スーパーGT:「手強いおじさんに戻って欲しい」。K-tunes中山雄一が望んだ新田守男の“復活”

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2018年05月24日 11:51  AUTOSPORT web

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リザルトだけを見れば完勝だった96号車。しかし、傍からは想像もできないそれぞれの思いを載せて走っていた。新田は5年ぶりの勝利で再起を図るの一戦となり、中山は3年連続で逃していたタイトル獲りへ雪辱を果たす一戦となった
5月19〜20日に鈴鹿サーキットで行われた2018年のスーパーGT第3戦でGT300クラスを制したK-tunes RC F GT3。ドライブする中山雄一は、この勝利で「手強いおじさんに戻って欲しい」とGT300最多勝記録を更新した新田守男の“復活”を喜んだ。

 19日に行われたノックアウト予選Q2で中山が驚愕のタイムを叩き出した。これまでのコースレコードを2秒以上更新する1分55秒531。鈴鹿戦はこれまで夏の開催で、気温が低い5月の開催となれば条件的にコースレコードを更新することは分かっていた。

 ただ、中高速コーナーが連なる鈴鹿はマザーシャシーやJAF-GTといった軽いコーナリングマシンが得意としており、彼らが予選上位を独占するだろうというのが大方の予想だった。しかし、ライバルに「あのタイムは見えない」とまで言わしめ、GT3が鈴鹿で初めてポールポジションを獲得した。

 その裏側で中山の相棒、新田は苦悶していた。新田はARTA BMW M6 GT3の高木真一とともに、GT300で18勝という最多勝タイ記録を保持して今季に臨んでいた。新田と高木は2000年から10年までコンビを組み、ふたりで10勝を挙げている。

 コンビ解消後、高木は着実に勝利数を増やし、前戦富士の優勝で単独最多勝となる19勝目を手にした。一方の新田は2013年の第2戦富士以降、勝利から遠ざかってきた。

 多彩な車種、ドライバーによる耐久戦となるスーパーGTでは、複雑な要素の絡み合いが結果を左右する。ほんのわずかでも歯車の噛み合いが狂えば勝てない、厳しい世界だ。その歯車はマシンパフォーマンスやタイヤ、ドライバー、チーム力などに加え、運や気力など多岐に渡る。

 近年の新田が環境的に恵まれていなかったわけではない。事実、昨季の第4戦SUGOでは、優勝まであと一歩という2位を得ている。それでも優勝まで届かない何かを、新田は探し続けていた。

 新田はそのきっかけが、この鈴鹿戦にあると踏んだ。「僕はマイナス思考だから」と話す新田は、だからこそ自分を追い込み、決勝前夜は寝れず、胃を痛めた。

「今回、僕のミスでレースを落としていたとしたら、引退を考えたかも知れない」。これまでにない緊張感を抱えてスタートドライバーを務めた新田は、傍から見ればそんな心境を感じさせない走りで後続車を引き離し、このレースのファステストラップを刻んでみせた。

 その新田の心境を、中山とチームは感じ取っていたようだ。セオリーで考えれば、スタートドライバーを中山にして前方がクリアな状態で走らせ、予選でみせた驚愕のスピードで後続を引き離すほうが勝利に近づく。

 しかし今年の合同テストは中山があまり参加できず、新田が中心となってクルマを作ってきた。チームは新田を信じ、あえて重要な仕事を任せた。新田はその信頼に信頼で応え、中山にバトンをつなぐ。中山は新田とチームの思いを載せてRC F GT3をゴールまで運び、新田に19勝目を、今季からの新チームに初優勝をプレゼントした。

 新田がaprでプリウスをドライブしていた2012〜14シーズン、中山は鈴鹿1000kmの第3ドライバーとして、新田と同じステアリングを握っていたことがある。中山は「あのころの新田さんは手強かった。でもここ数年の新田さんは、言い方が悪いですけどライバルじゃなかった。いまのGT300には手強い大先輩がいっぱいいます。新田さんにも、手強いおじさんに戻ってほしい」と笑う。

 きっかけをついにみつけた新田、手をつけられない速さを見せつけた中山、チームワークの良さを示したK-tunes Racing LM corsa。がっちりと噛み合った歯車は、ここからさらに加速していく。

■auto sport 2018年 6/8号 No.1482

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