『ペンギン・ハイウェイ』石田祐康監督に聞く作品の魅力とデジタル制作秘話

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2018年08月18日 20:02  マイナビニュース

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●アニメ制作におけるデジタルツールのメリット
『夜は短し歩けよ乙女』、『有頂天家族』など、数々のベストセラー作品をもつ森見登美彦氏が描く小説『ペンギン・ハイウェイ』(KADOKAWA刊)。少年の一夏の成長を独特の世界観で瑞々しく描き、多くのファンに支持され続けている作品が、気鋭のアニメーションスタジオ・スタジオコロリドによりアニメーション映画として生まれ変わる。

本作の監督を務めるのは、同スタジオに所属する石田祐康氏。学生時代に"デジタル"によるアニメーション制作に惹かれ、今でもこだわり続けている新進気鋭のクリエイターが、本作で劇場長編作品の監督デビューを飾る。今回マイナビニュースでは石田監督にインタビューを敢行。作品にかける思いのほか、監督が感じる"デジタル"の魅力と可能性を訊いた。

――映画『ペンギン・ハイウェイ』のほか監督はこれまでも多くの作品を手掛けられていますが、そもそもアニメ業界に就職しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

仕事にしたいと思うようになったのは高校生の頃でした。もともとアニメは好きでしたし、中学生のころはスケッチブックに一枚絵を描きまくって楽しんでいましたが、仕事にするとまでは思っていませんでした。

――高校になって業界を目指したいと思うようになったのには何か理由が?

美術系の高校に入学してデッサンや彫刻など純粋美術を学んでいたのですが、高校三年生で何を中心に学んでいくのか、専門のコースを選ぶタイミングがありまして。その時に僕はデザインコースを選んだんです。デザインコースは自由度が高すぎて、ぶっちゃけ何をやっても「これがデザインだ!」と言えなくもないところだったんです(笑)。

――自由に作品を創作できたんですね。

そうですね。例えば僕は自由に物を作れる授業で、家にあるレゴブロックを持ち込んで塔を作った。あとひとつブロックを積めば天井につく3メートルくらいのものを作りました。そうやって作品と称して遊んでいましたよ(笑)。

――そういう自由な発想がいまの監督を生んだと考えると、その授業はきっと間違っていなかったんだと思います(笑)。

そうですか(笑)。話を戻すと、それくらいいろいろなことを許容してくれるコースで、卒業制作としてアニメ作品を作ったんです。その前には地元で映像を作る講座が開講されていて、そこがアニメを作り始めるきっかけになったともいえます。振り返ってみると、こういった経験を生かし、没頭してアニメを作ることができたのが業界を目指すきっかけになったのかもしれません。

――なるほど。中学生のころはスケッチブックにイラストを描かれていたとのことですが、監督はこれまで多くの"デジタル"作品を手掛けられています。"紙"ではなく"デジタル"に惹かれたのはいつ頃だったのでしょうか。

どこまで関係があるのかは謎ですが、元々メカが大好きなんです。自分で好きなパーツを組み合わせて人型メカを作る『アーマード・コア』というゲームがあるのですが、これが好きでして。自分で組み立てていじるのが好きなんでしょうね。デジタル制作に関しても、高校一年の時にワコムさんのFAVOを友達から借りたり、三年の時には兄からお下がりのPCとIntuos3をもらってデジタルツールの機能をいじくりまくって自分が使いやすいよう組み立てていました。それがとにかく楽しくて! そういうガジェット好き、メカ好きというのが"デジタル"での制作をやっていくひとつの取っ掛かりだったとは思います。

あとはデジタルツールを触り始めたタイミングで、押井守監督や今敏監督などが作られた濃密でハイクオリティな作品に触れて憧れを抱きつつ、当時から盛んに公開されていたネット上のFLASHなどで作られた自主制作アニメにも相当感化されていました。

――そこがルーツなんですね!

