豊川悦司、永野芽郁たちを導く“師匠”に 『半分、青い。』秋風役のブレない両面性

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2018年06月22日 06:02  リアルサウンド

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 迂闊だが失敗を恐れないヒロイン・楡野鈴愛(永野芽郁)が、一大発明を成し遂げるまでの物語を描く連続ドラマ小説『半分、青い。』(NHK総合)。現在放送中の東京編では、漫画家デビューを果たした鈴愛の奮闘ぶりが見どころである。そんな東京編になくてはならない存在が、鈴愛の漫画の師匠である秋風羽織(豊川悦司)だ。


参考:永野芽郁と佐藤健は再び交わるのか? 『半分、青い。』独特な“過去”の扱い方から読む


 秋風は多数の人気作品を生み出したプロの少女漫画家だが、その正体は偏屈なオッサン漫画家である。東京へやってきたばかりの鈴愛と衝突することもあったが、漫画に一切の妥協を許さない姿勢が鈴愛を成長させていった。


 秋風を演じる豊川は、1989年から俳優として活躍。『半分、青い。』の舞台となる90年代の映画やドラマに数多く出演している。1995年に放送されたドラマ『愛していると言ってくれ』(TBS系)では耳の不自由な青年画家を演じ、多くの視聴者を虜にした。ミステリアスな印象と抜群の演技力で独特の存在感を発揮する豊川だが、数ある作品で演じてきたクールな役どころとは違い、漫画に対してすさまじい熱を放つ秋風を“怪演”している。


 秋風は「興奮すると河内弁が出てしまう」「タメになる話を語っていると言葉を遮られ、最後まで話ができない」など、コミカルな役回りでもある。しかし注目すべきは、秋風が立ち上げた漫画家養成塾「秋風塾」の塾生に向ける熱いメッセージや想いにある。


 鈴愛やユーコ(清野菜名)、ボクテ(志尊淳)にアシスタントの仕事を託しながら、漫画家になるためのノウハウを熱く教える秋風。秋風の漫画にかける情熱を、豊川はコミカルな演技を維持しつつも真摯に演じる。秋風の想いに答えようと懸命に漫画と向き合う鈴愛たちとの関係には、胸を打たれるものがある。鈴愛が失恋や律(佐藤健)との別れに涙したときには「泣いてもいいから描け。漫画にしてみろ」と熱弁し、ボクテが鈴愛の作品を盗作した際には「お前は、楡野のアイデアをパクったばかりか、『神様のメモ』の息の根を止めたんだ」と怒りを見せた。


 秋風の嘘偽りのない言葉は弟子たちの心に響く。例えばボクテは鈴愛の作品を盗作したことで破門されたが、彼は“師匠”として秋風を慕い続ける。秋風もまた、破門を撤回することはなかったが、彼の才能を認め、影ながら応援し続けていた。


 6月20日放送の第69話では、秋風が見せた表情が魅力的だ。漫画家としてデビューした鈴愛とユーコ。しかし連載が始まっているにも関わらず、物語のアイデアが浮かばない。特にユーコは人気が落ちていることもあいまって、漫画家としての自信を失っていく。第69話で、鈴愛は「ユーコを励ましてほしい」と売れっ子漫画家になったボクテと喫茶店で会うのだが、たまたまそこへ秋風もやってくる。かつて破門した弟子との再会にたじろぐも、秋風もボクテに「ユーコが漫画家を続けられるように手回ししてくれないか」と頼み込む。


 苦手な人物との関わりを避け続けてきた秋風が、かつての弟子に頼み込む姿には感じるものがあった。鈴愛、ユーコ、ボクテにある漫画への確かな才能を信じているのだろう。


 結局、ユーコは漫画家の道を歩むのを辞め、交際相手との結婚を選んだ。ユーコは秋風と対面し辞めることを告げるが、秋風の表情は穏やかだった。漫画家を続けろと説得するのではなく、ユーコ自身が下した決断を尊重する。秋風は、ユーコに漫画を諦めてほしくなかったかもしれない。しかし豊川は、秋風の本心を吐露するのではなく、真摯に弟子と向き合った秋風を尊重して演じたように見える。漫画を描き続けられなかったことを嘆くのではなく、今まで向き合ってきた漫画への熱を後悔させないよう、柔らかな表情でユーコに言葉をかける秋風の表情は、師弟愛そのものを描いていた。


 『半分、青い。』公式サイトのインタビューにて、豊川は秋風について「大人であり子ども、クールでありホット、といった両面性を持っている印象を受けますね。その出し方、さじ加減が、なかなか難しいところです」と答えているが、その両面性がブレたことは決してない。イキイキと秋風を演じる豊川に、共演者も安心して演じられるに違いない。


 今後、鈴愛も秋風塾を立ち去ることになるのだろう。しかし鈴愛にとっても、ユーコやボクテにとっても、秋風が“師匠”であり続けることに間違いはない。回を追うごとに、秋風演じる豊川の目が、鈴愛たちの人としての成長を見守る父親のように見えてくる。(片山香帆)


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