浦島坂田船が飛躍を遂げた理由は? “現代のスタイル”で届ける人気獲得に不可欠な要素

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2018年07月16日 10:02  リアルサウンド

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 最新のオリコンチャートによれば、浦島坂田船の最新アルバム『V-enus』が週間売上55,364枚を記録し首位をマークした。宇多田ヒカルが2週連続で1位を記録するかと予想された週であったが、前作から大幅に売上げを伸ばした彼らが見事に1位を獲得する結果となったのだ。前作『Four the C』の初週売上はおよそ2.9万枚。つまり、成長率約89%という驚異的な数値を叩き出したことになる。ここまでの飛躍を遂げた彼らの人気はいったいどこにあるのだろうか?


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■個人配信で着々と人気を獲得していくのが現代スタイル


 浦島坂田船は2013年に結成された4人組の歌い手ユニット。全員がニコニコ生放送などで個人配信を行ういわゆる”生主”であったという経緯がある。当時からすでにそれぞれが人気だったようで、配信活動はデビュー後の今現在も続いているようだ。彼らが投稿する動画は「声真似」や「ゲーム実況」「歌ってみた」といったジャンルがメインで、歌う曲は「千本桜」などのボカロ曲からRADWIMPS「前前前世」、NEWS「チャンカパーナ」まで幅広い。新作アルバムには「secret base 〜君がくれたもの〜」のカバーも収録されている。配信活動やこうした投稿動画の評判が人気に繋がっているポイントと言えそうだ。


 世界的に見ればYouTuberと呼ばれる人々が存在感を増し始めた昨今、時を同じくして日本でもフィッシャーズのような国内屈指の人気を誇るユニットが頭角を表しているが、ニコニコ生放送というドメスティックなプラットホームでも同様の現象が起きつつある。


 音楽業界にもその波は届いていて、近年ではGoose houseを筆頭に、ネット配信を活動の主軸としたアーティストの登場はなんら珍しいことではない。また近頃、新宿など都市部の駅周辺を歩いていても弾き語りをしている若者が以前と比べれば減った印象があったが、それもそのはずで、今はスマートフォンひとつあれば世界に発信できる時代である。ネット配信者は、現代版のストリートミュージシャンと言うべき存在だ。彼らのように地道なネット配信でファンを拡大させていくのが現代のスタイルなのだろう。


■4人が集まることで生じる”クルー感”


 4人がこのユニットを組んだのは彼らが個人としてすでにファンを掴んだ状態であった。結成される前からしばしばコラボレーションをしており、グループ発足時はファンからも「ついに!」という声が多かったようだ。しかし、メジャーデビューから数年が経っている今でもなお売り上げを大きく伸ばしている事実は、今現在の活動も確実にコミュニティの外側にアプローチできる訴求力を持っていることに他ならない。例えば、Twitterを覗けばメンバー同士の仲睦まじい様子を捉えた自撮り画像がアップロードされていたり、メンバー間の無邪気なやり取りが確認できる。こうした「メンバー同士の絆」は現代の男性グループにとっては最重要項目だ。


 また個人々々が頻繁にツイキャスを行っていたり逐一の告知も欠かすことはない。こうして一人ひとりが個人活動を活性化することで、4人が集まったときの”クルー感”はファンにとっては格別なものだろう。中には声優活動をしているメンバーもいる。今回の飛躍は、個人活動をグループに還元していくサイクルが実を結んだ結果だと言えるのではないか。


■ライブ活動による生の交流のレア感


 彼らの活動は「声」が主体である。こと彼らに関しては「声真似」のクオリティの高さや「歌ってみた」で見せる歌唱力が人気の土台となっている。もちろん、彼ら自身が多くの人々を惹きつけるビジュアルの持ち主であるというのも大きい。にじみ出る人柄の良さも人気の秘密だろう。自撮りを公開することはあっても基本は顔部分を隠していたり、スタンプを使って分かり難くしたりすることで「生で会ってみたい」という感情を誘い、ライブまで足を動かす強い動機に繋げている。日常的に行う配信活動では彼らを身近に感じ取ることができるが、逆に、生で会うことのできるライブにはレア感が生まれる。こうした好循環が生まれているのではないだろうか。


■作品を通じてファンを広げる


 グループの歴史としても非常に大きかったのが昨年4月から6月まで放送されていた、ミュージカル学科の男子学生たちを描いた人気アニメ『スタミュ』第2期の主題歌「SHOW MUST GO ON!!」の歌唱を担当したことだろう。その際にはFourpeという架空のユニットをわざわざ作り出して歌っているが、その理由について彼らは同曲発表に際して「作品の世界観に沿った参加が出来ないかと、メンバーやスタッフみんなで相談しました」と残している。こうしたユーザー目線の配慮の形が、若者の共感を呼ぶのかもしれない。


 また、今回の新作には前作に引き続き多種多様な作家陣が楽曲を提供している。まふまふやHoneyWorksといったネットシーンの中にいながらもJ-POPというひと回り広いフィールドで活躍しつつある作家陣の起用が光っている。10曲目「ギャラクシー」の作詞曲がKEYTALKの首藤義勝なのはまさに象徴的。こうした姿勢もグループの飛躍を支えているポイントに繋がっているだろう。


■すべてを現代的な形でこなす


 ただし、今まで挙げてきたようなことは現代の芸能活動においては基本であるように思う。ファンとの地道な交流、グループの絆、ライブにプレミアム感を出すブランディング、さまざまなクリエイターとのコラボレーションによる外部訴求……。これらの項目を単体で見たとき、それは他のアイドルやアーティストも同じように持ち合わせているものである。


 であれば彼らの人気の秘訣は、こうしたひとつひとつの基本をすべて堅実にこなしているからではないか。そして、それらすべてを現代的な手段・形で行えているというのが、今彼らが多くの若者の心を掴んでいる理由なのだろう。(荻原 梓)


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