高校の卒制で「After Effects」という映像ソフトを使ってみたのですが、ハウツー本みたいなものが特になく、インターネットのレビューや記事などを読んで紐解いていき、機能一つ一つを知っていきました。それが本当に楽しかったですし、未知の可能性を感じたんです。使うソフトやツールの設定・組み合わせ次第で、自分が大好きだったあの濃密な劇場作品のような画を作れるんじゃないかというイメージも湧きました。本当に『アーマード・コア』と同じ要領で、最強のメカを作るためにパーツを選んで組み立てているような感覚ですよ。

――そういった経験を生かして京都精華大学マンガ学部時代には第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞など数々の賞を受賞した『フミコの告白』を手掛けられ、今では「スタジオコロリド」の一線級として活躍されています。

『フミコの告白』は液晶タブレットの「Cintiq12」を買って、いわゆる"デジタル作画"を本格的に始めた時期ですね。その頃には絶対にアニメ業界で働きたいと思っていましたし"デジタル"へのこだわりも相当強かったので、いま"デジタル"を中心としたアニメーション制作ができる環境で働けているのは本当にありがたいです。

――ほかの制作会社さんと比べてスタジオコロリドさんならではの特色はございますか?

ほかの制作会社さんの状況を深くは知らないので何とも言えませんが、全体の8割近くがまだ紙が中心だと思うので、デジタルメインなのはやっぱり珍しいと思います。あとは中核メンバーのほとんどが僕と同世代もしくは年下で、同じソフトやツールを使った経験がある人が多いことですね。規格を統一できるのはデジタルでアニメーション制作するうえで非常に重要です。そういう点においては『ペンギン・ハイウェイ』では苦労した気がします。

――どのように苦労されたのですか?

今回、長編アニメーションを作るうえでどうしても外注する必要があり、外の制作会社の方やアニメーターの方々にご協力いただきました。そうなると先ほども言った通り、まだほとんどが紙をメインで仕事されている方が多いので、紙とデジタルの両方を使って制作していかなければならなかったんです。また、デジタル制作ができる方も同じソフトやツールを使っているわけではなく、それぞれが使っているものを扱えるようになる必要がありました。そうしないと、ちゃんとチェックができないので。

――同じデジタルでもツールによって違う?

自分が理解していないと指示も正確にできませんから。本作でいえば「Stylos」「CLIP STUDIO」、今回から導入した「TV Paint」、そして紙、絵コンテには「Storyboard Pro」を使いました。今回はカット毎に紙とデジタルどちらにするか割り振って混乱しないよう調整し、僕をはじめとする中核のメンバーが未開拓だったソフト・ツールの使い方を覚えたので何とかなりましたが、今後フルデジタルの作品を作るうえでは課題になりそうです。

――まだまだ紙が主流というお話がありましたが、そんななかでもデジタルツールを使ったアニメーション制作ならではの魅力とは何でしょうか?

紙からデジタルに移行した人が言っていたことの一つは、レイヤーが使えることです。レイヤーが使えると何重にも描けてやり直しもしやすいんだと思います。ただ、本当は何枚も重ねちゃいけなくて、紙に近い形で一枚にするのが本来はいいのかなと思います。というのも途中の工程で各自が自由にレイヤーを使うのはいいのですが、別れた状態のままチェックする側としては、見るべき点が増えてしんどいんですね。だから、チェック提出時には一枚にしたほうが基本良いですね。もう一点は一連の動きをプレビューで即座に見られることだと思います。これは僕としてもデジタル制作をするうえで一番の利点だと感じている部分です。

――一連の動きをプレビューで見られたら実際にどうやって動くのか自分の目で確かめられるし、イメージもわきやすいですよね。

そうですね。これは経験を積まれているベテランの方にとっては不要なことだとは思うのですが、まだまだ自分が描いた絵がどう動くのかつかめない新人にとっては助けになると思うんです。ただ、それにおごってしまうのもよくないですし、こだわりすぎて時間をかけてしまうという可能性もあります。このように決してメリットばかりではないと思いますが、使い方をわきまえさえすれば心強い。デジタルに魅せられた自分としてはこれからもデジタルでのアニメーション制作にこだわっていきたいと思っています。

●あえて説明をしていない表現や言葉もある

――制作の裏側までお話いただきありがとうございました。そんな制作状況のなかで作っていった「ペンギン・ハイウェイ」。そもそもなぜこの作品を映画化したいと思われたのでしょうか?

鳥が好きで、以前も鳥がたくさん出てくる短編アニメーション作品『陽なたのアオシグレ』を制作しましたが、唯一飛ばない鳥・ペンギンは描いていなかった。そういう背景があるなかでこの原作と出会い惹かれていき、これを映画にしたいと思うようになったんです。

――では、原作を忠実に描いている?

原作を尊重しつつも映画ならではの解釈に変えている部分もあります。例えばオープニング。ペンギンが町の中を歩いているところをただカメラが追っているという表現は完全にオリジナルです。また後半でペンギンが走り回るシーンも独自のものですね。そういう映画なりのアイデアが入っているので、原作を知らなくても楽しめるものにはなっていると思います。

――原作では難しい用語が多々出てきますがこの点は?

