、そういう視点で映画を観ることも多いのですが、邦画にはファンタジーよりリアルを重視する映画が多いのもあり、私達が観たい華やかなファッションは邦画にはなかなか登場しない。例えば『下妻物語』『さくらん』『ヘルタースケルター』『Dolls』くらいで数えるくらいしかない。


 私が好きな邦画に『ユモレスク-逆さまの蝶-』というのがあって。当時流行ってたブランドをたくさん使っていて、ロケ地も古道具屋の倉庫を使った日本っぽくない映画で、高校生の頃に観て衝撃を受けました。この映画自体は『ひなぎく』のオマージュだと言われてるんですけど、私も過去の作品で『ひなぎく』をオマージュしています。


ーーそのほかの東さんの作品も、映画から影響を受けているんですか。


東:縷縷夢兎の写真集『muse』(現在vol.03まで刊行)では全体的に映画をオマージュしてます。ヤン・シュヴァンクマイエルの『アリス』とか、『ヴィオレッタ』という監督の実話を元にした映画をテーマに撮影したりしました。


ーー時々、海外作品の日本版ポスターが大衆向けにされ過ぎていることがあるじゃないですか。東さんはオリジナリティを追求されている方なので、堪え難いかと思うのですが。


東:日本って大衆というか、基本的に広い層に合わせるじゃないですか。映画も売れるものじゃないと認められないことが多いから、原作もので、人気者のタレントが出る。世の中がみんな楽しんでいるから、私も楽しもうっていう考えもあると思うんですけど、そういうところを疑う心も持っていないと怖いなって思ってます。邦画を見ない人も沢山いると思うんですけど、日本に生まれたのに邦画を見ないって寂しいなって気持ちもあって。ファッションや美術が一番重視される映画があっても良いんじゃないかなと思って、私が映画を作る時はまずそこから考案することにしています。


ーーポスターなどのデザインによって映画の内容がよくわからなくなっちゃうのもそうですけど、単純に、作品を必要としてる人に、きちんと作品を届けたいですよね。


東:いまは『21世紀の女の子』という、山戸結希監督プロデュースの、80年後半〜90年代に生まれた女性監督が其々8分程の短編を撮って繋げて一本の映画にする、という企画に取り組んでいます。私が監督として呼ばれたのも、映画の人としてはまだ未熟ですが、山戸結希さんに買って頂いている以上、本気で応えたいと思っています。映画を専門にしている人にとっては当たり前のことでもすごい時間がかかってしまったり、いまは最初に服を作り始めた時と同じ感じです。


ーーはー、なんと言うか、縷縷夢兎が女の子たちに支持される理由がわかった気がします。舞台に立つ人を支えるのって、できる限りの最高の道具を与えて、行ってらっしゃい! って見送る仕事ですけど、東さんは女の子が表に出る間も一緒に戦ってくれる感じがありますね。


東:スタイリストとして呼ばれる時も、マネージャーっぽいことまでお節介焼いちゃったりします(笑)。ビジネスとしての関わり以上に何か出来ることはないか、っていう気持ちが上回ることが多くて、ビジネスより、信頼関係を大事にしようって思っていたんです。一人でやっているなら(いつか辞めるなら)それでもいいかもしれないけど、今後の人生を考えた時にそれじゃダメだなってようやくこの歳で気がついて。


ーーもちろん下積みとして一生懸命やってきたことも無駄ではないと思うんですけど、ハンドニットって制作にすごく時間がかかるので、それだけだと続けられないですよね……。アシスタントさんとは、どうやって働かれてるんですか?


東:衣装や映画や、毎日やる仕事が違うので、アシスタントも常についてるわけではなくて、その都度ピンポイントで頼んでる感じです。それぞれ活動の幅を広げて、スタイリストやアートディレクター、デザイナーになった子もいます。


ーー東さんの後ろ姿を見てたら、それぞれ自分のやりたいことを追いかけられるようになりそうですね。東さん自身の活動も多岐に渡っていますけど、今後はどうされていくんですか?


東:衣装デザインの仕事はやっていくんですけど、アシスタントにも衣装デザインをやりたい子が沢山いるので、任せられるようになったらいいなっていうのと、今までは量産したことがなかったので、ハンドの部分は残しながら、工場に出して販売もできたらと思っています。学校を卒業してから、衣装のことをずっとやってきたので、ファッションに立ち返るって意味でも、徐々に量産していかないとなって。大人になったんだと思います(笑)。


ーーきっと量産しても均一化されないような、オリジナルのものを作られると思います。大変そうですが、大きな変化で格好いいですね。


東:ずっとアイドルや歌手、モデル、女優、と芸能の世界と衣装を作って関わってきたのですが、それだけではなくてちゃんと一般層に向けても服を作って売ることに徐々にシフトしていけたらなと考えています。


ーーそれは長くこの仕事を続けようっていう気持ちの表れでもありますよね。


東:そうですね。ずっと衣装を作っていたので、お客さんに対して縷縷夢兎の服を届けることができなかったから、カジュアルラインとして『no muse by rurumu:』を始めました。モデルの女の子たちをmuseと呼んで服を着せてきたので、「今世では縷縷夢兎着れないけど、生まれ変わったら来世では着たい」とか「整形して可愛くなったら縷縷夢兎着る」という声があって。


ーーにゃはは、重たいなー。でも、なんかいいですね。すごく女の子らしい感情だし、それがますます彼女たちと東さんの服を強くしている気がします。


東:お客さんの中には、縷縷夢兎が個展やっても自分なんかが行けないとか、そういう声も耳にします(笑)。『no muse by rurumu:』では逆に、限られた主人公ではない存在を肯定していくことがコンセプトです。


ーーおっ、また真逆の考え方ですね。


東:表舞台に立つ人の入れ替わりの早さ、刹那が苦しくなる時もあるので……SNSで誰でも一部のカリスマになれる世界で、絶対的スターは今は消え失せて、一時的に主人公になったとしてもずっと続くわけではなく、あっという間に仕事がなくなったりする。


 外から見たら“可愛い女の子”かもしれないけど、たとえ可愛くて才能があっても生きていけないことを目の当たりにしてきたので、表舞台に立つ、主人公になろうとすること自体がリスクになることもあるなと思ったんです。だからこそ、その刹那が輝いて美しいのだとも言えるんですけどね。


ーーこれまで舞台に立つmuseたちに強さを与えてきたことが、縷縷夢兎の衣装が持つ女の子を補強する力にも繋がっていて、すでに揺るぎないものになっていると思います。東さんの服が悩める女の子たちにも広がっていきますように。


(姫乃たま)


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