島爺、勝負曲尽くしで“バンド”の力量発揮したツアー最終公演 敬老の日スペシャルライブ開催も

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2018年06月25日 13:51  リアルサウンド

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 島爺の全国ツアー『爺さんぽ〜冥土の国から’18春〜』の最終公演が6月24日、東京・新木場STUDIO COASTで行われた。


 ステージには「三途川」と書かれた橋。冒頭、その橋の上に登場した島爺が、アコースティックギターをかき鳴らす。徐々にボルテージを上げていくその曲は、ツアーをイメージして作られた「はじめに」だ。その勢いのまま「ムーンウォークフィーバー」、「ブリキノダンス」と、日向電工作の人気曲を披露し、フロアは一気に沸点を超えた。


 「島爺です。よろしくお願いします」ーーそう叩きつけるようにシャウトした島爺は、続けて、昨年11月に“歌ってみた”動画を公開した「バカをやるなら」(しぇろ/大トロP)を披露する。「ブリキノダンス」で満員の“孫”たちを躍らせた後、さらに<バカをやるなら今でしょ!? >と煽る、アグレッシブなセットリストだ。同時期に動画が公開された「天才ロック」(カラスヤサボウ )と、島爺自身が「ライブでやるしかないやん」と語ったハードな楽曲が続く。


 観客をクールダウンさせるように、歓声に応えながら、会場の隅々にまで目を配る島爺。その後、ステージセットの意図について、「ライブハウスで、全員で爆音にまみれている時間というのは、現実離れしていて、“この世じゃない感”があるなと。でも、俺らは別に死んでないから、あの世でもないし、この世でもないーー三途の川やと。普段の生活で溜めに溜め込んだどす黒いもの全部、三途の川で洗い流して帰ってください」と語った。ハードな楽曲が立て続けに披露された直後とは思えない、観客達の「はい!」といういい返事。気鋭のクリエイターによる尖った楽曲のオンパレードと、この和やかなムードのギャップが、島爺のライブの大きな魅力だ。


 島爺はさらに、「今日はお客さんと、メンバー(という分け方)じゃない。この空間におるやつ、裏方さんも含め、全員“チーム島爺”やから。死ぬほど楽しい1日になるかどうか、全員にかかってるんで、OK?」と煽る。その後、ファンには少し懐かしい、「トロイメライン」(miro)、「才能シュレッダー」(ナナホシ管弦楽団)と、2013年に動画をアップロードした2曲を披露した。


 特に、盟友・ナナホシ管弦楽団による「才能シュレッダー」は、BPM280という、生身の人間が再現することを拒むような難曲だ。島爺は「人間でできるんかな、と不安でしたけど、見事にバケモノのようなメンバーがやってのけました」と一言。昨年6月の1stライブ『冥土ノ宴』(赤坂BLITZ)から、島爺を支え続けてきたギターのヨティ、ベースのMIYA、ドラムのSHINJIというバンドメンバーとの信頼関係、コンビネーションは充実の仕上がりを見せており、これまでのライブで最も“バンド感”が伝わってくるライブが展開された。


 懐かしい楽曲の後には新曲をと、続いて披露されたのは蜂屋ななしが島爺のために作った最新曲「世余威ノ宵」(よよいのよい)。その後、島爺は“孫”たちから送られたステッカーで飾られたアコギを手に取り、恒例の弾き語りタイムに突入した。


 まずは、マッハ人生による名曲「ままならない人生」。<このままじゃ 僕 いつか 死ぬか 殺すかしてしまいそう なんの意味もない 自分も騙せない歌>と、深い悩みを抱えた人たちに突き刺さる歌詞が印象的だが、その歌唱には、泣きたくなるような切なさとともに、確かなあたたかさがある。島爺は「聴いたときに揺さぶられて、何度も練習して録音したけれど、本家様の方が数倍いい。動画をあげるのが目標の曲です。あとで(本家の)再生をお願いします」と、制作者へのリスペクトを忘れなかった。


 さらに、2月に開催された『島爺アコースティックライブ 生爺〜アコギノ宴〜』のために制作したという、歌うことの意味を問うような一曲「生爺のテーマ(仮)」を歌い上げる。そして、「みなさんのおかげで、“トゥァ”の全会場で、愉快なライブができました。無事ファイナルを迎えることができましたが、失敗もいっぱいあって、いいことばかりではありません。でも、失敗やら挫折やらを含めて楽しめてるなと、最近はよく思います。過去は変わらへんし、未来は分からない。俺らにどうにかできるのは“今”だけなので、今に集中して、感謝を込めて、後半戦、始めます」と宣言した。


