小田和正、70歳にして発揮する“トップランナー”としての存在感 最新作チャート好調の理由を分析

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2018年05月20日 12:02  リアルサウンド

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 小田和正の新作『この道を / 会いに行く / 坂道を上って / 小さな風景』が絶好調だ。5月2日にリリースされたこの4曲入りのシングルは、5月14日付オリコン週間シングルランキングで初登場4位。2週目の5月21日付でも5位をキープしている。初動だけで売り切って、あとはガクンと順位を下げる若手アーティストとは違う、ベテランの貫禄を感じさせる。


 ベテランといっても、小田和正は1947年生まれなので、現在70歳。この年齢でのオリコンチャートのトップ5入りは最年長記録であり、2週連続トップ5も70代では初の快挙。また、フィジカルのCDだけでなく配信においてもレコチョクのアルバムランキングでは週間1位で最年長記録を樹立している。しかも、現在行われているアリーナツアーでは、総動員数を40万人以上が見込まれており、こちらも70代のアーティストとしては前代未聞。これまでも、リリースやツアーを行うたびに様々な記録を作り上げてきたが、その勢いはとどまることを知らない。


 では、なぜいまだに彼の音楽は支持されるのだろうか。それはこの新作を聴けばわかる。『この道を / 会いに行く / 坂道を上って / 小さな風景』は、タイトルに列記されている4曲が収められている。そして、いずれも小田和正の王道であり、彼の個性が最大限に生かされた楽曲なのだ。「この道を」は、ピアノ弾き語りをベースにしたバラード、「会いに行く」は多重コーラスが印象的なミディアムチューン、「坂道を上って」はエレキギターのサウンドを効果的に使ったドラマティックな一曲、最後の「小さな風景」はどこかノスタルジックで優しいスローナンバーだ。それぞれサウンドとしてはバラエティに富んでいるが、一貫して小田和正の色に染め上げられている。逆に言えば、これだけの振り幅を持つ音楽性を、地道に自身の個性として培ってきたことがよくわかる。


 また、歌詞の魅力に関しても、今回は鉄板と言ってもいい出来栄えとなっている。「この道を」だけ見ても、それは非常に顕著だ。ここに描かれているのは、不器用ながらも懸命に人生を生きていく人。不安や迷いを抱え、争いや悲しみに巻き込まれたとしても、未来を信じて歩き続けていく。こう書くと少し堅苦しいイメージになりかねないが、小田の歌詞には風や空などが度々登場し、シリアスであっても最終的には清涼感のあるポップスとして完結させる。このテクニックは、まさに年齢を重ねたベテランにしかなしえない技だ。そして、時代に左右されないわかりやすく普遍的な言葉を選んでいるため、いつになっても古びない。「流行歌は時代を写す鏡」というが、彼の楽曲には時代感が一切ないため、逆にスタンダードとなっていくのだろう。


 ただ、こういったクリエイティブ面だけで、第一線を走り続けるのは難しい。より多くの人に聴かれてこそポップソングである。そういった意味において、小田のセールス戦略は見事だ。今作でも、4曲それぞれにドラマ、テレビ番組、映画といったタイアップが付いている。以前もアルバム『小田日和』(2014年)が、新曲以外はすべてタイアップ曲という話題で盛り上がったが、コアファンだけを取り込むのではなく、世代を超えたリスナーを獲得すべく、積極的にタイアップ施策を行っているのだ。


 これらのことからも、今作『この道を / 会いに行く / 坂道を上って / 小さな風景』は、小田の個性や特性を凝縮した内容であり、それが成功しているということは、彼のポテンシャルがまだまだ高いということを表している。繰り返すが、小田和正は現在70歳。少し先輩に当たるポール・マッカートニーは75歳、そしてミック・ジャガーは74歳ながらも精力的にワールドツアーを行っているし、小田と同い年のエルトン・ジョンやドン・ヘンリー(Eagles)も同様に活躍中だ。日本では最年長記録といっても、世界的に見ればまだまだ上はいる。今後も記録に甘んじることなく、トップランナーとして活躍してほしいと願っている。(文=栗本 斉)


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