用語については原作の森見登美彦先生が「わからない部分も大切にしたい」とおっしゃっていましたし、僕自身もそこは重要だと感じていましたので、ある程度分かりやすくしているところもあれば分からないままの表現にしているところもあります。説明をつけるとつまらなくなると思い、あえて絵だけで勝負したシーンもあります。そこは映画の見どころでもあると思うので、どこを変えて、どこが変わっていないのかは劇場でチェックしていただければと思います!

――それ以外の見どころについてもぜひ監督の口から語っていただければと思います。

ひとつは主人公であるアオヤマ君の変化が挙げられると思います。今回自分は重点的に表情をチェックしていたので、作品全体を通した変化や線一本分の差レベルの描き分けに挑戦しています。本当にほんのちょっとのことで変わりますから。キャラデザイン、作画監督ともにみんなで苦労してますよ。アオヤマ君は感情の起伏が少なめの中で頑張ってます。あとは細かいところで言うと、ラストのほうではアオヤマ君の髪の毛が若干伸びていたり……そういう細部までこだわっているのでぜひ注目していただきたいですね。

――アオヤマ君は声優に北香那さんが起用されています。北さんはアニメーション映画への声の出演は初となると思うのですが、彼女を起用した理由は?

まずシンプルにオーディションでの北さんのお芝居が上手だったのと、また少年の純真なまっすぐさも表現できていたことです。選ぶときの意見としてはもうちょっとひねくれていても、とか、マニアックな変態性も欲しいという意見もありましたが、純粋にまっすぐ突き進む少年像をいちばんに求めていたので、彼女を起用しました。

――お芝居の面でいえばお姉さん役の蒼井優さんの演技も絶妙です。語尾だけで変化をつけるなどはさすがの演技力だと感じました。

そうですね。演者としても女性としても惹かれる方だと感じたので、今回お姉さん役を演じていただけて本当によかった、バッチリだったなと感じています。

――作り終えたいまは率直にどのようなお気持ちですか?

よく分からないというのが正直なところです。というのも、規模感がでかくて自分の目に見えないところ、手に届かないところもあったので、実感を咀嚼するのにも時間を要するのかなと……。ただ、一生大切にしたいと思える作品にはできたと思っています。あとは蓋を開けてお客さんに見ていただかないとわからないですね(笑)。

――ここまでお話いただきありがとうございました。最後に読者の皆様にメッセージをお願いします。

子供が見たらわけがわからないシーンや言葉などがあるかもしれませんが、わけがわからなくても見てもらいたいというのが僕の気持ちです。そのわけのわからなさからくる未知感や怖さなど、酸いも甘いも描きたかった。そういう作品も必要だと。ぜひお子さんにも見ていただきたいです。また、少年時代を謳歌したお父さん世代にもいろいろと感じる部分がある作品に仕上がっていると思うので、親子で劇場に足を運んでみてください。

また、本作は原作を尊重しつつも自分の作品にできたかなと感じています。原作者の森見先生からは先ほどの「わからない部分も大切にしたい」ということと、実際の要望としては「アオヤマ君は天才少年」ということのみで、あとはほとんどお任せいただいておりました。その点は本当にありがたかったです。自分が大切にしたいと思える作品に仕上がったので、ぜひ皆さんに見ていただけると嬉しいです。感想もお待ちしております!

プロフィール
石田祐康(いしだ・ひろやす)
1988年、愛知県知多郡美浜町に生まれる。愛知県立旭丘高等学校美術科に入学。在学中にアニメーションの制作をはじめ、2年生の時に処女作「愛のあいさつ−Greeting of love」を発表。京都精華大学マンガ学部アニメーション科に進学し、2009年に発表した自主制作作品「フミコの告白」は、第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞、2010年オタワ国際アニメーションフェスティバル特別賞、第9回 東京アニメアワード学生部門優秀賞など数々の賞を受賞。2011年に同大学の卒業制作として発表した「rain town」も第15回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門新人賞などを受賞。2013年、劇場デビュー作品となる「陽なたのアオシグレ」は、第17回文化庁メディア芸術祭にてアニメーション部門の審査員特別推薦作品に選出された。2014年にはフジテレビ系ノイタミナの10thスペシャルアニメーション「ポレットのイス」を制作。(M.TOKU )

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