チャイルディッシュ・ガンビーノ「This is America」MV監督、ヒロ・ムライの作家性に迫る

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2018年05月20日 17:02  リアルサウンド

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 チャイルディッシュ・ガンビーノが発表した新曲「This is America」のMVが世界的に注目を集めている。アメリカ社会を痛烈に風刺するような演出は様々な憶測を呼び、ネット上でMVに隠されたメッセージ性を読み解くリスナーが続出している。


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 同MVのディレクターを務めるのは、東京生まれの日本人映像作家のヒロ・ムライ。9歳からロサンゼルスに住み始め、映像作家としてはUSC映画学部を卒業した後、本格的にキャリアをスタートしている。これまでもチャイルディッシュ・ガンビーノをはじめ、デヴィット・ゲッタ、フライング・ロータス、A Tribe Called Questなど、錚々たるアーティストのMVを撮影。海外ドラマのディレクターとしても活動しており、海外ドラマ『アトランタ』ではゴールデン・グローブ賞(作品賞&主演男優賞)を受賞するほか、『レギオン』(第6話を監督)、『バリー』(5話と6話を監督)といったドラマ作品においても高い評価を得ている。


 海外ドラマ評論家の今 祥枝氏は、ヒロ・ムライのドラマ監督しての評価を次のように語る。


「実験的な作品が数々生み出されている昨今のドラマ業界において、ヒロ・ムライは突出した才能を持つクリエイターのひとりです。ドナルド・グローヴァーが『アトランタ』でエミー賞を受賞した際、壇上で『この作品はヒロ・ムライの作品だ』と賞賛していたのですが、彼ほど才能豊かな人がはっきりと作品を共有していると宣言するのだから只者ではないな、と。そのほかにも彼は『レギオン』や『バリー』といった最先端を行く作品に携わってきましたし、テレビ業界の中でもショーレースだけでは評価しきれない、カリスマ性を持った映像作家として認知されている印象です」


 また、同氏はヒロ・ムライのアーティストやクリエイターとの制作スタンスについても次のように続ける。


「海外ドラマの場合、脚本家やクリエイターの考えに重きを置くため、ディレクターは職業気質になりやすい傾向にある。ただしヒロ・ムライに関しては、相手からのアイデアをそのまま受け取るのではなく、自分の視点を明確に持った上で制作しているように感じます。実際、これまでのヒロ・ムライの作品も圧倒的に作家性が強いものも多い。コラボ相手とのビジョンの共有を重要視していることが伝わってきますし、お互いにインスパイアしあうような関係の中で作品を生み出しているのではないでしょうか。裏を返せば、彼のクリエイティビティを許容できる相手でなければ、一緒に作品を作ることは難しいタイプなのかもしれません」


 MVでは、チャイルディッシュ・ガンビーノがアフリカンダンスを踊る後方で、暴力、自殺、事故といった事象がひとつの画面の中で同時多発的に発生。そんなショッキングな出来事に関心を示すわけでもなく、陽気に踊るガンビーノの姿が印象的だ。そんなカオス的な状況が描かれているMVには、ヒロ・ムライのドラマにも通じる作家性が現れているという。


「ドラマにおけるヒロ・ムライの作家性は、ホラー、コメディ、シュールの3つの要素が絶妙なバランスで共存していることです。『アトランタ』や『バリー』もバイオレンス描写やダークな要素がありながらもジャンルとしてはコメディ。こういうホラーとコメディを両立する感覚は日本にはあまりないかもしれません。また、作品からはデヴィッド・リンチ、スタンリー・キューブリック、北野武、コーエン兄弟といった映画界のクリエイターの影響が感じられます。『This is America』のMVにも言えることですが、日常に入ってくる狂気、ホラーコメディ的なアプローチなど、“現実と空想の曖昧さ”(ドリームロジック)を描くのが特に上手いですよね。また、彼の中でMVとドラマは密接に繋がっています。例えば、『バリー』では銃によるバイオレンスを描いていたり、『アトランタ』シーズン2では黒人の喜びと死がテーマにある。彼の中の流れの一環として、必然性を持って今回のMVも撮影されたように感じられます」


 5月14日付のビルボートチャートで1位を獲得し、振り付けの解説動画が登場するなど、今もなお広がりを見せる「This is America」。これを機にヒロ・ムライの過去作品に触れてみるのも良いかもしれない。(泉夏音)


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