浅田舞が語る、“献身的な母”の別の顔――「親不孝だったのでは」と言う彼女に思うこと

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2018年10月19日 00:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

『浅田舞写真集「舞」』(集英社)

羨望、嫉妬、嫌悪、共感、慈愛――私たちの心のどこかを刺激する人気芸能人たち。ライター・仁科友里が、そんな有名人の発言にくすぐられる“女心の深層”を暴きます

<今回の有名人>
「母は寂しかったりしたんですか?」浅田舞
『木村藤子のキセキ相談SP』(フジテレビ系、10月16日)

 『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に、平昌パラリンピックの男子スノーボードバンクドスラローム金メダリスト・成田緑夢選手が出演した回を見たことがある。

 もともと成田選手は、世界選手権にも出場するほどのフリースタイルスキーの名手だったが、練習中にケガをして左足に障害が残ってしまう。そこから障害者スポーツに取り組むようになり、メダリストになるという“いい話”を披露したのだが、まったく“いい話”だと思えなかったのが、親にまつわるエピソードである。

 成田選手の父親は、成田選手やその兄弟に、小さい頃から水上スキーで琵琶湖を横断させたり(食事も水中で食べる)、子どもだけでキャンプさせるなど、はっきり言って「これ虐待なんじゃないの?」というレベルの“教育”をしている。しかし、何かとクレームがうるさい昨今だが、炎上することはなかった。なぜなら、成田選手が世界選手権の日本代表に選ばれるという“結果”を出しているからである。傍から虐待まがいに見えても、結果が出ていれば「子どもを伸ばす教育法」「常識をぶち破る画期的な教育」と褒めそやされるのが世の中というものだ。

 世界選手権よりももっと大きいお祭り、オリンピック。その選手の母親は“献身的”の代名詞でもある。世界選手権で何度も金メダルを獲得し、バンクーバー五輪では銀メダルという輝かしい“結果”を残した浅田真央。「女性セブン」(小学館)によると、真央の現役時代、母が娘の練習を1日20時間見守ることもあったそうだ。また、母は真央の筋肉のこわばりをほぐすため、毎晩独学で勉強したマッサージをしてあげていたという。

 忍耐深く献身的――「女性セブン」や朝日新聞は、オリンピック後にいかに真央の母が、日頃からその活躍に貢献してきたかの“秘話”を報じたが、別の一面を明かしたのが、真央の姉であるタレント・浅田舞だった。10月16日放送の『木村藤子のキセキ相談SP』(フジテレビ系)で、母親とのすれ違いを告白したのである。母のことを、自分が敷いたレールから娘が外れようとすると、容赦なく切り捨てる人だと、舞は感じていたそうだ。フィギュアスケートの世界で先に頭角を表したのは舞だったが、思春期を迎え、学校行事も参加できないほどスケート漬けの毎日に疑問を感じるようになり、練習をさぼるなどして母親との衝突が絶えなくなっていく。女性アスリートは思春期の体重管理が難しいと言われ、そのせいか舞は拒食症を発症。一方の真央は世界ジュニア選手権で優勝するなど、将来のメダリスト候補として注目されるようになっていく。家に居場所のない舞は、夜遊びを始めるが、母親は舞の精神面を慮ることはせず、「真央には迷惑かけないで」などと、真央もしくは世間体を気にしているかのような言葉を投げかけたという。

 母と娘の精神的な距離は縮まらないうちに、母は40代の若さでこの世を去ってしまう。同番組では、早すぎる死の前に、母が舞に残した「ごめんね」の真意を、スピリチュアルメッセンジャー・木村藤子が解説していたのだが、木村によると、「お母さんは娘たちを幸せにしたい、スケート選手として成功させてあげたいという気持ちから、舞に厳しく接してきたことを『ごめんね』と謝罪した」そうだ。舞の祖母も、情緒的なやりとりが苦手なタイプで、母もどう子どもに接していいのかわからない部分があり、悪気はなかった……と説明した。

 悪気がないなら、何をやってもいいのかと言いたいところだが、それはさておき、舞の発言にはうっすらとした自責が漂っているように感じた。例えば「自分は親不孝だったのではないか?」というのは典型だし、「母は寂しかったりしたんですか?」も、それに当たるのではないだろうか。

 一般的な親子関係の中で育った人は、母親を思いやっての発言に思えるかもしれないが、ある種の母親を持つ人は、「お母さんがさみしかったり、つらかったり、幸せでないのは自分のせいではないか?」という問いを常に抱えている。それは、母親に理不尽につらく当たられる意味がわからないので、「私が悪いから」と解釈し、自分を納得させてきたためなのではないか。

 しかし、健康的な母娘関係では、娘が母親の精神状態にいちいち気を配ることはないと私は思っている(逆にいうと、母親のメンタルに常に娘が気を遣うのは、不健康な関係ともいえる)。なぜなら、うれしいも寂しいも、感情というものは個人の持ち物であり、娘が母親を気遣って癒やす必要はないと母娘とも知っているからだ。

 木村いわく、お母さんは舞に「スケートは合わない」と思っているらしい。その発言が本当なのかどうか私には知る由もないが、全日本選手権の常連だった娘にダメ出しをするのが、舞の母らしいと言えばらしい。母にとっての「スケートが合う人」とは、オリンピックでメダルが取れる、真央のような人のことを指すのだろうから。

 そんな母に囚われ続けているように見える舞に言いたいのは、フィギュアスケートの楽しみは、競技会ばかりではないということだ。アイスショーもあるし、その裏方の仕事だってある。舞はスケートを再開したそうだが、舞の演技を見たいと望むファンもたくさんいるはずだ。真央と比べる必要はない。

 ……なんて正論は本人の心に届かないことも知っている。自分の好きなことを見つけて、未来に向かって歩き出すのが、お母さんの記憶から離れる有効手段である。どうかゆっくり頑張ってほしい。

仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。著書に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)『確実にモテる 世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。
ブログ「もさ子の女たるもの

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