 「かくれんぼ」(buzzG)、「月陽-ツキアカリ-」(みきとP)、「白亜の罪状」(やまじ)と、いずれ劣らない人気曲を披露し、「ニコニコだけじゃなく、メジャーでも戦える名曲たち。まだまだ“ボカロ曲”というくくりで過小評価されている感じがするので、微力ではありますが、歌い手としてそれを変えていくお手伝いができたら」と語った島爺。「僕らだけじゃなく、君らにもしんどい思いをしてもらおう。踊りましょうか?」と、ナユタン星人のデジタルロック「太陽系デスコ」、「エイリアンエイリアン」でフロアを熱狂させた。


 ここでゲストのナナホシ管弦楽団が登場。アニメ『デジモンユニバース アプリモンスターズ』の主題歌としてヒットを記録した「ガッチェン!」を熱演した後、さらにアニメ『少年アシベ GO!GO!ゴマちゃん』より、アシベとゴマちゃんが登場し、観客を和ませた。演奏されるのはもちろん、同アニメのエンディングテーマ「ゴマウェイ」だ。


 ここで、“孫”たちから島爺へのサプライズが。「ゴマウェイ」の演奏がスタートした瞬間、一斉にペンライト&サイリウムが点灯し、フロアがオレンジ色に染まった。これには島爺も「びっくりしたよ。ありがとう。あとで泣いとくわ(笑)」と照れながら、感動を隠せなかった様子だ。「ガッチェン!」も含め、どちらも爽やかな印象が強い王道のアニメソングだが、ハードが楽曲が多いライブに何の違和感もなく馴染んでいるのが面白い。


 ナナホシの「みんな、オレンジ持ってきてくれたしね、まだ振りたいですか?」という言葉とともに、もう一人のスペシャルゲスト、人気声優で、8月1日にシンガーとしてソロデビューを果たす尾崎由香が登場。「尾崎由香こと、ゆか爺です!」と挨拶し、『少年アシベ』のオープニングテーマ「LET’S GO JUMP☆」を歌い、横でジャンプする島爺は「歌うよりしんどい」とヘトヘトになっていた。


 ナナホシ、アシベ&ゴマちゃん、尾崎がステージを去り、島爺は「ツアーが終わったら、また面倒くさい現実が待っております。言うことをちゃんと聞いていたら“おとなしすぎる”と言われ、ちょっとやる気を出せば“最近の若者は”と言われ、面倒くさいわな。そういうどうでもええ世界に無理に合わせる必要はございませんので、ひとりひとり、自分のルール、美意識に従って生きてください」とメッセージを送る。合わせて、「基本的に面倒臭い事嫌い」(KRY? )を披露し、本編最終曲は、歌って踊って騒げるキラーチューン「インターネットがなかったら」だ。観客は全力のコールで応え、まさに大団円を迎えた。


 鳴り止まないアンコールに応え、再びステージに登場した島爺は、ツアーの恒例となっている語りに入る。「生まれて、生きて、死ぬ。それ以外はオプションだ、という話を全国でしてきました」と島爺。「病気になると健康な状態ってめちゃくちゃ幸せだったと気づくし、大事な人がおらんくなったら、おっただけで幸せやったなと気づく。自分の内側に幸せな理由をいっぱい持っているのに、持っていないものを求めて、外側からなんぼ持ってきても、何も変わらない。向上心を持つことはすごくいいことやけど、それはオプションで、みんなもう幸せなんやと言うことに気づいてほしい」と、孫たちにメッセージを送った。


 最後は、すっかりライブの人気曲になった「なんで生きてんだろうってすげえ思うんだ」(ヘルニア)をマイクなしの弾き語りで披露した島爺。<死にたくなったら笑おうぜ>のフレーズが、先ほどのメッセージと呼応するように、胸にしみる。


 島爺のライブは、一曲一曲が、各クリエイターの“勝負曲”であり、表現の密度が異様に濃い。楽しさも、切なさも、悲しさや救いのなさも、強いメッセージとして伝わってくるが、それらすべてがあたたかいものとして胸に届くのは、島爺というアーティストの特性によるものだろう。“三途の川”で日頃の憂さを洗い流した果てに残ったのは、島爺が「みんなの内側にある」と語った幸福感だった。


 さて、そんなライブの最後に、9月17日の敬老の日に行われるスペシャルライブ『島爺 敬老の日スペシャル 〜永敬爺82〜』(日本教育会館一ツ橋ホール)が決定したという、いわば“幸福の追い打ち”があった。“持ち曲”も際限なく広がっているなかで、次のステージではどんな曲が披露され、どんなメッセージが届けられるのか。島爺の“言いつけ”に従い、本ツアーで披露された楽曲のオリジナル版をチェックしつつ、3カ月後を楽しみに待とう。(取材・文=橋川良寛)


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